第2話 三日月様

過去を振り返ってみると、私の家庭環境は他とは違うみたいだった。


日本にいた頃の幼少期を一つずつ紐解いてゆくと、まあまあパンチのある思い出達が甦る。


今回はその一つである三日月様事件を話したいと思う。


ーーそれは保育園の頃、お弁当の時間。


その時間はいつも:


「 茜ちゃんのお弁当って変わってるよね 」


と良く友達に言われていた。


お弁当は母が作り 、余り物等を詰め込む事もあったが、よく私が好きな三日月様を作ってくれた。


三日月様と言うのは Risoles (ヒゾーリス)と呼ばれるコロッケに近い揚げ物だ。


小麦粉 、バターとミルクを鍋にぶち込み 、練り物みたいになったら平たく伸ばして具材として生地の中に挽き肉とかハム&チーズをいれて餃子みたいにな形にする。


その後パン粉でまぶして高温の油で揚げるのだ。


見た目が三日月みたいだから三日月様と私は呼んでいた。


私ランキングでは三本の指に入る位凄く美味しい(本当に何で日本で有名にならないか不思議な位)。


母は良く大量に作り 、冷凍庫に保存していた 。


後は解凍して揚げるだけ。


他の有名な料理としてPastel (パステゥ)と呼ばれる日本の揚げ餃子から来た揚げ物(また揚げ物かよ)も本当に美味しいし良く作ってくれた。


ただ日本の住んでいた時はパステゥは餃子の皮を使っていたから実質揚げ餃子だったんだけれど。


これはプクプク三日月様と読んでいた。

(挙げるとフグみたいにぷくっと膨らむ事から)


われながら自分のネーミングセンスを少し疑う。


ーーそして事件は起こった。


その日はいつもと変わらぬ保育園のお弁当の時間。


カラフルで可愛いお弁当の子達とは真逆の茶色一色のお弁当だった。


私は(やった!三日月様とプクプク三日月様だ!)と内心喜んでいたが、他の子には異食に見えたらしい。


近くの居た子が:


「茜ちゃんのお弁当のその茶色いのなあに? 」


と聞いてきたので :


「 三日月様とプクプク三日月様だよ!

茜の大好物なんだ! 」


と言ったら他の子達も


物珍しそうに私の弁当を覗き混んで来た。


皆が(先生も含め)物欲しそうにしていたので:


「食べてみる? 」


と言ってしまったが否やそこはまるで戦場 。


そして数分後。

お弁当は藻抜けの空。


まだ一口も食べていなかった上、大好物だったので食べ損ねた私は泣き出してしまい。


「 三日月様とプクプク様がぁぁぁァァ!!! 」


と張り裂けんばかりの奇声を上げた.


ーー我ながら恥ずかしい。


それに慌てた周りの子達が自分の弁当を私に分けてくれた。


(そう言えば先生にも貰ったな...)


だけれども当たり前だがその時ある事に気付いた。


ーー皆の弁当も一人一人違っていた。


と言うかその時何故か大量の玉子焼きをお弁当に入りきらない位貰った。

(新手のいじめかと思ったわ)


隣にいた友達のゆかりちゃんが:


「私の卵焼き食べて!甘くておいちーの 」


と泣いている私のお弁当箱にいれてくれた。


そしたら:


「僕の卵焼きも! 」


と私の弁当すら食べていない彰君もくれたり。


他の子も:


「私も!俺も! 」


と違う意味で戦場となった。(笑)


卵焼きだけでも甘いのとかしょっぱいのとかチーズ入りの賢者もいた。


そして特にキャラ弁に力を入れていた奈々ちゃんと言う子は猫の形をした卵焼きをくれた。


私は(食べちゃえば同じじゃん)と何て失礼な事を考えながら有り難く皆の卵焼きを頂いた。


でも食べきれ無くて家に持って帰ったら母に:


「その弁当どした? 」


と心配された。(その後は全て美味しく頂きました)


私は見た目重視より味重視の

花より団子ならぬ花よりヒゾーリス女子らしい。



そしてその日から(なのかは定かでは無いが)母親にレシピを頼む人が増えたらしい。


その日から皆のお弁当に茶色の揚げ物が増えたのは言うまでも無い。



追記*

そして今回紹介(?)した RISOLES と PASTEL。

ネット等で検索したら出てくるので気になる方は是非。


因にPASTELは餃子の皮 、ハム 、チーズ 、スライスしたトマト 、玉ねぎ 、オレガノを少々まぶして餃子の皮で包み,端をフォークで潰す感じで閉じて(具材を欲張って入れ過ぎると揚げてる最中に大惨事が起きるので気を付けて下さい)その後高温で挙げると美味です。


いつのまにか料理講座になってしまいましたが是非お試しあれ。(その後は全て美味しく頂きました)


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