第397話 三バカトリオ

~前回までのあらすじ~


 合体巨大ロボが現れたけど、なんか見るからにダメそう



――――――――――――――――



「待たせたな……この合体巨大ロボ、ゲーニンギルグが現れたからにはもう竜の好きにはさせんぞ!」


 ゲーニンギルグ戦闘大宮殿と呼ばれる建造物群。その中心建造物である大聖堂が合体変形して現れた合体巨大ロボゲーニンギルグ。市民とひと悶着あったものの、それは市民を守るべく竜の前に立ちはだかった。


 身の丈100メートルを越えるその巨体は400年に及ぶ魔道研究と不思議な力の結晶である。背中には仏像の火焔光のように多くの尖塔をたたえており、なんとも言い表せない威容を誇っているものの、しかし全長20kmを越える竜に比べると見劣りする大きさである。


 頭部の人間の顔の彫刻、その奥にあるフローティングコントロールルームには三人の赤い装束に身を包んだ男が立っていた。顔はKKK団のような覆面を着けており伺い知ることは出来ない。


「ヒメネス枢機卿、なんで急に訛ってたりしたんですか……しかも市民に喧嘩売って……」


「うるさい、ビグルス枢機卿! 精神も万全の状態で戦うには憂いは払っておかねばならなかったのだ」


 コントロールルームにいる三人の男、それはグリムナが宗教裁判を受けた時の異端審問官であり、フィーが性的拷問を受けた男。すなわち、ヒメネス枢機卿、ビグルス枢機卿、ファング枢機卿の三バカトリオである。


「とにかく、人類の力を見せつけてやるのだ! やあ~っておしまい!!」

「「アラホラサッサー!!」」


 ファング枢機卿とビグルス枢機卿の掛け声とともに、なんと、巨大ロボはその巨体に見合わぬ軽い身のこなしで跳躍し、竜に跳び蹴りを食らわせた。超重量級同士の激突、大きな地響きを引き起こしたが、しかし竜はびくともしない。それどころか、着地したロボに尻尾の一撃を食らわせようとする。


 相対的に見てゆっくりに見えるが、先端はヴェイパーコーンを発生させて白い糸を引いている。亜音速の一撃である。


 考えてみれば巨大ロボと言えども所詮は建造物の複合体。これまでに人の村を擦り潰して進んできた竜の敵ではない。この一撃で勝負は決まるかと思われたが。


 コントロールルームでヒメネス枢機卿が指示を飛ばす。


「ファング枢機卿! 魔法障壁展開!!」

「アラホラサッサー!!」


 ロボは両手をクロスさせてガードの体勢。すると両腕に巨大な魔法陣が出現して壁のようにロボを守った。


 低く、鈍い、巨大な音をさせて、なんと尻尾の一撃を耐えた。続いてロボは距離をとって深く腰を落とす。


「ビグルス枢機卿! マルチ尖塔ミサイル用意! 撃てぇ!!」


「今週のびっくりどっきりメカ発進! ポチッとな!!」


 どん、とビグルス枢機卿が目の前の大きなボタンを押すと、火焔光のように背中に背負っていた尖塔群がばらばらと空中に射出される。


 尖塔は尾の部分から火を吐きながら空中で姿勢を制御して次々と竜めがけて突進していく。


 一発、二発、三発、と次々に竜の顔面目掛けて跳んでいき、先端が刺さると大爆発を起こしていく。


「オオオオオォォォォ……」


 竜がたまらずのけ反り、咆哮を上げた。騎士団のカタパルトや魔法師団の攻撃とは比較にならない破壊力。それは間違いなく打撃を与えているのだ。


「おお! 凄い!! 互角に戦っているぞ!!」


 正直先ほどのやり取りからあまり期待していなかった市民たちであったが、攻撃が有効だったことに気付いて歓声をあげる。現金なものである。


「ぐはははは! 効いているぞ! ビグルス枢機卿、たたみかけろ!」

「アラホラサッサー!」


 ロボは走って距離を詰める。二足歩行での移動、通常であれば搭乗している人間は激しくシェイクされ、壁や床に叩きつけられ絶命してしまうところであるが、コントロールルームはフローティング構造になっており、一切の揺れは発生しない。


 そのままロボは跳躍し、竜の胸の辺りにズン、と左手の手のひらを当てた。


「パイルバンカー! ポチっとな!!」


 ビグルス枢機卿がそう叫んで目の前のボタンを押すと、ズドン、という轟音がして大地と共に竜の体が大きく揺れた。ロボが竜の体を蹴って後ろに大きく飛ぶと手を当てた部分には大穴があいており、逆にロボの左手からは鉄槌が飛び出していた。左手の腕の部分は巨大な杭を射出するための穴が開いており、そこから竜の体にそれを打ち込んだのだ。


「竜など恐るるに足らず! パイルバンカーは何度でも打てるぞ! 穴だらけにしてくれるわ!!」


 だが竜がただでやられるわけがないのだ。ロボの着地際を狙って再び尻尾の一撃。だが、やはりこれもファング枢機卿が両腕をクロスさせて魔法障壁を展開してガードする。


「無駄だ!!」


 ヒメネス枢機卿が余裕の笑みを見せるが、ビグルス枢機卿は彼に大声で叫ぶ。


「後ろ! 頭突きが来る!!」

「え?」


 ドゴォン、と爆裂音をさせて大量の土煙を発生させながら衝撃が襲う。なんと、尻尾と頭突きの挟み撃ちであった。竜は、学習しているのだ。


 ロボはもんどりうって、大きな音を立てて倒れてしまった。竜はさすがにその相貌に笑みを浮かべたりはしないのだが、余裕を見せてじっくりとロボを観察している。


「う……うぐぐ……みんな、無事か……」


 さすがにこのフローティング構造のコントロールルームでも衝撃を殺しきれなかったようで中は酷い有様である。ルーム内にあった調度品、書類の類も全てぐちゃぐちゃにシェイクされてしまっている。


「い、生きてます……」

「竜め……やりやがったな……」


 他の二人の枢機卿も無事……ではないが、生きているようである。バカな奴ほど生命力が高い。


「あ! ヒメネス枢機卿! あれを!!」


 コントロールルームの正面に映し出されている仕組みのよく分からない巨大なモニターに竜の顔が映し出される。

 その表面には、すでに傷がなかった。


 確かに、先ほど数発の尖塔ミサイルの直撃を受け、そして胸にはパイルバンカーによる巨大な穴があけられたはずであったが、しかしその傷は今、どこにも見当たらなかった。


「かっ……回復したのか?」


 ミサイルを討ち尽くし、そして一撃を喰らって頭部もボロボロに破壊され、さらにはコントロールルームの中もしっちゃかめっちゃかの状態である。だというのに、対する竜は未だ無傷の状態で目の前に鎮座しているのだ。


 しかし、この状態にもかかわらず、ヒメネス枢機卿は笑みを見せた。


「ふ……ふふ、仕方あるまい。尋常の兵器では倒せんということか……」

「まさか、ヒメネス枢機卿、ついにアレを使う気か!?」


 ビグルス枢機卿が驚きの声をあげる。ファング枢機卿は頭を打ったのかぼーっとしていた。


「ソレノイド・クエンチ・バスターカノン準備!!」


 ヒメネス枢機卿の叫び声ともいえる号令にボーっとしていたファング枢機卿とビグルス枢機卿は勢いよく返事をする。


「「アラホラサッサー!!」」


 二人はすぐにボロボロになったコンパネに齧りつくように操作を始める。


「パイルバンカー用アブソーバー、射出!」


 ロボの左腕の部分から数点の部品が射出される。


「ライフリング魔導ソレノイド合体!」


 ロボの両腕が宙に浮き、両手が一つに合わさり、そのままロボの胸の部分に装着される。


「バスターカノン発射準備姿勢ヨシ!」


 ロボは深く腰を落とし、衝撃に備えた姿勢をとる。砲身となった両腕からはバチバチと電撃が漏れている。


「パイルバレット、最大射出用意位置まで後退!」


 ヒメネス枢機卿は狂気を秘めた笑みを浮かべた。


「フフフ、回復する隙も与えんよう、一撃で粉微塵にしてやろう。極・超音速の弾丸を喰らうがいい」


 レイルガン。


 弾丸をローレンツ力により射出する単純な武器である。合体巨大ロボゲーニンギルグにおいてはパイルバンカーの鉄杭を弾丸として、そして両腕を砲身とし、魔法によってつくられたコイルによりそれを加速する。


 電力、及び砲身の長さの巨大化によりその威力は大きく増し、極超音速による衝撃波で周囲を破壊し尽くし、さらに大電流によって弾体の一部がプラズマ化することで大爆発を起こし、大量虐殺メガデスを引き起こす非人道兵器である。


 それによって目の前の山にも匹敵する竜を一撃で消し去ろうというのだが……


「……とはいうものの……」


 ヒメネス枢機卿は眉間に皺を寄せて弱った表情を見せる。


「さっきの衝撃で取説がどっかいっちゃって、操作方法が分かんねーよ……起動ボタンどれだっけ……?」


 そう、さっきの竜の頭突きの一撃を受けてロボが吹っ飛んだときにコントロールルーム内の書類が全て部屋の中に吹き飛んでぐちゃぐちゃになってしまったのだ。


「その、目の前の一番でかい赤いボタンじゃない?」


 ファング枢機卿の声に、ヒメネス枢機卿は中央にあるボタンに注目する。他のコンソールにあるボタンと比べると確かに異彩を放った大きさである。


 このソレノイド・クエンチ・バスターカノンを使用すると、砲身が粉々に砕けで戦闘不能に陥る、文字通り最終兵器なのだ。

 だとすれば、確かに一番大きな目の前のボタンの特別性には確かに感じるものがある。


 『こんなんだったかな?』と訝しみながらも、今更取説を探しているほどの時間的余裕のないヒメネス枢機卿は意を決した。


「ええい、なるようになれ! ポチっとな!!」


 巨大ロボの胸の辺りが赤熱化する。関節部などの隙間からまばゆい光が溢れ、そして


 爆発四散した。


「自爆ボタンだったのか~!!」

「おしおきだべ~!!」


 爆発した巨大ロボがドクロ型の煙を上げる中、三人が吹っ飛んでいくのがはっきりと見えた。市民は、呆れた表情と、落胆のため息を漏らす。


「何しに出てきたんやあいつ……」

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