第387話 復活
何もかもが、あの五年前の惨劇の再現であった。
町の傷はまだ癒えてはいない。ゲーニンギルグ戦闘大宮殿内の設備はすべて復興しているが、しかしローゼンロットの街の端に行くほど、その時に起こった暴動と略奪の爪痕をまだ残している。
人々の記憶にもまだそれが薄れていない中、その惨劇が再現されたのだ。
複数回の衝撃波の炸裂。それとともに恐慌状態になって避難を始める人々。
その恐怖の渦の中、二つの魔石が共鳴をはじめ、そして、大地が揺れた。
「これは……まさか」
ブロッズがそうつぶやき、南の空を見た。そこにはどこまでも青い空と、それを覆い隠すほどの、巨大な何かが姿を現していた。あまりにも大きく、それゆえ非現実的な竜の影。
呆然と立ち尽くすブロッズの腕を何者かがとった。
「何ボーっとしてんのよ、とりあえずメザンザから距離をとるわよ!」
ラーラマリアであった。二人は後方のメザンザをちらりと見る。彼は恍惚とした表情で空を、竜を眺めていた。確かに、竜が復活してしまった以上、もはやメザンザにかまっている暇はない。まずは落ち着いて、現状を見極めねばならない。
ラーラマリアは走って宮殿建造物群の外に出る。少し遅れてブロッズ・ベプトとレイティも息を切らせながらついてきた。
そこでやっと全貌が確認できたが、やはり竜が南の空に現れている。空に、というものの飛んでいるわけではない。山の向こうで、地に足をつけているようだ。翼の影も見えるが、しかしあの巨体で飛べるとは思えない。
「なんてこと……とうとう竜が復活してしまった」
ラーラマリアが絶望に染まった表情でそう呟く。五年前は全く興味なさげであったが、今度は違う。
彼女は腰に差しているエメラルドソードの柄を握った。
(もし今、首から提げている『水底の方舟』を使ったらどうなる……? 竜の魔石の共鳴が収まって、また竜は消える……?)
そう考えた時、ぞくりと悪寒が走った。
あの部屋の中に五年間もの間捕われたことで、グリムナは気が狂い、記憶を失ってしまった。しかも今度はグリムナはいない。
グリムナがいない部屋で、いつ出られるのか分からない中、ヘタすれば何年間も、たった一人で。おそらく自分には耐えられない。そう考えたのだ。
それは実際正しいし、それをやったところで問題の先送りにしかならない。さらに言うなら五年前よりも世界の様相は悪化している。今更竜の魔石が一つ減ったところで、竜が消え去るという保証もないのだ。
「竜を……竜を倒さなきゃ……私がやらなきゃ……」
青い顔でぶつぶつと呟くラーラマリアの異変にブロッズが気付いたようで声をかける。
「ラーラマリア、俺がやる! 聖剣を貸せ! 俺が竜を倒す」
「な、なに言ってるの! あんたじゃ無理よ!」
しかしブロッズは折れない。真っ直ぐラーラマリアの目を見つめて言葉を発する。
「いいか、グリムナは生きているんだろう? だったら俺は……俺の汚れた手は、奴のために露払いをするためにある。もし俺が失敗したなら……その時はお前がグリムナと力を合わせて竜を倒すんだ。あいつならきっとできる!」
「ダメよ!!」
拒否の意を示すラーラマリアの表情は、悲壮感すら感じさせた。
「あんたみたいな立ち位置のよく分からないわき役の仕事じゃない。私が……私が、グリムナのために……」
「二人とも落ち着いてくださいッス!」
恐慌状態にあるようにも見て取れた二人をいさめたのはレイティであった。
「竜までは大分距離もあるし、まだ
二人は「何を言っているんだ、こいつは」という目でレイティを見つめた。確かに、彼女は本来ならヴァロークの人間。世界を滅ぼす側の人間のはずである。
ラーラマリアの真意をウルクに明かさず、消極的に離反しているとはいえ、意見できるような立場か、という目である。レイティは申し訳なさそうに目を逸らしたが、しかしそれでも言葉は止めない。
「その……確かにボクはヴァローク側の人間だったッスけど……でも、うまく言えないッスけど、アレは、自分達が目指していたものなのかと言われると……」
そのまま言葉に詰まってしまったが、改めて三人は冷静になり、竜のいる方角を見た。たしかに、まだその距離はローゼンロットからは遠く、山を二つ三つ越えたくらいの距離がありそうだ。
竜が大きく口を開き、地響きのような咆哮を響かせる。
それに呼応するかのように民衆の悲鳴が聞こえてくるような気がした。
「あんなの……どうやって倒せっていうのよ」
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