創作ダイニング 椛、ただ今準備中
2020年8月8日、21時25分。
片田舎でこっそり営業する「創作ダイニング 椛」。
最後のお客様が帰り、片付けを終えたスタッフが厨房に集合した。
「そろそろ時間になるので、ミーティングするよ」
スタッフに声をかけたのは、店長の及川磐音。31歳という働き盛りの年齢と図体に見合った張りのある声は、
「本日22時、ご予約の『カクヨム・ぱーてぃー!』御一行がお見えになります。予定では、24時までの御利用。店内は、約2時間貸し切り状態になります。スタッフの皆さんはお疲れが出てしまう時間かもしれませんが、どうか無理をせず。体調がすぐれないと思ったら、他のスタッフに声をかけて代わってもらって下さい。では、皆さん、よろしくお願いします」
よろしくお願いします、と皆頭を下げる。
磐音は、ふっと溜息をついた。
「ガンちゃん」
磐音を愛称で呼ぶのは、厨房担当の及川勇貴だ。
「あんた、もう飲んだだろ。真美ちゃん家からの差し入れを」
「飲んでないわよ」
「言葉が隠しきれてねえよ」
「一緒に飲んだよ!」
新井真美が正直に白状し、磐音がうなだれる。
「大丈夫だよ! 私だって厨房の補助に入れるし、楓ちゃんだっているし!」
「そうだ、楓ちゃんは……!」
ミーティングの後、姿を消してしまった。もしかして、具合が悪いのだろうか。
楓は外にいた。明るい月を見上げ、お淑やかに微笑む。
「楓ちゃん」
「勇貴くん」
「大丈夫?」
「ええ。少しだけ、お腹が空いてしまって、厨房が見える場所だとつまみ食いしてしまいそうで」
くう、と腹の虫が白旗を上げる。
勇貴は思わず笑みがこぼれてしまった。
「味見、お願いしていいかな」
「はい、わたくしでよければ」
今日も着物姿で、お上品な彼女は、目を輝かせて喜んだ。
「味見も致しましたし、お客様をお出迎え致します!」
※勇貴、楓、磐音、真美が登場する拙作は、こちらです。
「もみじ、ひとひら」
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