第5話
「ヤバい、ヤバい、寝坊したぁー!なんでだよ、今まで寝坊なんてしたことなかったのに
…。別に昨日寝れなかったなんてことはなかったのに」
僕は走って学校へ向かう。ちらりと腕時計を見る。もう一時間目が始まっていて遅刻が確定してしまった。最悪だ。授業の途中から教室に入るなんてことしたことない。さぞかし僕が教室に入ったときみんな僕を見てくるのだろう。恥ずかしい。僕は遅刻するようなキャラじゃないし、嫌だ。一時間目終わったときくらいに行こうかな?僕の中の悪魔が囁く。
「ありがとうごさいましたぁー」
コンビニの店員さんが店を出ていく僕に言う。
「はぁ」
自分のしたことにため息が出る。結構僕は授業をサボってしまった。授業が終わるための時間潰しのために飲み物を買った。
「あーあ、こんなこと初めてだ。どうしちゃったんだろう。やっぱりあの木の影響かな?」
そんなことを思ってしまう。こんなことばかり考えていてもダメだと思って気分転換がてら今まで通ったことのない道でも通って学校に行ってみよう。いつもは住宅街を通って登校しているけど今日は川沿いを歩こう。休み時間に学校に着くようにちゃんと考えて行動する。川沿いを歩きながら僕はこれまで見てきた人たちの気持ちを考える。みんなあんなことを考えていたんだなぁと。そんな時間はすぐに過ぎていって、学校に行く時間になったので学校に向かう。初めてということもあってお咎めなしだった。次は気をつけろと言われただけだった。学校で友だちに聞かれても寝坊と言って、クスクス笑い合うだけだった。休み時間に来たことが功を成したのか誰にも注目されることなく僕は席に着けた。その後の授業は落ち着いてできた。
放課後になって僕は裏道に向かった。今日はなんだかいつになくせわしい日だったな。僕はここ数日変化がなかったので、なんの危惧もしていなかったけど、それは唐突に起きた。放課後裏道に行くと会うことのできたあの木がない。いつもの場所にないだけで周りにあるかもしれないと見回してみてもそれらしきものは見えない。
「なんでないの?」
僕は焦っていた。学校の敷地内を必死に走り回った。部活中の人に、多くの人に怪奇な目を向けられていたかもしれないけど、僕は気にすることなく探し回った。そのときの必死さは僕の羞恥心を超えていた。僕をここまで虜にしておいて急にいなくなるのはずるい。だけどどれだけ探してもあの木は見つからなかった。この日から一日たっても二日たっても一週間たってもあの木は現れなかった。毎日、放課後に裏道を通ってみるが、そこにあの木はなかった。もうあの木とは会えないんだろうな。僕は一週間がたった今日もあまり希望を持たずに裏道へ向かう。だが、僕の予想は良い意味で裏切られた。なぜなのだろう。一週間全く姿を見せなかったあの木はいつもの場所に立っていた。余計分からなくなった。この木はいったい何が目的で何がしたいのだろうか。でもホッとした。こんな別れ方は嫌だったからもう一度会えてよかった。
「君とはまた会えるのかな?それとももうこれが最後だったりするのかな?」
もちろん、木は何も答えない。君の心も覗いてみたいなと思った。せっかくまた会えたんだからいつも通りいこう。そして僕は木に触れる。
これはまた誰かの部屋だ。ベットや机が見える。二人の人影がある。二人のことがはっきりと見えてきて分かった。二人は隣のクラスの女子だ。廊下ですれ違ったり、男女合同で体育をするときにいっしょに授業を受けるだけで話をしたこともない。僕は面識があるけど、向こうは僕のことを知ってるかも分からないそんな関係だ。
「ここの問題分からないんだけど、どうすればいいの?」
一人が質問をするともう一人の彼女は驚くほどこれでもかというくらい近づいて、質問に答える。
「ちょっと見せて。うーんとね、ここはね、こうしてからこうするとほらできるの」
「あ、本当だ。なるほどー、こうするのが正解だったのかー。見落としてたなぁ。ありがとー!」
二人で勉強をしているようだった。勉強会かー。したことないな。楽しそうだ。質問に答えた子はもう一人の子のことをチラチラと見ている。そんなに質問されたいのかな?変わってるなと思った。もう一人の子は見られていることに気づいている様子はなく、そのままベットに横になった。
「疲れたぁ〜。ちょっと休憩するー」
「あ、ずるーい。私も少し休むー」
そう言って彼女もベットに潜りこもうとする。
「これは私のベットだからダメだよー。ははははっ!」
「なにー!そんなことは言わせないぞ。ふふふ」
そう言って彼女もベットで横になる。一人用のベットは二人で寝そべるには少し狭く、二人は密着している。彼女たちは向かいあって、見つめ合っている。後からベットに入った彼女は恥ずかしいのか頬を赤く染める。そして向かい合う子の胸元に顔を埋める。そのとき、彼女の想いが伝わってきた。
「ああ、いい匂いするなぁ。この匂いはとても落ち着く。前から思ってたのかもしれないけど、いざこうなったらやっぱりそうなんだと思える。私はこの子が好き。クラスの男子を見ても、恋愛感情は全く湧いてこない。逆にこの子といるとドキドキする。でもこの子には言えないかな。避けられたりしたら嫌だし、なぜか言いたくない。もう我慢できないくらい好きになっちゃったときに伝えようかな」
僕はその事実に驚いた。最近はニュースでも恋愛事情について取り上げられているのを見かけたから、知識としては知っていたけど、こんな身近にいるとは思わなかった。すると彼女は顔を上げてそのままキスするんじゃないかというくらい相手の顔に近づけた。そして首筋や頬を撫でる。とても優しくどこかいやらしい手つきで。相手の子は戸惑って言う。
「え、なに?どうしたの?ちょっと何してるの?フフッ、こしょばいよ。それにちょっとちょっと近いよ」
嫌がっている様子ではなく、ただその行動に疑問を感じているだけのようだった。すると彼女は少し声に色気を出して返事をしたように聞こえた。
「なんだと思う?大丈夫、なんでもないよ♡」
彼女はそうは言っているものの鼻息は荒くなっており、何かが起こっていることは容易に分かった。しばらく無言の時間が続いていた。彼女は落ち着いたのか元気な声で言った。
「だまされてくれた?ごめん、ちょっといじわるしたくなっちゃった」
「なーんだ。そういうことだったんだ。びっくりしたよ。急におかしなことし始めるから」
あぁ、恥ずかしっ!勢いであんなことしちゃったよ。何とか誤魔化せたかな?いつも通りで接してくれてるし大丈夫だよね。彼女のそんな思いや心の中で悶える様子にに僕は乾いた笑みしかできなかった。でも僕はすごいと思った。はっきりとは言えてないけど、あそこまで大胆な行動ができることを尊敬する。
こんな秘密を抱えてる人だっているんだ。僕はこんな悩み事なんて思いつかないな。多少のみんなに言いたくない秘密のことはあったりするけどちっぽけだなと思う。あぁ眠くなってきた。もうすぐ終わりかな。それじゃあバイバイお二人さん。勝手に覗いてごめんね。
気がつくといつものように横たわっていた。僕はまたこの木に会えてうれしかった。そうして僕は裏道を抜けて帰ってゆく。
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