第23話 ハラペコさんにはこれっきゃない
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閉じ込められていた部屋は地下に位置していたらしく、私とリコは地上へ出るための階段を悠々と上る細波の後に続いた。
地上に出るともう日が傾いているころで、空は赤みがさしていた。そこには私の良く知っている——私の通う大学の閑散とした風景が広がっている。
この時間は講義のために残る学生はいない上に、課外活動を行っている学生は活動時間であるのでまるで人の気配が無い。夕暮れの静けさと相まってどこか哀愁の漂う赤レンガの道が続いているばかりである。
私とリコが同時に腹の虫を鳴らすので、頭の後ろで両手を組みながらぶらぶらと歩いていた細波が久しぶりにケラケラと笑った。リコが咄嗟に腹を抑えて、恥ずかしそうに上目遣いでこちらを見上げた。
「今日は忙しかったし、そろそろ腹の減る頃合いだろうとは思ってたよ。近江、お前ら二人、水入らずで飯でも食いに行ったらどうだ」
「それは良いが……、お前はどうする」
「俺は行かないよ。色々と始末をつけないといけないからな」
「リコを放っておいて良いのか」
「かまわないだろ。あいつらだってリコを四六時中狙っているわけじゃない。さすがに今日はへろへろだろうし、それにいざとなったらお前もついてる。ま、気を付けるとしたらまたしばらくしてからだな。じゃ、また明日」
細波はそう言い残すと突然、道の横に逸れて鬱蒼とした藪の中へと入っていった。どこに行くのかといぶかるのも時間の無駄というものだろう。なにせあんな地下室があるくらいだ。藪の先には基地やら隠れ家やら、何なら宝物庫くらいあっても不思議ではないだろう。
金銀財宝に囲まれて怪しげに口元を緩ませる親友の姿を想像して、私は苦笑を浮かべた。
「キュウ……」リコが急にしおらしく鳴いた。腹をしきりに擦っているところを見ると、どうやら本格的に空腹らしい。そしてそれは私も同じであった。ただでさえ満足に昼飯を食べていないのに加えて何だか騒がしい一日を過ごしてしまったので、エネルギーを多分に消耗しているのだ。
「キュウ……」リコが再び鳴いた。
「いや、考えてみればお前は『ボス』のところで結構ごちそうになっていたじゃないか」
「キュ! キュウ!」リコは目を潤ませて訴える。
「あれっぽちじゃ足りないって言うのか。なんて欲張りなやつだ」
そう返しはしたものの、私もリコと同じく空腹は限界を迎えており、頭は既に満足な働きをみせなくなっていた。
「……なあ、お前、ラーメンは食べられるか」私はぎゃあぎゃあと物申しているリコに尋ねた。
「キュウ!」リコが得意げに張った胸をぽんと叩く。どうやら問題なさそうだ。
「よし。じゃあ良いところへ連れて行ってやる」
ぱっと顔を輝かせて喜ぶリコと並び、私は空腹で足取りをふらつかせながらゆっくりと、「チュウ」へと向かった。
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