刑務所で繋がる縁⑩
泰牙は呆気に取られその場で固まっていた。 目の前では親が警察に捕まっているというのに、頭に浮かぶのは先程の父親の言葉だ。
―――・・・俺たちの、ため?
―――は、今更何を言ってんだよ。
―――どうしてそんなことを、今・・・。
「大丈夫? ねぇ君。 君!」
いつの間にか警察に肩を揺さぶられていて、泰牙は我に返った。
「あ、は、はい・・・」
「怪我はない?」
「大丈夫です・・・」
「君が、通報してくれた子だよね?」
今話している警察の声は、確かに先程の電話で聞いた声だった。 まるで糸の切れた人形のように、その問いに頷いた。
「よかった。 何があったのか、分かる範囲でいいから教えてくれるかな?」
警察は手帳とペンを取り出し聞き取り態勢を取る。
「分かりました・・・」
だが質問に答える前に、泰牙の視線は自然と零真の父の方へといった。 それにつられ警察も見る。
「その方は、君の知り合い?」
「・・・いえ、今日出会ったばかりの人です。 元々ここの部下だったらしいんですけど、俺に協力してくれました」
泰牙は警察に全てを話した。 もちろん零真の父親のこともだ。 人が死んでいるのだから当然であるが、そのことは事細かに聞かれた。
いつの間にか両親はいなくなっていたため、既に取り押さえられ連行されたのだろう。 あんなにいた部下と思しき男たちも全員捕まった。
もしかしたらある程度の情報を掴んでいたのか、やってきた警察はかなり多く、建物をくまなく捜索していた。
「そうか・・・。 君の両親が麻薬密売の元締、ね」
「はい・・・」
「よく通報してくれたね。 心苦しかっただろう?」
「まぁ、多少は。 だけど悪いことだと思ったから。 当然のことをしただけです」
泰牙は警察に、最後に父から聞いた話は一切伝えなかった。
「両親に、何か伝えてほしいことはある?」
「伝えてほしいこと・・・?」
しばし泰牙は考えた。 もしかしたらこれが両親に伝えられる最後の言葉なのかもしれない。 だがこの時の泰牙は動揺していて上手く頭が回らず、いい言葉が思い浮かばなかった。
「・・・いえ、特にありません」
「そっか、分かった。 話してくれてありがとう」
そう言ってメモをしまい、この場を離れようとした警察を慌てて呼び止めた。
「あ、あの! 待ってください!」
「ん? 何か話し忘れたことでも?」
「零真は、零真はどうなるんですか!?」
零真のことも警察には話している。 といっても、知らなかったとはいえ麻薬を運んだのは事実。 それを再調査で無罪にするのは難しいということだ。
「零真・・・。 確か、林部さんのご子息で今は刑務所にいるんだったよね」
「はい。 確かに零真は、この下で雇われていました。 だけど彼は、何も知らない状態で働かされていたんです。 零真は悪くない。 すぐに解放とか、できませんか!?」
「すぐに解放は無理だと思うけど・・・。 ちゃんと、話し合ってみるよ」
「・・・分かりました。 ありがとうございます」
お辞儀をして一歩下がった。
「ところで君、泰牙くんは、まだ未成年だったよね?」
「はい」
「家にご両親以外で、兄弟はいるの?」
「・・・います。 今年二十歳になった、姉さんが一人」
そう言うと警察は小さく笑ってこの場を去っていった。
―――・・・今の質問、俺がこれからどうなるのか決まるものだったな。
―――何も言われなくてよかった。
泰牙は警察の取り調べから解放され、考えると何とも複雑な気持ちになる家に帰ることにした。
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