刑務所で繋がる縁⑧




男たちはやはり零真の父親を知っているようだ。


「おい林部! どうして俺たちを裏切ったんだ!」

「違う、俺は何も悪くない! 最初は裏切るつもりなんてなかったんだ!」


男たちは三人。 先程見たのはもっと多くだったため、ここに寄こされたのがこの人数。 零真の父である林部(零真の名字も今ここで初めて知った)は正直体格がいいとは言えない。 

大の男三人相手に二人では到底敵わないだろう。


「ったく。 これだから新人は信用できねぇんだよ」


そう言うと男たちは一斉に拳銃を取り出した。 それを泰牙と林部に向ける。 泰牙は驚き一歩後退った。


「大丈夫だ。 アレは俺が持っていたものと同じ。 偽物だ」

「ッ、貴様!」


小声で教えてくれたのだが、事務所内が静かだったためか男たちにも聞こえてしまったようだ。 彼らは拳銃を捨て、今度は懐からナイフを取り出す。 拳銃と同様に躊躇うことなくこちらへ向けてきた。

視線は男たちに向けたまま、零真の父が泰牙の服を少し引っ張る。


「泰牙くん、いいかい? 俺が彼らの気を引くから、そのうちにこの事務所から逃げるんだ」

「いや、でも」

「大丈夫。 ここはもう終わりだから」

「零真のお父さんだけ残すなんて、そんなのは嫌です! 俺もここにいます!」

「お願いだよ。 泰牙くんは、刑務所から出てばかりなんだろう? もう危険なことには関わらない方がいい。 残りの人生が勿体ない。 君はまだ、若いんだから」

「でも・・・」


零真の父と話をしていると泰牙はあることに気付く。


―――結構悠長に話しているのに、どうしてこの男たちは攻めてこないんだ?

―――もしかして、何かを待っているのか?

―――だったらこのまま、警察が来てくれれば・・・ッ!


警察には既に通報している。 ただサイレンの音などまるで聞こえず、それでもドアが開くのを見て警察かと期待した。 しかし残念ながら現れたのは、泰牙の両親だった。 

男たちは二人が元締めだということを知らないのか、困惑した顔をしている。


「な、何だ? お前たちは。 今、取り込んでいるんだ、さっさと出て・・・」


父は男に向けられたその言葉に、冷たい目を向けた。 言葉はない。 だがそれだけで男は喋れなくなってしまう。


「父さん、母さん・・・」

「やれやれ、一体どこまで私たちに無駄な手間をかけさせるのか」

「私は貴方をこんな風に育てた憶えはありませんよ」

「ふざけるなッ!」


両親の言い分に泰牙は冷静ではいられず声を張り上げてしまった。 密輸組織の元締めが子供をどう育てるつもりだったのか、それは姉を見ていれば分かる。 

反抗しない従順な羊、それを望んでいたのだろう。


「いい加減にしろ。 大人しく、こちらへ来なさい」

「誰が行くもんか!」

「何もしなければ、裕福な生活が送れると言っただろう。 一体何が不満だと言うんだ?」

「そんな汚い金で裕福な生活が送れても、嬉しくないんだよ」

「泰牙、父さんからの最後の願い、いや、命令だ。 あまり手荒な真似はしたくない」

「俺には裕福な生活を送ってほしいと望んでいるんだろ? だったら、息子の意見も少しは聞いてくれよ!」


泰牙の父は大きく息を吐き、そしてボソリと呟いた。


「それはできない」

「だったらそっちへは行かない」


もう父の目は子を見る親の目ではなかった。 


「・・・もう時間か。 泰牙、残念だよ。 お前は素直で、とても聡明な息子だった。 将来もとても期待していたのに」


そう言って拳銃を向ける。 だが泰牙は、それを零真の父から聞き偽物だと分かっている――――はずだった。


「最後にもう一度言う。 素直にこちらへ来なさい。 そしたら、悪いようにはしない」

「嫌だ!」


泰牙が叫ぶと同時に零真の父も叫んだ。


「ッ、泰牙くん駄目だ! アレは本物だ!」

「え?」


その言葉に耳を疑った瞬間、発砲音が場に響く。 何が起きたのか分からず立ちすくんでいると、泰牙の前で零真の父が撃たれ倒れていた。



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