刑務所で繋がる縁③
刑務所を出て泰牙がまず思ったことは“空気がおいしい”だった。 もちろん刑務所内とはいえ、日の下に出たことは何度もあったがやはり何かが違う。
「ここで待っていろ。 君の親に連絡をしたから、じきに迎えにくるはずだ」
そう言って看守は中へと戻っていく。 街中にある刑務所だったため普通に道は通っていた。 近くでバス停を見つけ、そこのベンチに腰を下ろす。
―――俺の親が迎えにくるはずがないんだけどな。
両親が現在自分のことをどう思っているのかは知らないが、言えるのは刑務所へ入ってから今日まで一度も会いにすら来なかったということだ。
厄介者と思っているのか何なのか、好意は絶対に抱いていないだろう。 泰牙は立ち上がり、最寄り駅を求め歩いた。
住所は分からないが、地図だけは何となく頭に入っていたためおそらく辿り着ける。 刑務所内での給料をいくらか持っているからお金もあった。 駅にさえ行けば、何とでもなるのだ。
―――うわ、遠。
―――仕方ない、このまま電車で帰るか。
駅まで着き、路線図を見て愕然とした。 思っていた以上に遠く、金がかかる。 だがそれでも仕方がないため、二時間かけて地元の駅まで戻った。 そして家へと歩いていく。
―――姉さん・・・。
泰牙は姉のことは助け出したいと思っていた。 二年前の様子だと、姉は両親に協力しているといったことはないだろう。 姉が通報し、その結果逮捕されたわけではあるが、あまり気にしていない。
当然の行動だからだ。 だが両親に見つかるのだけはマズいため、用心しながら帰っている。 家へ着きガレージを見ると、車がない。
「姉さん!?」
家の前で姉がしゃがみ込み俯いていたのを発見し、慌てて駆け寄った。
「泰牙・・・ッ!」
姉の顔を見るのは久々だったが、二年前と大して変わってないように思えた。
「姉さん、どうしてこんなところにいるんだよ。 寒いから風邪引くだろ」
今は11月でまだ冬ではないが、外に長時間いれば寒い。 しかも姉は部屋着のままだった。
「うん、ごめんね。 一秒でも早く、泰牙に会いたかったから」
「・・・。 父さんと母さんは?」
「仕事へ行ってる」
―――仕事、ね・・・。
―――カモフラージュするために、一応は真面目に働いているんだろうな。
「今日は泰牙が出所する日だから、早めに仕事から帰ってくると思う。 ごめんね、私、面会にも行けなくて・・・」
「いいよ、気にしていないから。 とりあえず中へ入ろう」
両親がいないと聞き、家の中へ入ることにした。 現状、お金くらいしか持ってない自分には必要なものもある。 泰牙は冷え切っている姉のために温かい飲み物を作り渡した。
「俺が刑務所へ入ってから、何か変わった?」
「うん。 色々と決められたよ」
「何を?」
「大学を出ても、この家からは出てはいけないとか・・・。 家から直径2㎞以上は、離れてはいけないとか」
「ッ・・・!」
―――何だよ、二年前と何も変わっていないじゃないか!
―――姉さんをここまで縛るということは、まだ確実に密輸をしているということだ。
―――父さんと母さんはやはり何も反省していない。
もっとも改心しているなんてさらさら思っていなかった。 もしそうなら自分のところへ面会しに来て、形だけでも謝るなり弁解するなりするだろう。 それが一切ないのだ。
だがその言葉が本当なら、姉を飼い殺しにしようとしているだけで、悪事に加担させていないだろうということにもなる。 それが唯一の救いだと思った。
「姉さんは無事、大学を卒業できた?」
「もちろん。 今はちゃんと働いてる」
「そっか、よかった。 姉さんは真面目に生きてね」
「当たり前だよ。 ・・・泰牙も本当は、来年には卒業する歳なんだよね」
「まぁ。 でも流石に留年は確定だからな。 二つ下の生徒と勉強なんて気が引けるから、学校を辞める可能性もあるけど・・・」
「・・・そっか。 泰牙は、これからどうするの?」
「これからっていうか、今から親の悪事を暴きに行くつもり」
「え、今から!? そんなの危険だよ!」
「姉さんはこのままでもいいの? 一生狭い鳥籠の中で生活するんだよ? 俺は耐えられない。 姉さんも一緒に、俺と自由になろうよ。 こんな家には、いてはいけないんだ」
「でも・・・」
「大丈夫。 全ては俺がやるから。 姉さんは、俺が外へ行っている間にもし父さんたちが帰ってきたら、俺の詮索をしないようできるだけここに引き止めておいてくれる?」
「・・・分かった。 気を付けるんだよ」
「あぁ、ありがとう」
泰牙は制服から動きやすい私服に着替え、必要なものをいくつか取り揃えると外へ出た。
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