第4話  勧善懲悪ということ

 さて今回は表題のとおりウルトラマンという作品に於ける勧善懲悪論を筆者なりの視点で語っていきたいのだが、今回執筆するにあたり、思い出したことがある。

 それは筆者が以前より続けているブログにて、同件をテーマにして記事にしたことがあったという事である。

 はてなブログというのをご存じだろうか? 

 そちらのブログサイトに綴っている雑記ブログなのだが、その内容は筆者の好きなことからお薦めの書籍、また普段思っていることなど、兎に角、ざっくばらんなのだ。

 その中でこの勧善懲悪論とウルトラマンを結び付けて語った記事を書いたわけだ。

 

 今回、自身で久々に読み返し、これはそのまま今回のテーマに使えると判断し、ここに掲載してみることにした。

 カクヨムの見解でもそれは認められているようなので 早速、原文を以下にまとめてみた。 ※尚、書体が敬体で、人称も異なるので違和感を感じるかもしれないがそこはご愛嬌?(媒体によって使い分けるのも流儀ということで) 




 僕たちは灰色の社会を生きている ~ウルトラマンに視る勧善懲悪論~


 「勧善懲悪」

文字通り、「善を勧め、悪を懲らしめること」を主題とした話や作品を差す言葉です。


僕の様々な趣味趣向のルーツでもある、「特撮」もまた、そんな「勧善懲悪」にカテゴライズされる作品が多々あります。

また、時代劇の中でも「特撮時代劇」と呼ばれるジャンルは、やはり往々にして「勧善懲悪」だったりします。 「水戸黄門」「暴れん坊将軍」などといえばイメージしやすいでしょうか


ところで、我々が生きているこの社会は、「勧善懲悪」で語れるほど、単純にはできていません。

それは、何が正しく(即ち「善」)、何が間違っている(悪い)のか という判断が、基本的には「各々の主観」によるからです。


この現代日本のような平和な社会に於いては、人を殺めるという行為は決して許されることない罪ですが、仮に戦争社会であれば、それは、一方からみれば国(または所属組織)の為に戦果を挙げた英雄とみなされ 一方から見ればそれは憎むべき対象となります。

例えが少々極端だったかも知れませんが、つまり

「善悪の判断は、結局 白黒つけられない」ということ。勝者には勝者の、敗者にはまた敗者なりの道理が存在する 其れが 我々の生きる社会。

社会は灰色に満ちているのです。


しかし、この「勧善懲悪」では、それが白黒はっきりした状態で描かれます。


桃太郎は鬼ヶ島へ鬼退治にいくわけですが、それは「人間たちにとって悪い」鬼を成敗するため それは人間たちの道理です。

では、鬼たちからみたらどうなのでしょう

ただ「悪い」というだけで 鬼側の言い分や心情が語られてはいません。


それが「勧善懲悪」なのです。


しかしこうした「勧善懲悪」は昔から多くの人々に愛されてきたようです。そうでなければ今尚、こうした単純明快なお話が作り続けられているわけがないですよね


人が「勧善懲悪」を欲するのは、灰色の社会に生きる我々に「夢」を魅せてくれるからとは考えられないでしょうか


現実では誰もが認める「正義」なんてものは存在しない。しかし、それを「創り上げる」のは、案外簡単なことだったのです。そう、「視点を一方通行にすればいい」のですから

一方の道理は敢えて描かない。 そうすることで、「悪」を作り上げ 正義が悪を滅ぼすという魅惑の物語「勧善懲悪」の完成なのです。



少し逸れますが、アニメーションの世界もかつて「勧善懲悪」が主流な時代がありました。

しかし、その流れを変えた(作品の一つ)と言われるのが「機動戦士ガンダム」だというのは、有名な話です。

かくいう僕も、自分としてはベターながら この作品で、「勧善懲悪ではない世界」というものを認識した一人でもあります。

もちろん、リアルタイムではないですけれど ※1


ジオンが地球連邦に独立戦争を仕掛けたのは、

「貧困からの脱却」でもあり「地球中心の社会」への反発でもあり、「スペースノイドの優位を説き示す」ためでもあったでしょう(少なくともギレンの頭の中では) そうやって、視聴者からみた「敵側組織」の戦う道理が明確に描かれたのに、強く惹かれたものです。


閑話休題

さて、ガンダム以前のアニメで「勧善懲悪」が主流だったことからもらわかるように、子供を対象とした作品では、この単純明快な物語が用いられることが殆どです。

これも、あくまで僕の持論ですが 「子供にはしっかり善悪の判断ある人間になってほしい」という大人の「願望」だったり、また単純に「わかりやすいから」、そして「グレーな話で夢を壊したくないから」といった理由が隠れている気がしてなりません。もちろん意識的か否かは別として


そして、そんな「期待」は、我らの「特撮」にも見事に反映されているのでしょう。

もちろん、ウルトラシリーズ然り。

基本的には、M78星雲からやってきた身長40メートルの光の巨人 ウルトラマンが、地球人のために怪獣をやっつける (初代ウルトラマン) まさに「勧善懲悪」

しかし、実はそうした「勧善懲悪」の中に、それだけではない「考えさせられる」欠片が散りばめられているのです。


僕がウルトラシリーズを未だに好きでいつづけられる理由がここにあります。



怪獣はどうして退治されるのか? 考えたことはあるでしょうか 

エピソードにもよりますが、大抵の場合、怪獣というのは地球の地殻変動や人間による自然破壊、環境汚染など様々な原因により 眠りを妨げられたり また住処を失ったりし、その結果 人間の前に姿を現すわけです。当然、知的生命体ではないですから、動物の如く暴れまわったりした結果、人間たちの生活環境に被害を与えてしまいます。これが人間視点からみたら「悪」なのです。

 

このように、怪獣にも「道理」はある。ただ「彼らは語ることをしらない。怪獣だから」

そのことに疑問をもち取り組んだのが当時の脚本家達だったと思うのです。


例えば初代ウルトラマンに「怪獣墓場」※2 というエピソードがあります。


宇宙をパトロール中の科特隊※3 面々は、ウルトラゾーンと呼ばれる地帯で、これまでウルトラマンが倒してきた怪獣たちの亡骸が浮かんでいるのを発見します。

地球に帰り それらの供養を行う隊員たち


そんな中、宇宙から新たな怪獣が降ってきます。

あのウルトラゾーンで他の怪獣の亡骸とともに浮遊していた亡霊怪獣シーボーズです。


シーボーズは誤って地球へ落下してきただけで、ただただ宇宙へ帰りたいかのようにみえます。


先刻の怪獣供養のこともあり、思うところがある隊員たちは攻撃を中止し、シーボーズを宇宙へ返すための作戦を考えることにします。


結果、最終的にウルトラマンの力を借りて、この「迷子怪獣」を無事 宇宙へ送り返すことに成功する。


といった内容のお話なのですが


まず、注目すべきは、今まで倒してきた怪獣たちを「弔う」という発想。


そして、白眉は「迷子の怪獣」を「宇宙へ返してやる」

つまり「怪獣をやっつけない」エピソードだということ。


如何でしょうか。

怪獣をやっつけるというのも正義ならば

困った怪獣を助けてやるというのもまた正義。

見事に「勧善懲悪」のスタンスは崩すことなく

ただただ「殺戮を繰り返すだけ」の正義への皮肉を投げかけたかのようなメッセージ性を感じませんか


怪獣たちの供養シーンが、仏式で神妙に革まって

行われているのが、逆にとても滑稽でシュールだったり、シーボーズのあの緩さ(雰囲気)も、脱力感満載で こうした異色エピソードに相応しい演出になっているように思います。


これは、推測ではありますが、子供向け番組である故に、「勧善懲悪」を逸脱することは許されないとしたら、そんな制約の中で生まれたとすれば 尚更 素晴らしい そう感じるのです。


このように 単なる正義ではない角度からの善を魅せてくれる それもウルトラの世界。


皆さんもこの記事を読まれて、「勧善懲悪」を観る際には 「善とは何か 悪とは、、」と思案して観ると哲学者にでもなれた気分を味わえるかもしれませんね。


 



それでも、社会は灰に満ちている





※1 シリーズ一作目「機動戦士ガンダム」の初回放映は1979年 まだ生まれてすらいませんのでm(_ _)m


※2 第35話 佐々木守脚本 実相寺昭雄監督による初代ウルトラマン異色エピソードの一つ

因みに、亡霊怪獣シーボーズの由来は

亡霊→お化け→妖怪?→海坊主?(なぜ?)→シー(sea)ボーズ(坊主)、、っことで こんな洒落ネタは案外多いのが、またウルトラの魅力だったり、、、


※3 主人公ハヤタが所属する地球上のありとあらゆる超常現象を調査する国際組織。パリに本部をおく。

尚、正式名称は国際警察機構科学特別捜査隊 であり、その極東支部。(これ、言える人余り見ないな)



 如何だっただろうか。これをお読みになり、他記事も気になった方はhttps://www.livingdaylights.work/  こちらから閲読頂けたなら幸いである。

※どうやらカクヨム以外の他URLサイトへはリンク機能しないようなので、コピペ等で対応されたし

 尚、今回収録するにあたり、本編(はてなブログ)にて添付した画像や、文字列を一部、カクヨム用に合わせて修正削除しているのでご了承を

 では、次回は普段通りお送りしたいと思うので また乞うご期待

 

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