第2話 人ではない英雄の意味
ウルトラQ放送終了間もなく、シリーズの第2作目が放映されることとなる。
それが、『ウルトラマン』である。
そう、ウルトラシリーズの代名詞、我らがヒーローウルトラマンである。
M78星雲光の国からやってきたヒーロー。身長40メートル、体重3万5千トンの光の巨人の登場である。
前作ではヒーロー不在を特徴に挙げたが、今ウルトラマンはまさにシリーズ初のヒーローが活躍するわけだ。
さて、ここで唐突だが、皆さんは
英雄という言葉について調べてみると、優れた才能と実力を有し、非凡な事を成し遂げることのできる人 というような意味合いのようだ。
本作の主役であるウルトラマンもまさにヒーローと呼ばれるだけあって、このような定義どおりの人物である。・・・と ここで気付いた方もいらっしゃるだろう。
そう、ウルトラマンは人、即ち人間ではない。先も述べたようにM78星雲からやってきた宇宙人なのだ。
何を挙げ足取りしているのかと思われるかもしれない。確かにそれを言い出せば、ウルトラマンに限らず、他の(子供向け作品の)ヒーローも大概、人間ではないではなかったりする。
但し、考えてみて欲しい。例えば仮面ライダーは、改造人間である。城南大学の本郷猛は、悪の組織ショッカーによってその尖兵となるべくして改造手術を受けたが、
逆に自分を改造したショッカーと戦う道を選んだ正義のヒーローだ。このように仮面ライダーはあくまで元々人間であり、その彼(本郷)の意思でショッカーと戦うことを決意したのであり 本郷猛=仮面ライダー1号なのだから やはり改造された肉体とはいえ限りなく人間といえる。
その他の特撮作品でも、特に等身大ヒーローはこれに似たような構図で描かれることが多い。無論例外もあるわけだが
そんな中、このウルトラマンというのは、根っからの宇宙人であって人間ではない。
それは第1話『ウルトラ作戦第一号』を観れば一目瞭然である。宇宙の脱獄囚ベムラー(というもののその姿は怪獣。言葉通りイメージしてはいけない典型)を追って地球に飛来したウルトラマンは、科特隊のハヤタ隊員が乗った小型飛行機ビートルに衝突。ハヤタ隊員を死なせてしまう。
つまり、故意ではないにせよ交通事故を引き起こしたのがウルトラマンだったのだ。さぁ、罪人を追跡中に罪無き人間を殺めてしまい、困ったウルトラマンが執った苦肉の策 それは自分がハヤタと同化することだった。死んだハヤタは生き返らない。その代りに自身(ウルトラマン)がハヤタと一体になることで解決しようとしたわけである。幼少の頃はとくに気にならなかったのだが、よくよく考えるとこれは怖い話である。ハヤタは依然として死んでいるのだから 根本的解決にはなってないのではないか。しかし、そんな苦肉の策により、ハヤタは力を手に入れる。そう、ウルトラマンに変身できるという力を
そして、これが今回言及したい部分なのだ。果たしてそれは力であり能力といえるのかということである。
上述の同体化までの流れを検証する限り、ハヤタは偶然遭遇した事故の被害者であり、加害者であるウルトラマンの意思と決断により、一体となり、その結果として困ったときは彼に変身(呼び出す)ことができるという、いわば特権を得たというのが正しいのではないかと筆者は考えたのである。
そうして得られた特権により、その後 数々の怪獣による被害や宇宙人の侵略から人類(必然的に地球も)守ることになったわけだが、これはあくまで宇宙人としてのウルトラマンの活躍であって、ハヤタの活躍ではないという解釈である。
誤解を恐れず言えばその意味で、このウルトラマンという作品は、人間ヒーローが描かれない作品なのだ。
そもそも、前作もそうなのだが、この第1期シリーズの特徴として、人間描写は濃密ではないという事が挙げられる。
名誉のために予め言っておくと、この事自体は意図的な面もあり、子供向け番組で、濃厚な人間ドラマを描くよりも怪獣やウルトラマンの活躍を印象付けたいという事情もあったろうし、実際それが功を成し シンプルで分かり易いストーリーで子供たちを飽きさせず魅了したのも事実ではあった。
ただ、こうした敢えての淡泊な人間描写故、さらに人間がヒーローに結び付かないのではないだろうか。少なくとも筆者はそう感じる。 例えば、ハヤタは主人公でありながら、科特隊のナンバー2的ポジションで、まるで指揮官のように振る舞うこともしばしば そして冷静沈着で、常にクールフェイスを崩さない印象がある。そう、昨今よくあるこの手の作品の主人公とは違い、感情移入がとてもし辛いキャラクターとして描かれてしまっているのだ。
※だからこそ、第34話『空の贈り物』にて、怪獣出現の報に慌てて変身しようとして、ベータカプセルの代わりにカレースプーンを掲げててしまうという滑稽な姿が印象に残るのだが・・・ 尚、このエピソードも実相寺監督作品だということは是また興味深い。
但しその一方で、他の隊員たちのキャラ付けに関してはその限りではなく、火兵器開発担当?のイデ隊員は同時に科特隊のムードメーカーとして(お笑い担当)描かれているし、毒蝮三太夫演じる射撃の名手アラシ隊員もなかなかに個性の強さを見せる。
おそらく、視聴者である子供たちが、大人すぎるハヤタに感情移入できないだろうことを想定しての計らいから生まれたキャラ付けなのだろうが? こうした部分まで細かく配慮していたとすれば、当時のスタッフ制作布陣の抜け目のなさには感服するものがある。 実際、こう綴っているが こうした見解や思いというのも幼少期には全く察しもしなかったのだから こうして、月日が経って気づくことがあるのも、また止められない魅力の一つなのかもしれない。
さて、閑話休題。そうはいっても、やはり人間ドラマを主体としない作りだったことは変わらない。その人間ドラマが多分に描かれだすのが、例の第2期ブームからなのである。
ともかく、このように完全にウルトラマン(宇宙人)をヒーローとした作品かのように見えた本作であるが、実は最後の最後に人間ヒーローが描かれていることは知ってもらいたい。
本作を語る上で欠かせないエピソードがある。第39話『さらばウルトラマン』である。そう、最終回だ。
あまりにも有名なのでご存じの方も多いだろうが、この最終回で、ウルトラマンは謎の宇宙人が引き連れてきた尖兵、宇宙恐竜ゼットンとの戦いにて敗北してしまう。
特撮番組の最終回で、ヒーローが負けるというまさかの展開は、当時相当衝撃だったようで、例えば、元プロレスラーの前田日明氏はこのエピソードを観たのがきっかけで格闘技を始めたのという逸話があるくらいだ。
このようにして、よもすると最強の宇宙恐竜(何故か怪獣ではない)であるゼットンの圧倒的強さやの演出や、無敵かと思われた我らがヒーローの敗北ばかりに注目が集まりがちな本エピソードであるが、実は白眉はそこではない。
ゼットンに敗れたウルトラマンの姿を観て、一時は絶望する隊員たち。しかし、現実は受け止めねばならない。ウルトラマンは敗北したのだ。親は死んでも腹は減る。いつまでも留まってはいられないとばかりに、岩本博士開発の新兵器ペンシル爆弾でゼットンを粉砕してしまうのだ。
そうなのだ。最後の最後でウルトラマンの力に頼ることなく、人間たちの手でこの災厄を打破してみせたのだ。
このエピソードを語るとき、よく[ウルトラマンの力に頼らずに人間たちが自らの力で困難に立ち向かっていくことの大切さ]を説いているというような感想が云われがちで、まさにその通りなのだが、筆者が今回そこに独自の見解として付記しておきたいのが、先ほどから云っている[ここへきて、ようやく人間ヒーローが描かれた]とうことなのである。
もしかしたら、あのハヤタの異様な没個性も、ウルトラマン至上主義も、この最終最後の展開のために、仕組まれた伏線だったのではないかと邪推してしまうくらいに
見事な演出だと思っている。そんなことを考えさせらえる名最終回
ちなみに、もう一つ忘れはいけないことがある。ゼットンに敗れたウルトラマンとハヤタはどうなったのかということだ。ハヤタは元々死んでいるわけだから、ウルトラマンがここへきて敗北=死亡すれば、完全にアウトとうことになる。しかし、そこはしっかりハッピーエンドへ持っていくあたり流石。
ウルトラマンの上司であるゾフィーが飛来して、ハヤタとウルトラマンにそれぞれ命を与え分離して甦らせたのだ。そんなことができるなら最初から・・・というお約束はまぁ置いておき この際のウルトラマンとゾフィーのやりとりがまたニクい。
迎えに来たゾフィに対して、自分の命の心配より、ハヤタを甦らせることを優先させる気持ちを伝えるウルトラマン。 そして、願いはかなえられるどころか、両人復活という大団円へ 筆者は、初めてこのやりとりの顛末を観たとき、イソップ童話の金の斧と銀の斧の話を思い出していた。正直者は最終的に得をするというアレである。この場合は正直=犠牲の精神(潔さ) 得=双方救済 と置き換わるわけだが まあ、このように幼い筆者でさえ受け取れたのはそんなメッセージ性だったということで
さて、今回はヒーローという点に焦点を絞ってお伝えしたが、このウルトラマンの魅力はこれだけではないのは言うまでもなし 次回は、その世界観や倫理観について言及していきたいと思う。
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