第3話 契機は劇場版


 氷河期前夜にはなるが、1979年に「ウルトラマン怪獣大決戦」という映画が公開されている。こちらは前回取り上げたウルトラシリーズの狭間作品であり隠れた秀作(少なくとも筆者はそう思っている)ウルトラマン80に先立つこと約1年前に公開されたことになる。それ故、敢えて前夜と称したのだが、この作品、そもそも完全オリジナル新作とは言えない作りになっており、ウルトラシリーズ2作目にして、シリーズの代名詞にもなっているお馴染みウルトラマン(1966年放映=昭和41年)の中から数エピソードを抜き出して編集した所謂オムニバス形式であった。収録編集されたエピソードは第2話・3話・8話・16話・25話であり、これはバルタン星人、そしてレッドキングというおそらく初代ウルトラマン基、ウルトラ怪獣の中でも最も知られた怪獣と宇宙人の登場回(2・8話)、そしてそれぞれの2代目の登場回(16・25話)をまとめた形である。(3話だけは透明怪獣ネロンガ登場回) 

 実は筆者は、こうした特撮研究に興味を抱いた当初、このように、過去の栄光と人気に頼らざるを得なかったのが、氷河期前夜の宿命だったのだろうと邪推していたのだが、実はそんな安直なものではなっかたようである。

 同年この映画に先駆けて『実相寺昭雄監督作品ウルトラマン』という作品が公開されていたことを筆者が知ったのは高校生になってからであった。

 このやたらマニア心を捉えるタイトル、敢えて監督名を前面に押し出すあたりこれはもう子供ユーザーを意識しての劇場作品でないのは明らかである。

 そう、ウルトラシリーズとて、脚本家や監督は1人ではない。それは毎週放映される番組の制作性質上当然であろう。その中で一際印象深い独特なエピソードのメガホンを執ったのがこの実相寺監督なのである。例えば、元宇宙飛行士だが、火星に不時着するも人類に見捨てられその過酷な環境で人類を恨みながら怪獣と化し、地球に飛来したジャミラのエピソードを描いた第23話『故郷は地球』などは、シリーズに詳しくない方でも何となく聞き覚えはあるのではないだろうか? 

このように氏が、初代マンで監督したエピソードを集めて劇場公開したのが本作だった。

 このジャミラに代表されるように、氏に限らず当時の制作サイドのとくに脚本などは子供のみならず、大人にも訴えかけるメッセージを孕ませていたりしたものである。 それは、子供番組の皮をかぶった社会風刺であったり、問題提起であったり、そうしたメッセージがそこかしこに埋め込まれていた そう、まるでパズルのピースのように・・・  それが昭和のウルトラシリーズ(第一期)のそれこそ隠れた魅了だったのだ。 

 しかし、この大人でも鑑賞に堪えうる魅力という部分について、一般的に認識されはじめた、つまり 実はウルトラマンって深いかも? と、世間にその魅力が発信されはじめたのは、リアルタイムでこれら昭和のウルトラシリーズを観ていた世代が大人になったまさにこの時代のことで、その流れを汲んでのこの映画だったわけである。 そう、昭和40年代に子供だった特撮好きたちが、大人になってその視点で観て再評価をしていった時代。それが奇しくも、特撮というジャンル全体が冷え込むその前夜の出来事だったのは何とも皮肉なものである。

 さて、大分話が逸れた感はあるが、この実相寺マン公開があったことを考えれば、単にこの『怪獣大決戦』が、過去に頼ろうとしただけではないことが見えてきたのだった。

ここへきて、ようやく本題なのだが 筆者がこの映画の話をしたのは、他でもないこの映画が幼い筆者の心をウルトラシリーズ、そして特撮の世界へ向かわせるきっかけとなった作品だからである。

 厳密には筆者が生まれる前の公開作品なので、当時TVのロードショーで放映されたものをVHSに録画してそれを鑑賞していたわけだが、それこそ擦り減るまで・・・ もちろん、本作には実相寺作品のような深いエピソードは収録されていないわけだが、それでも子供心に特撮の魅力を刻むには十分だったのだろう。

 余談だが、この映画で新作カットとして置き換えられている第2話のバルタン星人の戦闘シーンでの着ぐるみは新造で、翌年の80でバルタン星人5代目に流用された。

 などと、マニアックな薀蓄は於いて 閑話休題

 この映画のあと1984年に『ウルトラマン物語』という昭和シリーズの名場面などを繋ぎあわせ編集して紹介した映画も公開されているが、どうもこちらは実際に劇場に観に行ったらしい(母親曰く)のだが、当時2歳故あまり記憶がないのが悔やまれる。ちなみに、もちろん後にこちらも結局(他媒体で)鑑賞しているわけだが、この作品ではウルトラ兄弟設定を描いたタロウ主役の新作パートが売り?になっているところから察するに ここへきてようやく過去作品に頼りながらも道をつけようとした試みが筆者には感じられたのであった。

 

 かくして、筆者の昭和ウルトラシリーズへの傾倒は始まった。





 

 


 

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