第12話 真一と優香…8年ぶりの再会と長島
真一と長島は、その後も仕事の合間にメールでやりとりはしていた。自主研修は長島または、真一が出席しない研修が続き、真一と長島は中々会えずにいた。
季節はあっという間に師走、仕事も年末年始に向けての追い込みとなって多忙の日々だった。自然とメールのやりとりも減っていた。
休日、真一は年賀状の作成に勤しんでいた。ところが、今年の年賀状を誤って破棄しており、代わりに破棄する予定だった高校卒業した年・8年前の年賀状が残っていた。パソコンに住所録を保存していたが、パソコンが故障気味であまり役に立っていない。仕方なく、真一は8年前にもらった年賀状の宛先と会社関係へ年賀状を作成した。友人への年賀状には、
『誤って去年の年賀状を破棄し、破棄する予定の年賀状が残っていて、とりあえず残っていた年賀状を基に送付しております。久しぶりの方には「アニョハセヨォー」』
と、当時韓流ブームだったのにちなんで、韓国語で『こんにちは』と挨拶したのだった。
年が明け、元日。初詣から戻った真一は、体調を崩し寝ていた。翌日、体調も戻り、届いている自分宛の年賀状を見る。すると、優香から年賀状が届いていた。
『あけましておめでとうございます 今年もよろしくね』
『風の便りでこれまで色々と真一くんのことを聞きました。去年入院したんやって? 大丈夫なん? 私は大学を卒業して北町に戻ってきてるよ。家近いし、一度久しぶりに会えたらいいね。連絡待ってるわ』
真一(村田さん達から話聞いたか…)
真一は優香からの年賀状を見て、びっくりしていた。年賀状が来るなんて思ってもみなかったのだ。
真一は考えていた。優香に会うべきなのか…。8年前、腹を割って話し、翌年の正月明けに南駅でマグカップをもらってから一度も会っていない。そして優香に彼氏ができて、結婚間近と思われる…と真一は、会うべきではない態度をとっていたのだが、優香の年賀状に『連絡待ってるわ』と書いてあり、動揺していた。
そこで真一は、優香へ久々に手紙を書くことにした。文通して以来、8年ぶりに書いた。
『年賀状ありがとう。いや、昔の年賀状を破棄したつもりが去年の年賀状を破棄してしまって、わからんよなったから、とりあえず破棄する予定の年賀状から辿って出したんや。元気してるみたいやな。よかった。オレ去年は災難続きやったし、入院してからは体力が落ちてて、今も京都とか大阪へも車で行けれへん(行けない)。藤岡とか白木とかに連れてってもらうか、電車で行ってるんや。体力つけて、一人で車で遠出したいんやけどなぁ…。オレは今、おとなしい良い子しとるから、仕事以外は基本ずっと南町におるから、またよかったら声かけてな』
真一は8年前の文通と同じように、自分の名前は◯の中に“し”と書いていた。
真一が優香に手紙を出して4日後、優香からハガキが届いた。真一はなぜか唖然としていた。
優香『こんにちは。手紙ありがとう。久しぶりの文通やね(笑) 手紙見てる限り、元気そうやね。でも無理したらダメよ。まだ体力が落ちてて回復してるんじゃないからね。京都とか大阪とか遠出するのなら、私に連絡してくれたら、連れてってあげるで。また声かけてな。あと風の便りで聞いたけど、真一くん、去年は良いことなかったみたいだね。入院したことだけじゃなかったんだね…。ちょっと心配しています。私もいま北町で仕事してるの。土日は休みやから、もし真一くんさえよければ、近々会わない? また連絡待ってます』
優香も8年前の文通と同じように、自分の名前は□の中に“ゆ”と書いていた。
真一は呆気にとられていた。優香が会いたがっている。
真一(オレに会いたがっているのはうれしいけど、嫁入り前の人がオレに会いたがっているなんて…)
真一は手紙で返事した。
真一『ハガキ届いたで。電話したらいいんやろうけど、電話したらそこで話し込んでしまうと思ったので、あえて手紙にした。オレも土日ならかまへんで。日時を指定してもらったらかまへんから。オレ、携帯(電話)の番号変わってないから…。念のため書いとくわ。よかったら電話して。場所とかどうしよか…。幼稚園の近くのファミレス(ファミリーレストラン)でも待ち合わせよか? また連絡ちょうだい』
4日後、優香からハガキが来た。
優香『こんにちは。手紙見たよ。じゃあ、今度の土曜日に会いますか。時間は昼イチ(昼一番)から。私が真一くんを家まで迎えに行くね。近くまで行ったら電話するから。多分長いこと会ってないからいっぱい話すんやろなぁ…。だから、早めにお昼ごはん食べて迎えに行くね(笑) しんちゃんに会えるのを楽しみにしてるわ。あと、私の携帯電話の番号も書いておくね』
真一は内心緊張していた。あれから優香はどうしていたのか、腹を割って話して背中を押した後、会って聞いてみようと思ったのだ。
そして、土曜日がやって来た。
優香が早めに迎えに来てくれるとのことだったので、真一も早めに昼食をとって優香が来るのを待っていた。
しばらくして優香から電話がかかり、お迎えの連絡が入る。
優香「もしもし、真一くん」
真一「優香さん、悪いなぁ、迎えに来てくれるなんて」
優香「病み上がりの人に無理させられないでしょ? いま南町まで来たけど、どこから行ったらいいの?」
真一「井筒屋ストアのところの信号を右に曲がって、ずーっとまっすぐ行って、線路が見えてくるから、線路の二筋手前を左に曲がって目の前の家や」
優香「わかった。じゃあ待っててね」
真一「うん」
しばらくして優香からまた電話がかかってきた。
優香「ゴメン、今葬儀所の前なんやけど…」
真一「あぁ、1つ先の信号を曲がったんやな…(笑) 歩いて行ける距離やで、そこまで出るわ」
優香「ゴメンよ」
真一「かまへんで。2分程だけ待っといて」
優香「わかった」
真一が葬儀所の前まで行くことにした。真一は少し緊張していた。実は優香も車の中で少し緊張していた。
そして、真一と優香は実に8年ぶりに再会した。
2人が通っていた幼稚園近くのファミリーレストランでケーキセットを注文し、ケーキとコーヒーを楽しみながら、8年ぶりに話した。真一の夏美との遠距離恋愛、入院した話、優香の結婚の話、そして8年前に『腹を割って話』した話…。話題は尽きなかった。
優香「私な、8年前にしんちゃんと『腹を割って話』したやんか」
真一「うん」
優香「あの時、後悔と感謝が交錯してたんや」
真一「そうか…」
(回想)
優香「私な、森岡くんと付き合ったの、後悔してる」
真一「えっ? どないしたん(どうしたの)、急に?」
優香「…………」
真一「新潟で寂しかったんか?」
優香「………うん」
真一「………そうか」
優香「でも、しんちゃんに甘えたからもう大丈夫。私を誰やと思ってるん?」
真一「幼なじみの優香ちゃん」
優香「そこまで知ってたら、私はもう大丈夫やって❗」
真一「いや、意味がわからんし…(笑)」
優香「森岡くんと付き合ったのは後悔してる。新潟に行ってから、森岡くんは何度か来たけど、森岡くんはしんちゃんになれなかった。しんちゃんに会いたかった。電話くれたとき、めっちゃ嬉しかった。電話くれたとき、今すぐにでも新潟に来てほしかった。一緒に居たかった。しんちゃんに甘えたかった。初めての気持ちになった。」
真一「…そうか……」
優香「今度はしんちゃんが話す番やで」
真一「……………」
真一は目をつぶって心の中で考えていた。優香も黙って真一が話すのを待つ。
真一「……はぁ……」
優香「…しんちゃん」
優香はずっと真一の頭を撫でている。
優香「慌てなくていいよ。しんちゃんが落ち着くまで待ってるから…」
真一「優香ちゃん…」
優香「ん?」
真一「めっちゃ偏見かもしれん。言うたらアカンことかもしれん。優香ちゃんが怒ることかもしれん…。そんなんでもオレの話聞きたいか?」
優香「事情はどうであれ、私はしんちゃんの言葉で聞きたいよ」
真一「……………」
心の中で話す真一と優香。
真一(叔父さん、もうオレ、この場には耐えられん…。優香ちゃんと叔父さん、どっちかを選ぶことができない。優香ちゃんがどうしても聞いてくる。オレの為に考えて聞いてくる。ここまで親身になってくれる幼なじみはどこにもおらん。こんな男の為に必死で話してくれる優香ちゃんは、オレにはもったいないで…)
優香(しんちゃん…しんちゃんの言葉で『あの話』聞かせて。このままではしんちゃんはダメになっちゃう…)
真一「そんなにオレの話聞いて得することないで」
優香「損得の問題やないよ。私はただ、しんちゃんの心の奥の奥にある秘めた想いを聞きたいだけ。一番大切な幼なじみの話が聞きたいだけやで」
真一「………はぁ……」
優香「……落ち着いてからでいいから…」
真一「言いたくないんやけど…」
優香「……うん」
真一「それでも聞きたいんか?」
優香「…聞かせてくれへんかなぁ…」
真一「オレ…オレ…」
優香「しんちゃん…うん…」
真一「昔、叔父さんが高校時代好きな人がおって、その女は大学進学することになってて、叔父さんも同じ大学に進学したかったけど、ウチの婆さんに断られて、反対押しきって奨学金制度使って彼女と同じ大学進学したんやけど、子供作って双方の親にこっぴどく叱られて中絶させられたんや。けど、お互い愛し合ってるんやから引き裂くことはできんから、中絶を条件に結婚を許されたんや。2人の娘に恵まれたけど、叔父さんは就職しても人間関係で辞めての繰り返しで、北町に帰ってきて就職することにしちゃったんやけど、嫁に相談せずに決めて、当時叔父さんは『うつ』になってるのに、その嫁は『離婚』を決めたんや。それから叔父さんは金目の家財道具は全て嫁に持っていかれて『裸一貫』になってしもうて、酒に溺れる日々やった。そしてある日、叔父さんは車ごと海にダイブしたんや。叔父さんは死ぬ前にオレに『オレみたいな男になったらアカンぞ』って何度も何度も言ったのが最期の言葉やった。だから叔父さん見てたら、もう結婚も恋愛もできないと思ったんや。だったら初めから興味持たん(持たない)ことにしようと決めたんや…」
優香「そうやったんか…。…しんちゃん、よう教えてくれた。しんどかったなぁ…辛かったなぁ…。そんな事があったんや…。私とくーちゃん(村田)のことがあって余計に傷つけたなぁ…。ゴメンね、しんちゃんを苦しめて…ホンマにゴメンね。私が悪かったんや…。しんちゃんがこんなに苦しんでたなんて…。だから、恋愛もスキンシップもキスも◯◯チなことも、しんちゃんにとって辛かったんやなぁ…」
真一「もう、いいよ。オレはもう終わった人間やから…」
優香「終わってないよ、これからやで❗ もう誰とも恋はしない?」
真一「その前にオレ宛にそんな女の子はおらんわ」
優香「…しんちゃんのことが好きな人がいるよ、ここに…」
真一「えっ…」
優香「昔のしんちゃんみたいに素直な気持ちが聞きたい」
優香「しんちゃんが“トラウマ”になってたのを何としてでも解かしたかったんや。しんちゃん、女っ気なかったし。でもさっきの元カノの話聞いてて、私があの時に元カノみたいに積極的にやってたら、しんちゃんの苦労が早くなくなってたかもしれん…て」
真一「気にせんでもええよ。オレが決めた道なんやから」
優香「私だけ幸せになるのはおかしいって」
真一「違うで。オレは幼稚園から優香ちゃんを知ってるんや。優香ちゃんは1人にしたらアカンって…。北町にいるときは家族、オレ、村田さんらもおる(いる)。けど新潟ではアイツ(森岡)と別れてから1人やった。だから優香ちゃんは、常に誰かそばにおって人がおらんとアカンのや。『遠距離』ではアカンんちゅう(という)ことやろ? だから優香ちゃんが幸せになるのは、オレの願いでもあるわけや。近くで旦那を見つけてくれたからな…」
優香「私な、遠距離でもしんちゃんと付き合っといたら良かった…って思った事もあった。だって『初恋の人・しんちゃん』なんやで。元カノみたいにしんちゃんに甘えといたら…って。そしたら、真一くんのお嫁さんになってたかも…(笑) 今の旦那と知り合うまではね。でもしんちゃんは私の事を考えて、私の背中を押してくれたんやから…。それで今、しんちゃんは幸せになってないやんか❗」
真一「高校の時から言うてるやん。オレはこの世に生まれた時から1人、回り回って、結局は1人なんやって。言うた通りや。それにオレには彼女がおる。『旅』やでなぁ…(笑)」
優香「一人っ子の一人息子が、そんなん良いわけないやん❗」
真一「じゃあ、いまから優香ちゃんがオレのお嫁さんになってくれるんか? 無理やろ?(笑)」
優香「しんちゃん…」
真一「気にすんなって。例え話や。でもそういうことやで。それに、こうやって腹を割って話せるのは、今の男友達より悪友(親友)。悪友よりも幼なじみの優香ちゃんやな」
優香「そうか…」
真一「オレ、幼稚園の時に優香ちゃんと出会えて良かったわ。あの時、オレの隣の席が優香ちゃんやったから、今もこうして腹を割って話せるんやで」
優香「そりゃそうやわ。私だって真一くんやで話せるんやで。私も幼稚園の時に真一くんと出会えて良かったわ」
真一「うん」
優香「しんちゃん、でももう私は北町に帰ってきてるから、昔みたいにいつでも連絡してきてな。私は出来る限り、真一くんを助けたい。私だけ幸せになって、真一くんだけ不幸続きなのは、私にとっては不本意や。だから今ならしんちゃんのこと、昔みたいに面倒見れるからね。遠慮しないで。手先が器用なことせんなん(しないといけない)のなら、また私がするからね」
真一「優香ちゃん、無理したらアカン」
優香「無理じゃないよ。しんちゃんが『旅』っていう彼女より、女の子探さないと…。あ、私が探してあげよか?(笑)」
真一「いやー…、そんな人おらんやろ?(笑)」
優香「わからんやんか。元カノみたいに積極的な彼女やないとアカンかなぁ…。ウチのお姉ちゃんは彼氏いるし…」
真一「身内で探すか?(笑) もし、優香ちゃんのお姉さんと…ってなったら、オレ、優香ちゃんの義理の兄貴になるんやで(笑)」
優香「あ、それはアカンなぁ。義理のお兄ちゃんが幼なじみで手先が不器用で、義理のお兄ちゃんのこと、お姉ちゃんより詳しい…って、それはなぁ…(笑)」
真一「何想像してんの?(笑)」
優香は大笑いした。
真一「ところで、旦那さんは大学で見つけたんやろ?」
優香「うん。8年前にしんちゃんに言われた通りに…」
真一「そうか…。地元新潟の人?」
優香「岐阜の人。でも石川の自衛隊で飛行機乗ってるよ『(両手を広げながら)ブーン』ってね(笑)」
真一「そうかぁ、ええ旦那さん見つけたなぁ。安月給の会社員よりよっぽどええで、自衛隊は」
優香「旦那さん自身が自衛隊に行きたかったみたいやったから…」
真一「ええやん。良かった良かった。はよ嫁にもらってもらわな…」
優香「うん…。しんちゃん、ホンマに女の子探さへんの?」
真一「いま病み上がりやから、そこまで頭にないなぁ」
優香「ちーちゃん(滝川)から聞いたんやけど、しんちゃんが奈良のちーちゃんのところへ行った時に『病み上がりなんやから傍におってくれる人がいないと…』ってちーちゃんに言われたんでしょ?」
真一「うん」
優香「じゃあ探さないと…。昔から言うてるでしょ、一人っ子なんやから…。気になる人いないの?」
真一「いないよ」
優香「ちょっと周りの景色みてみようよ。女の子に注目せんと…。しんちゃんが私の背中を押してくれたから、私はもうすぐ結婚するけど、しんちゃんをこのままにはしておけない。今度は私が真一くんの背中を押さないとね…」
真一「まぁ、オレのことはいいから…」
優香「アカン❗ 絶対しんちゃんのこと気になる人いるから❗ 探したらいるって」
真一「…わかった」
優香「ところで、しんちゃんは旅に出るとしたら、どこ行きたいの?」
真一「うーん、そうやなぁ…。あ、優香ちゃんの顔みてたら、新潟でも行こかなぁ。結局、優香ちゃんのところへ行くことなかったから…(笑)」
優香「ベッドで一緒に寝られへんかったもんなぁ(笑)」
真一「おいおい、旦那に怒られるわ❗ 何言うてんねん(笑)」
優香「あの時はまだ旦那と付き合ってないから大丈夫や(笑)」
真一「いや、そういう問題やないねん」
優香「やっぱり、しんちゃんはあの時私のところに来ておいたらよかったんや。そしたら『腹を割って話す』のが『延長戦』に入ってたかも。そしたら付き合ってたかもね…(笑)」
真一「どうなんやろなぁ…。なんせあの当時はお互い都合がつかんかったから…」
優香「タイミングが合わんかったもんなぁ…。運が悪かったんかなぁ…。あ、でも新潟はいいよー。美味しいもんもあるし、お米もお酒も美味しいで」
真一「昔、優香ちゃんに買ってきてもらって、新米と酒を送ってもらったことあったけど、あれから気になってんねん」
優香「連れてってあげよか?」
真一「旦那に怒られるわ」
優香「大丈夫やって」
真一「アカン。一人旅」
優香「彼女と二人旅せんとアカンわ。私と新潟でデートするか?(笑)」
真一「おいおい、もうすぐ人妻になる人が何言うてんねん(笑) まぁ『彼女』と“二人旅”にはなるけどね…(笑)」
優香「違う。それは一人旅や❗」
真一「おかしいなぁ…」
優香「おかしくない❗」
真一「はぁ~…」
優香「ため息つかないの」
真一「うん…」
優香「8年前、しんちゃんは私の背中を押したから、今の旦那と付き合うことになって、結婚するんや。私だって、しんちゃんの背中を押したいんだよ」
真一「今まで十分押してくれたやんか。だからオレは今まで返すことが出来んかったから、優香ちゃんの背中を押したんや」
優香「しんちゃん…」
真一「オレらは『初恋の人』同士やけど、やっぱり『幼なじみ』なんやから…。21年前、そこの幼稚園の年中組でイスを渡したところからや。席もとなりやったし…。高校で再会して、オレは優香ちゃんにいっぱい背中を押してくれたんや。アイツ(森岡)がおっても背中を押してくれた。ただの友達とは違った。だからオレがいつも優香ちゃんに返すもん(もの)がなかった。あの時(8年前)しかなかったからや」
優香「そうかぁ…。私らはやっぱり『幼なじみ』やもんね、真一くん…(笑)」
真一「うん…。あ、もう夕方やんか。4時間もしゃべってるで(笑)」
優香「やっぱりしんちゃんとしゃべってると、時間なんてあっという間やわ(笑) そうかぁ、4時間もしゃべってたんや(笑) やっぱり女同士とかで話すのとは違うわ。やっぱりしんちゃんやな」
真一「しかも、このファミレスやし」
優香「そうやな…。じゃあ、しんちゃん『なでなで』して」
真一「おいおい、旦那にやってもらいなぁ(笑)」
優香「アカン、これはしんちゃんの特権なの」
真一「いや、そんな特権いらんで(笑)」
優香「ダーメ。卒園のときにここでしてくれたでしょ」
真一「もういつの話や? 20年前やで(笑)
もう『なでなで』は時効や 」
優香「時効やない。結婚前やし、最後にしてよ」
真一「………」
優香「しんちゃん、幼稚園卒園の時、嬉しかったんやで。小学校が違って寂しかったけど、ここで真一くんのあの『なでなで』が嬉しかったんやから」
真一「そうか…」
優香「だから『幼なじみ』なんやで、20年ぶりに…」
真一「20年ぶり? いや、高校でも高校卒業してからも、その後もしてますけど…(笑)」
優香「細かいことは気にせんの❗」
真一「もう、この幼なじみは…。幼稚園の時、こんなうるさくなかったのに…。めっちゃおとなしくて、優しくて、笑顔も印象あって、かわいい良い子やったのに(笑)」
優香「うっさいなぁ…」
真一「(笑)…」
優香「しんちゃん…」
真一「…もう、ホンマに1回だけやでな。もう金輪際無いで。結婚してんやから」
優香「うん…」
真一「幸せになるんやで…」
真一は優香の頭をいっぱい撫でた。優香は目をつぶって真一に撫でてもらっていた。
(回想)
幼稚園卒園式の後、真一親子と優香親子はファミリーレストランで食事をしている際、真一はお子さまランチのハンバーグを食べながら優香の頭を撫で続けた。優香は寂しそうにしながらも真一の肩に頭を寄せる。
(回想)
高校の卒業式の前日、高校駅に向かう真一と優香が話していた。
優香「なぁ、しんちゃん…」
真一「何や?」
優香「頭なでなでしてくれへんの?」
真一「拓(森岡)にしてもらわんかったんかいな?」
優香「うん」
真一「なんで?」
優香「幼なじみじゃないから」
真一「アイツ彼氏やろ?(笑)」
優香「彼氏と幼なじみは違うの❗」
真一「そうか…」
優香「なぁ、ダメ?」
真一「また今度」
優香「今度って、明日で卒業するっちゅうねん❗(笑)」
真一「家帰ってから、しんちゃん(優香の弟の新次)にしてもらいなぁ。
優香「しんちゃんのいじわる❗」
真一「(笑)…」
優香「もう、最後までいじわるするんやから…(笑)」
真一「最後までいじっとかんと、もういじれんよなるから今のうちにしとかんとなぁ…総ざらいや(笑)」
優香「もう…」
真一「(笑)…。…優香ちゃん」
優香「何?」
真一「大学行っても頑張れよ」
優香「うん。しんちゃんもこっちでお仕事頑張ってね」
真一「うん」
優香「不器用なんやし、これからは私に頼れないよ」
真一「わかってるわ」
優香「私は新潟やからね」
真一「あぁ…」
…………………………………
高校駅から電車に乗った2人。南駅に電車が到着する。
真一「優香さん、少しいいか?」
優香「うん…」
電車のドア付近で真一はホームに降り、優香はドアの前に立った。
優香「どうしたん?」
真一「ん?」
真一は笑いながら優香の頭を『なでなで』した。
真一「じゃあ、お疲れ❗」
優香「うん(笑)」
真一と優香はお互い手を振った。
(回想)
真一は仕事が終わり、福町駅から電車に乗ると、次の高校駅で優香が乗ってきた。2人は話していて、電車が南駅に到着する前のことだった。
優香「じゃあ、今日も『なでなで』してもらおうかなぁ…」
真一「拓(森岡)にやってもらえって…(笑)」
優香「これは彼氏がする仕事やないの。幼なじみがする仕事なの」
真一「これ仕事か?(笑)」
優香「うん(笑)」
優香は真一のとなりに席を移動する。
優香「はい」
真一「…………あのなぁ、働き出してもせんなんの?(笑)」
優香「もう、今しかないよ(笑)」
真一「明日もこの電車乗ったらおるやろ」
優香「今日がいいの」
真一「何甘えてんの? どうした?」
優香「どうもせん(しない)よ。ほら、しんちゃん…」
真一「…もう、しゃあないやっちゃ(奴や)なぁ」
真一は渋々、優香の頭をなでなでした(撫でた)。
真一「今度からは拓(森岡)にやってもらってください。オレの時代は終わりました」
優香「なんで?」
真一「昔の人はこれまで。これからは新しい人にお願いせなアカン。だから今は彼氏の拓やんか」
優香「うーん…」
真一「じゃあ、帰るわ。南町やし」
優香「うん…」
真一は優香の寂しそうな顔を見て、真一は優香の前に戻る。
真一「もう…、(幼稚園の)年長組は12年前に卒園しとんや。子供か(笑)」
といって、優香の頭をなでなでした。
真一「じゃ…」
優香「バイバイ(笑)」
…………………………………
翌日も真一と優香は同じ電車で帰っていた。南駅に電車が到着すると真一が下車する。電車が南駅にまもなく到着するという時に優香が言った。
優香「しんちゃん」
真一「どうした?」
優香「多分今日がこれ最後で、新潟に行くと思うわ」
真一「…そうか」
優香「うん」
真一「気をつけてな」
優香「うん。しんちゃんも」
真一「あぁ。頑張ってな。優香ちゃんなら大丈夫や。アイツ(森岡)もたまに顔見に行くんやろうから…。アイツに任しといたらええんとちゃうか?」
優香「…うん。なぁ、最後に…」
真一「なんや?」
優香「『なでなで』……」
真一「昨日したやん(笑)」
優香「昨日『明日にして』って言うたやんか(笑)」
真一「結局昨日したやんか❗(笑) ……最後やし、しゃあない(仕方ない)なぁ…」
真一は優香の頭を撫でた。
優香「じゃ、元気でね」
真一「おう、気をつけてな…」
優香「うん」
真一と優香はホームと電車内でお互い手を振った。
真一は電車が発車してしばらく優香に手を振った。優香も真一に手を振った。電車が過ぎてから、真一は思いに更けながら何も言わずに改札口を出て南駅を後にした。
一方、優香は電車の中で少し泣いていた。
優香(しんちゃん…、また離ればなれやな…)
優香は真一の気持ちを噛みしめながら、新潟へ向かった。
真一「20年も『なでなで』か…」
優香「しんちゃん…」
真一「ん?」
優香も真一の頭を撫でた。
優香「しんちゃんも、『旅』じゃなくて『女の子』の彼女探すんやで❗ 絶対やで❗ 私の言うこと聞くんやで。また変なことしてたら、電話するでな」
真一「オレ、人妻に監視されるんか?(笑)」
優香「人妻言うな」
真一「人妻になるやんか(笑)」
優香「そうやけど…もう(笑)」
真一も優香の顔を見て笑う。
真一「さてコーヒーを何杯もおかわりしてるし、帰りますか」
優香「あーあ、もっとしんちゃんと話したいわ」
真一「(笑)…。旦那さん待ってるんとちゃうの?」
優香「旦那は今出張で演習に行ってるから大丈夫なの」
真一「そうか」
優香「しんちゃん、また会えるかな?」
真一「ないかも…」
優香「なんで?」
真一「なんやかんやで優香ちゃんが結婚する時期になるんやないかな…」
優香「そうかなぁ…」
真一「わからんけど…。まぁまた機会があれば…やな」
優香「うん…。帰ろっか」
真一「あぁ…」
そして真一と優香はファミリーレストランを出て、優香の車に乗る。優香が運転し、真一を家まで送る。真一の家に着くと、優香が話す。
優香「真一くんの車って、ガレージに停まってる車?」
真一「そうやで」
優香「ワンボックス車なんや」
真一「うん。人も荷物も積めれるし、それに旅で遠出も家出もできる。車中泊可能やでな(笑)」
優香「また悪いこと考えてるなぁ」
真一「人聞き悪いこと言わないの」
優香「私も結婚したら、旦那にワンボックス車買ってもらおう。ええヒントもらった(笑)」
真一「これこそ、悪いこと考えてるなぁ(笑)」
優香「人聞き悪いこと言わないの❗」
真一「人のこと言われへんやんか(笑)」
優香「もう…(笑) なぁ、しんちゃん」
真一「ん?」
優香「ありがとう」
真一「おう。絶対に幸せになるんやで」
優香「うん…、ありがとう。しんちゃんも彼女見つけるんやで。絶対やで。私、今でも心残りで後悔してるんやからね…」
真一「…わかった」
優香「結婚しても、たまにチェックするでな」
真一「だから、なんで監視されなアカンねん?(笑)」
優香「なんでって…、そりゃあ大事な幼なじみのしんちゃんやからや(笑)」
真一「結婚したら、『幼なじみ』も卒業や」
優香「いいや、卒業なんてない。私から見て、結婚してもしんちゃんはしんちゃんなんやでな」
真一「そうやな。優香ちゃんが結婚しても、優香ちゃんは優香ちゃんやでな」
優香「うん。じゃあ、またね」
真一「あぁ。ありがとう、遅くまで」
優香「ううん、もっと話したかった。でも、めっちゃ楽しかった(笑)」
真一「オレもゆっくり話せて良かったわ」
優香「うん、じゃあね」
真一「あぁ」
真一が優香の車から降り、優香と真一はお互い笑顔で手を振った。優香の車が見えなくなるまで、真一は見送った。
その後も、真一と優香は文通を続けていた。
お互い心のどこかに『初恋の人』であり、『幼なじみ』であり、『大親友』という立場でいたからだった。
翌日、出勤した真一は事務所で事務処理をしていた。すると、長島からメールが入る。
長島『おはよう』
真一『おはよう』
長島『今週末は何か予定あるん?』
真一『今のところはないよ。どうしたん?』
長島『会えへん?』
真一『京都でか?』
長島『まだ体力は万全ではない?』
真一『100%ではないけど、7割くらいかな…』
長島『どこかで会えへんかなぁ…』
真一『京都へ行くのはかまへんけど、何かあったんか?』
長島『…しんちゃんと話がしたくて』
真一『わかった』
長島『どこで会う?』
真一『そっち行こか? 近くにビジネスホテルあったっけ?』
長島『ウチで泊まりなよ』
真一『悪いやんか』
長島『1回一夜を共にしたのに…?(笑)』
真一『あれは緊急性のもんやろ?(笑)』
長島『じゃあ、週末楽しみにしてるわ』
真一『わかりました』
真一はメールを送った後、ため息をついた。そして心の中でつぶやいた。
真一(昨日優香ちゃんに会っていっぱい話して、今朝早くから珍しくメールしてきたなぁ、りっちゃん。昨日の(優香と会っていた)こと、見てたんやろか…。なんちゅう(なんという)タイミングや…。優香ちゃんの次はりっちゃんか…。この後、白木と大川先生にも会うし…。忙しいなぁ…(笑))
週末土曜日、真一は京都へ向かった。体力が万全ではないため、先週末に優香から『私に言ったら連れてってあげる』とは言われていたが、結婚目前の優香を頼ることはできないと判断した真一は、南駅から電車で京都へ向かった。
前日に真一は長島に電車の時間を連絡していて、京都駅で待ち合わせる約束していた。
真一が乗った電車が京都に到着し、待ち合わせ場所に行くと、長島がコートにマフラーを羽織って待っていた。
長島「お疲れ様」
真一「お待たせしました」
長島「じゃあ、行こっか」
真一「うん」
長島「ショッピングしてもいい?」
真一「あぁ」
真一は長島の言われるがまま、ショッピングに付き合った。
洋服に靴、食料等、真一は荷物持ちを兼ねて長島のショッピングに付き合った。
そして、長島のマンションへ移動する。
長島「しんちゃん、今夜は何食べたい?」
真一「晩飯はりっちゃん作るんか?」
長島「しんちゃんが折角会いに来てくれたんやからね(笑)」
真一「そうか。こだわりはないよ。りっちゃんにおまかせ。折角オレの為に気ぃ使ってくれてるんやから…」
長島「私、揚げ物最近食べてないからトンカツとかでもいい?」
真一「かまへんよ。揚げよか?」
長島「油が跳ねるのを恐がってるって思ってる?」
真一「ウチのお母ちゃんが揚げ物するとき、『揚げてたら胸やけがする』って言うもんやから、りっちゃんも何かあるんかなぁ…と」
長島「大丈夫やけど、じゃあ折角やし、お願いしてもいい?」
真一「わかった」
真一は揚げ役をかって出た。
2人でトンカツを完成させ、試食する。
真一「いただきます」
長島「揚げ役、ありがとう」
真一「かまへんで」
長島「家でもお母さんの手伝いしてるんや」
真一「まぁ、手が空いてたら」
長島「えらいなぁ。しんちゃんは一人っ子やから、ご両親も優しいんやろなぁ」
真一「どっちが子供かわからんけど…」
長島「何それ?(笑)」
真一「親父なんか、甘いお菓子とか『欲しい』とか言うてだだっ子になるときがあるわ。アホやで」
長島「(笑)…」
夕食を済ませ、長島は真一に声をかける。
長島「しんちゃん、お風呂沸いたから入って」
真一「かまへんの?」
長島「どうぞ」
真一が風呂に入る。
しばらくして、長島が脱衣場で真一に声をかける。
長島「しんちゃん」
真一「何?」
長島「…ううん、なんでもない」
真一「うん…」
しばらくして真一が風呂からあがり、長島が風呂に入る。
その間、真一は考えていた。
真一(りっちゃん、前にもオレが風呂に入ってるとき、何か言いたそうな感じやったなぁ。何やろ? 何か寂しいことでもあったんかな…)
しばらくして長島が風呂からあがり、パジャマ姿で戻ってきた。
長島「お待たせ」
真一「いえいえ」
長島「何か飲む?」
真一「お茶でいいよ」
長島「しんちゃん、ジュースとか飲まへんのや」
真一「そうやなぁ、理由はないけどお茶飲んでるなぁ」
長島「そっか…」
長島がお茶を真一に渡す。長島もお茶を飲む。
真一「なぁ、さっきも前回来たときもやけど…」
長島「何?」
真一「風呂に入ってるとき、何かオレに言いたそうな感じやったけど…」
長島「ううん、なんでもない」
真一「ホンマは何が言いたかったん?」
長島「……しんちゃんとお風呂に入ろかなぁ…と…」
真一「そうか…」
長島「一緒に入りたかった?」
真一「嫌ではないけど、いいんかなぁ…って…」
長島「そうかぁ…。じゃあ、明日一緒に入る?(笑)」
真一「無理にしなくていいから…」
長島「なぁ、しんちゃんは私のことまだわかってもらう途中なんかなぁ…」
真一「年末年始まで、仕事バタバタやったから、ゆっくり考える時間がなかった…」
長島「そうやんなぁ…」
真一「焦ってるんか?」
長島「そうじゃないけど、自分でも知らんうちに焦ってるんかも…」
真一「なんでそんなに焦ってんの? オレらまだ20代やんか」
長島「そんなん言うてたら、あっという間にアラサー(30代)になるわ」
真一「そうか…」
長島「しんちゃん、やっぱり私はしんちゃんの幼なじみ(優香)の代わりにはならないよね…」
真一「代わり? りっちゃんはりっちゃん、幼なじみ(優香)は幼なじみ(優香)や。そんなん、ただ似てるだけって言うだけやんか。オレは去年ここでりっちゃんと話したわなぁ。りっちゃんに言われて、りっちゃんのこと考えてるし、どんな女性なのかも見てるで。けど、オレが情報不足なんや。時間かかっててゴメン」
長島「ううん、ちゃんと考えてくれてるから大丈夫や」
真一「時間切れやったら言うてな」
長島「大丈夫やって。もう少しなんやろ?」
真一「うん…」
長島「私もいろいろアピールするわ(笑)」
真一「そうか…」
長島「うん。今日は甘えてもいい?」
真一「……オレは電柱になっておくから…」
長島「アカン。ちゃんと男になっててよ(笑)」
夜、ベッドに入る真一と長島だった。
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