第9話 真一と長島…腹を割って話す①『長島の想い』

研修が終わり、各自解散となった。真一は車を本社の駐車場に停めたまま、長島と徒歩で京都駅へ向かう。


京都駅から電車に乗り、長島の自宅マンションに着いた。


長島「ごはん食べながら…とも思ったんやけど、私いま独り暮らししてるから、ウチでもいい?」

真一「ええのんか、こんな男呼んで…?」

長島「その代わり、晩ごはんの買い物するから、買い物付き合ってな」

真一「わかった」


長島に言われるがままに真一はスーパーへ、夕飯の買い物について行く。


買い物を済ませた真一と長島は長島のマンションに到着する。


長島「散らかってて、ゴメンな」

真一「いえいえ、おじゃまします。きれいやんか」

長島「そんなことないよ…」

真一「ちゃんと片付いてるで」

長島「そうかなぁ…」

真一「うん」


長島は買い物で調達した食材で料理する。

あっという間に料理を完成させ、真一と長島が夕食をとる。


真一「いただきます」

長島「どうぞ」

真一「うまい」

長島「ホンマ?」

真一「うん。ええ嫁さんになるわ」

長島「ありがとう(笑)」

真一「ところで、話って?」

長島「なぁ、ここからは会社の同期で同い年の立場やなくて、友達として話したい。セクハラではないから、安心してね(笑) 言うたら、腹を割って話したいんやけど…」


真一はドキッとした。


真一(えー、りっちゃんまでも『腹を割って話す』んか…? その顔で『腹を割って話す』と、あの時のことが…)


そう、それは入社した年の盆休みに新潟から帰ってきた優香と『腹を割って話す』ことがあり、真一の脳裏に記憶が甦っていた。




(回想)

優香「私な、好きな人がいるんや」

真一「電話で言うてたなぁ。アイツ(森岡)は断ったということは、アイツ以外でって言うことやんなぁ?」

優香「そうやで」

真一「向こう(新潟)の人?」

優香「こっちの人」

真一「え? アイツと別れた理由が『遠いから飽きた』って聞いたんやけど…。でもこっちの人? どういうこっちゃ?」

優香「タクくん(森岡)は大阪やから遠い。でもこっちはまだ近いよ」

真一「いや遠いで❗ 向こう(新潟)から見て、大阪もこっちも変わらんよ」

優香「そう?」

真一「うん。それでこっちの渦中の人とは会ったんか?」

優香「会ったよ」

真一「うまいこといってるの?」

優香「どうなんかなぁ…」

真一「こっちの人って、どこの人やったっけ?」

優香「同じ町」

真一「近いやん」

優香「うん。近所のお兄ちゃん」

真一「近所のお兄ちゃんやったら、近いやんか。加藤さんとこみたいにとなりの家のお兄ちゃん?」

優香「となりではないけど、近所のお兄ちゃん」

真一「なんか、今日は『近所のお兄ちゃん』よう聞くなぁ…」

優香「うん。それでな、どうしたらいい、しんちゃん?」

真一「どうしたらって…」


優香が『好きな人』について真一に腹を割って話す。


真一「どうしたら…って、どうしたらいいんやろなぁ…? 電話でも言うたけど、今までオレが優香ちゃんに相談したりしてたけど、優香ちゃんから相談受けたのは初めてとちゃうか?」

優香「そうかも…」

真一「うーん…。近所のお兄ちゃんに会ったんなら、お兄ちゃんの所へ行って来たらええやん。お兄ちゃんと腹を割って話したら? お兄ちゃんは好きな人いてるの?」

優香「わからん。しんちゃんは好きな人いないの?」

真一「え、オレ? オレは…」


真一(優香ちゃんが幼稚園のイスを取りに行った時に初めて満面の笑みを浮かべた時から大好きや。でも『叔父さん』の事があって、強烈なインパクトがあるし、高校の時村田さんにフラれた時の返事が『興味ない』と言われて『興味なかったから人に興味持たせておいて、結局興味ないって言われた』から興味なくなった。それは優香ちゃんには関係ないし、オレの問題や)


真一は相当悩んでいた。


優香「しんちゃん?」

真一「あ…えっ?」

優香「どうしたん? 好きな人いないの?」

真一「あぁ…。オレの事より優香ちゃんの事やろ?(笑)」

優香「そうやけど、しんちゃんの好きな人、気になる❗」

真一「なんでやねん? オレは関係ないやろ?(笑)」

優香「……参考までや」

真一「参考? オレのは参考にならんで(笑)」

優香「マジで好きな人いないの?」


真一(いるで。優香ちゃんやで。幼稚園の時から優香ちゃんが大好きや。けど、オレはトラウマがあってどうしても言えない。どう返事しようか…)


真一「……」

優香「なぜ言えないの?」

真一「……昔はおった…ってとこかな」

優香「今は?」

真一「うーん…、高校の時みたいに興味ない…という訳ではないけど、わからんというか、考えたことがないというか…」

優香「そうかぁ…。私、高校の時にしんちゃんがくーちゃん(村田)にフラれて、あの時『もう興味持たん』って言ってたから、まだ尾引いてるのかな…と」

真一「尾引いてないって言うたらウソになるけど、でもどうしても通らなアカン道なんやとはわかってるけど、トラウマがね…。まぁオレのことより、優香ちゃんやな」

優香「うん…」




甦った記憶を思い出していると、長島が声をかける。


長島「なぁ、しんちゃん…?」

真一「え、あぁ…。何かあったんか?」

長島「彼氏と別れたのは、しんちゃんの話を聞いたから、私も見つめ直そうと思ったからなんや」

真一「そうやったんか…。なんか悪いことしたかな…」

長島「ううん、逆にいい刺激になったんや」

真一「そうか…」

長島「ウチな、しんちゃんの話をこの前から聞いてて、ずっといい刺激になってたんや。幼なじみ(優香)の話、元カノ(夏美)の話…。仕事以外の事で色々勉強になってんねん」

真一「そんな、大げさな…(笑)」

長島「マジやって。事務所におっても、専務はいてるし、おじさん達に囲まれてるから、中々なんやって」

真一「そうかぁ…。ガス抜きせんとアカンなぁ…。同級生とか、仲の良い友達とメシ食いに行ったりせえへんの(しないの)?」

長島「それが中々タイミングが合わなくて…。それで、しんちゃんが最近都合合うから…(笑)」

真一「あ、そう。同期の同い年や…っていうだけやけど…」

長島「ううん。なぁ、私を誰やと思ってんの? だって私はしんちゃんの幼なじみにうりふたつのりっちゃんやで(笑)」

真一「…(笑)」

長島「幼なじみとは高校卒業してから会ってたの?」

真一「2回会ったかな…」

長島「いつ?」

真一「入社した年の盆休みと翌年の正月休みに」

長島「話してたん?」

真一「うん」

長島「幼なじみと、何もなかったの?」

真一「…盆休みに『腹を割って話』してた」

長島「『腹を割って話』してどうやったの?」

真一「前にメールでも言うたけど、両思いやったことがわかった」

長島「そやのに、なんで付き合わんかったん?」

真一「元彼と遠距離になって、『遠い、飽きた』って言うて別れたらしい。ほんとのところはわからんけど。それで今度オレっていうのも、『遠い、飽きた』の二の舞になると思ったし、幼なじみ(優香)はりっちゃん同様に美人やから、大学で絶対アプローチされるって思ったんや。だから、遠い幼なじみより近い大学が幼なじみにとって良いと思ったから、背中を押したんや」

長島「そうやったんや…。けどそれは幼なじみにとっては『余計なお世話』やったんとちゃうん?」

真一「そうやったかもしれん。当時のオレはそう思ったんや。けど元カノと付き合うときに、幼なじみ(優香)の気持ちがわかったんや。『遠いからすぐに会えない、すぐに行けない、お金も時間もかかる、重荷になる』って。でもそれでも『会いたい、愛しい』って…」

長島「しんちゃん、よう勉強したなぁ…。それで元カノと遠距離恋愛したんや」

真一「うん、自分に言い聞かせてなぁ…」

長島「そうやったんや…」

真一「りっちゃんは、これからどうするん?」

長島「何も考えてへん。別に1人でもいいし…」

真一「そうか…」

長島「しんちゃんは、これからどうすんの?」

真一「何も考えてへん(ない)」

長島「彼女欲しい…ってならへんの?」

真一「うーん…。オレ、幼なじみ(優香)以降、自分で彼女欲しい…って考えたことないんや」

長島「元カノの時はどうやったん?」

真一「元カノから告白されたんや」

長島「そうなんや。そこまで積極的やったんや…。◯◯チだけではなかったんやな(笑)」

真一「なんや、どないしたんや? 実は彼氏欲しいんか?」

長島「ううん、別に…」

真一「それにしては恋愛話には食いついてくるやんか(笑)」

長島「…あのな…」

真一「ん、なんや?」

長島「私、好きな人がいるかも…」

真一「なんやそれ…」

長島「気になる人ができたんや…」

真一「そうか…。元彼のこと、吹っ切れそうか?」

長島「気になる人次第かな…」

真一「そうか」

長島「なぁ、しんちゃん」

真一「ん?」

長島「私、どうしたらいいんやろ?」

真一「え?」

長島「どうしたらいいんやろ?」


真一は絶句した。優香と同じ事を言い出した長島だった。優香の顔にうりふたつなので、余計に困惑していた真一だった。


真一「………、どうしたらって…、どうしたらいいんやろなぁ…(笑)」

長島「なぁ、しんちゃん、どうしたらいい?」


真一が心の中で叫ぶ。


真一(りっちゃん、優香ちゃんと全く同じ事を言うてきてる。一体どこまで似てるんや?)


真一「気になる人は、近所におってんか?」

長島「近所ではない。遠くにおってや」

真一「遠距離になるんか?」

長島「遠距離ではないけど、ちょっと遠いかな。でもまだ近い方やわ」

真一「あ、そう」

長島「で、私はどうしたらいい?」

真一「だから、りっちゃんが気になる人のところへ行ったら良いんと違うんか?」

長島「そうやけど…」

真一「なんか不満なんか?」

長島「不満でもないけど…」

真一「なんや、奥歯に物挟んだ言い方…(笑)

腹を割って話してるなら、話してみたら? いまオレしかおらんし…。それともオレにも言えんことなんかな…。まぁ、それなら言わんでもええけど…」

長島「しんちゃんは今好きな人いないの?」

真一「元カノと別れてから、婆さん死んで、オレ入院して…ってなってたから、そんなこと考える暇がなかったっていうやつかな…」

長島「考える暇がなかったんや…」

真一「なんや、どうしたん今日は?」

長島「これから先は考えへん(考えない)の?」

真一「そんな出会いみたいなもんがあったら…とちゃうか?」

長島「そうかぁ…」

真一「りっちゃんは、気になる人のところへは会いに行かへんの?」

長島「………」

真一「………?」

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