第5話 真一と長島…長島の写真
仕事から帰宅後、風呂と夕食をすませた真一は、自分の部屋で長島から届いた封筒を開ける。
真一が送ったように、封筒は二重に入っていて、表の封筒の宛先には『福町営業所・堀川様 経理・長島』と書いてある。その封筒を開けると、次の封筒が入っており、宛名には『堀川くんへ』と書いてあり、宛名には真一が優香との文通の時に優香が書いていたように□(四角)の中に“り”と書いてあった。『理沙』という意味だ。
真一(アカン、この差出人の書き方、ますます優香ちゃんと重なるやん…(笑))
長島から届いた封筒には、写真と手紙が入っていた。
長島『しんちゃん、幼なじみの写真、見せてもらいました。ビックリの連続やし❗(笑)
なんなん、体育祭の写真なんか、私の写真と立ち位置とか写り方、仕草も全く同じなんやけど…。怖いくらい私とうりふたつやんか❗
しんちゃんの言ってた通り、私としんちゃんの幼なじみはホンマにそっくりやわ。ということは、しんちゃんは私を見たら幼なじみと見間違えて“ドキッ”とするわけやな…(笑) けど、しんちゃんの幼なじみ、めっちゃかわいいやんか❗ なんで付き合わんかったん? 他の男にとられてたんやろ? アカンやん、想ってなくても付き合わんと(笑) 私がしんちゃんの立場やったら、「付き合って」って告白してるわ。それはそうと、私の高校時代の写真も一緒に送るね。私は女子高やったから、男子はいないので…。まぁ、よく見比べてみて。特に体育祭の写真は❗(笑) 』
手紙を見た真一は、心の中でつぶやく。
真一(言いたい放題言うてるなぁ…(笑) どれ、りっちゃんの写真見てみるか)
真一は長島の写真を見る。1枚目は教室で撮影された友達との写真。
真一「制服の感じからして、優香ちゃんっぽいなぁ…」
2枚目の写真は、修学旅行の時の写真のようだった。
真一「修学旅行かな…。髪型ショートヘアにしてるやん。確か、優香ちゃんも修学旅行の時ってショートヘアやったんとちゃうんかいなぁ…。似てるなぁ…(笑)」
3枚目以降も修学旅行の時の写真のようだった。
そして最後の写真は、長島が手紙に書いていた体育祭の時の写真だった。長島に言われた通り、滝川から借りた優香の写真と見比べてみる。
真一「ホンマや。シュチュエーション、立ち位置、風貌、全く同じやんか❗ そらぁ、入社式の時に思わず後退りするわなぁ…」
翌日、真一は長島にメールした。
真一『お疲れ様です。写真見ました。りっちゃんが言うてた通り、体育祭の写真は場所が違ってても、ここまでうりふたつとは…(笑)
ホンマに再現写真かと思ったわ。幼なじみ(優香)の写真を見てたら、色んなこと思い出してた。不器用なオレを見捨てず、どこからともなく器用にオレをカバーしてくれたり、クッキー作って食わしてくれたり、オレの背中をいつも押してくれてたのを思い出してた』
しばらくして、長島からメールが来る。
長島『衝撃的な体育祭の写真やったやろ?(笑) 幼なじみのこと思い出してたんや。何黄昏てんの?(笑) しんちゃん、本当は幼なじみのこと好きやったんとちゃうんか(違うの)?』
しばらく真一と長島は、お互い仕事の合間にメールでやり取りする。
真一『幼稚園の時と高校の時は、特に何も考えんと普段通りやと思ってた。高校の時に幼なじみ(優香)に彼氏(森岡)ができても、普段通りお互いに接してたし…。けど入社して3ヶ月くらい経ってから、彼氏(森岡)からオレに「別れた」って言うてきたんや。えらい未練タラタラ話していたけど…(笑)』
長島『それで、幼なじみが彼氏と別れてからどうしたん? しんちゃんが幼なじみと付き合わんかったん?』
真一『オレにはいくつかの“トラウマ”があって、前向きにはなれんかった。けど、幼なじみ(優香)はオレのトラウマを解かそうとして、盆休みに「腹を割って話」したことがあった』
長島『腹を割って話して、どうやったん?』
真一『幼なじみ(優香)もオレもお互いが好きやったみたいやった。いわゆる「初恋の人」同士やった』
長島『めっちゃええ話やんか❗ それでそれで、付き合ってるの?』
真一『それが、付き合ってない』
長島『なんで?』
真一『元彼(森岡)と別れた原因が「遠い、飽きた」って、元彼から直接聞いたんや。ホントの所は知らんけど…。ということは、オレだって南町と新潟…って遠距離、つまり「遠い」わけや。それに幼なじみ(優香)は、りっちゃん共々美人なわけやんか。大学でアプローチされるのは目に見えてたし、オレも「トラウマ」があったから…』
長島『でも、幼なじみと腹を割って話した時に「トラウマ」を解かしてくれたんやないんか?』
真一『ある程度は解かしてくれたけど、ウチは貧乏やから、幸せに出来んと思ったんや…』
真一はトラウマだった『叔父さんの事』を長島には伏せたのだった。
長島『何か切ないやん、めっちゃ切ないやん❗ しんちゃんは幼なじみのことを思って考えてたんやろうけど、幼なじみは、どんな状況だろうが例え貧乏でも、大学卒業するまでは遠距離やけど、大学卒業したら南町に帰って来るんと違うの? しんちゃんは待てなかった?』
真一『待てるけど、それまでに大学でアプローチされるのは目に見えてたから…』
長島『何、遠慮してんの❗ 自分を前面に出さんと…❗ けど、それがしんちゃんの優しさやったんかな? 幼なじみのことを思って…』
真一『まぁ、オレはガキの時から不器用やから…』
長島『ホンマに不器用やわ(笑)』
真一『別に支障きたしてないから』
長島『けど、優しいなぁ、しんちゃんは』
真一『え?』
長島『幼なじみのことが好きやからこそ、考えてたんやな、自分を犠牲にしてまで…』
真一『オレはそういう運命なんやと思うわ』
長島『それで、しんちゃんは彼女作らんの?』
真一『さぁ…』
長島『いないの?』
真一『おると思うか?』
長島『うん』
真一『なんで?』
長島『噂で小耳にはさんだ(笑)』
真一『そうなん?』
長島『遠距離らしいやんか❗』
真一『そんなことまで知ってんの?』
長島『私を誰だと思ってんの?(笑)』
真一『なぁ、そのセリフ、生々しいわ』
長島『なんで?』
真一『「私を誰やと思ってんの? 幼なじみの◯◯ちゃんやで」ってよう言い合いしてたわ』
長島『そうなん?(笑)』
真一『うん。オレも「オレを誰やと思ってんの? 幼なじみのしんちゃんやで❗」って言うてたわ』
長島『あ、そう。じゃあ、私を誰やと思ってんの? 幼なじみにそっくりな“りっちゃん”やで(笑)』
真一『その顔で言うか? まぁ、メールやでいいけど(笑)』
長島『今度の研修の時に囁いてあげよか?(笑)』
真一『勘弁してーな(笑)』
と、長島は真一に優香のようなやりとりをしていた。真一も優香と重なる部分があり、どことなく懐かしんでいた。
その日の夜、真一は奈良の滝川に電話をし、長島から写真が届いた旨連絡し、次の土曜日に真一が奈良の滝川のところへ出向くことにした。
日曜日、真一は電車で奈良へ向かった。
滝川「堀川くん」
真一「あ、おおきに(ありがとう)」
滝川「いらっしゃい、どうぞ」
真一「おじゃまします」
真一が滝川のマンションにおじゃまする。
滝川「写真、どうやった?」
真一「いやー、それがなぁ、えらいこっちゃ」
滝川「どうしたん?」
真一「とりあえず、お借りしてた優香さんの写真返すわ。ありがとう」
滝川「うん」
真一「それでや、こっちの(長島から)借りてきた写真見てか?」
滝川「うんうん。見せてもらおう」
滝川が長島の写真を見る。
滝川「え、この人?」
真一「そう」
滝川「話で聞いてたけど、ホンマや、ゆうちゃんにそっくりや」
真一「そうやろ?」
滝川「うん。髪型がショートヘアになっても、ゆうちゃんもショートヘアの時あったけど、そっくりやわ」
真一「この体育祭の写真、滝川さんから借りた優香さんの体育祭の写真と比べて見てみな」
滝川「見比べるの?」
真一「うん」
滝川が優香の写真と長島の写真を見比べる。
滝川「え❗」
真一「(笑)…」
滝川「え、え、え…、これ…シュチュエーション、仕草、並び順、全く同じやん❗」
真一「そうやろ?」
滝川「えー…ここまでそっくりなん、初めて見るわ…」
真一「ビックリやろ?」
滝川「うん。経理のゆうちゃんのそっくりさんは何て言ってた?」
真一「この体育祭の写真が衝撃的やった…って」
滝川「そうやろうなぁ…」
真一「滝川さんから借りた写真、どれも自分にうりふたつで、怖いくらいうりふたつや…ってビックリしとったわ」
滝川「そうかぁ…」
真一「それでや。同期のそっくりさんがオレに『ということは、私の顔はしんちゃんにとってはドキッとするんやな』って、もうイジってきてる。もうなぁ、生々しいんやって。本人新潟におるのに…」
滝川「(笑)…。ゆうちゃんに言われてるって錯覚起きてるんか?」
真一「そうなんやって。困ったもんやで。今度、京都本社で研修があるんやけど、アノ顔で昼飯の時にイジってきそうで、戦々恐々としてる」
滝川「(笑)。堀川くん、もうゆうちゃんのこと忘れられんなぁ…」
真一「心配せんでも、幼稚園から知ってる顔やからね…」
滝川「そうやなぁ。それで経理のゆうちゃんのそっくりさんは、堀川くんと仲良し?」
真一「まぁ、同期で同い年やから、話くらいはするけど…」
滝川「堀川くんは気にならへんの?」
真一「別に。何か誤解してる?(笑) それにオレ、長野に彼女いてるで」
滝川「あ、そうやったなぁ。くうちゃん(村田)から聞いたんやって。めっちゃかわいいんやろ?」
真一「華原◯美みたいな顔しとる」
滝川「あ、くうちゃんが『写メ見せてもらった』って聞いたんやけど、写メあるん? あったら見たいなぁ…」
真一「見たいん?」
滝川「見たい」
真一「ちょっと待ってよ…」
真一は携帯電話を取り出し、夏美の写真を滝川に見せる。
滝川「あ、ホンマや。めっちゃかわいいやんか❗ よう見つけたなぁ…。良かった良かった」
真一「なんか、近所のお姉ちゃんに誉めてもらってる感じなんやけど…」
滝川「そりゃそうやで。高校の時、恋愛に興味ない堀川くんに彼女できたって聞いたら、誰かて喜ぶで。みんな心配してるんやから…」
真一「そうか…」
滝川「で、どうやって知り合ったん?」
真一「それがなぁ…間違いメールなんや」
滝川「え❗ そんなんで?」
真一「うん…」
滝川「間違いメールでどうやって付き合うことになったん?」
真一「正月明けに『寒いよー』ってメール来て、誰やわからんけど、とりあえず『寒いなぁ』って返したのがきっかけで…」
滝川「そんなことやったんか…。そのまま誰か知らんけど、メル友になったとか?」
真一「最終的にはそうなったんや。で、向こうが『電話で話したい』って言うてきて、しばらく断ってたんやけど、『どうしても』って言うから、仕方なく電話で話したんや…」
滝川「へぇー、すごいなぁ。そこからトントン拍子やったん?」
真一「いや、あくまでメル友やから…って会わないようにしてたんやけど、結局会うことになり、しまいには『付き合って欲しい』って言われるし…」
滝川「え❗」
その後も滝川は真一の『夏美の話』に聞き入っていた。
週が明け、真一は社内便で長島に写真を返却した。
週末土曜日、真一は京都本社へ研修に出席した。今回の研修は、家電ルートの営業と業務対象の研修である。長島も出席する。
黙々と研修はコンサルタントが講師をし、カリキュラムをこなしていく。
昼休みとなり、前回の若手研修同様に仕出し弁当が支給される。
真一の上司・堀井課長も出席していたが、本社の営業マンと一緒に営業部のデスクで弁当を食べていた。
会議室には、真一が一人弁当を食べようとすると、長島が声をかける。
長島「また一人?」
真一「そうみたいやな」
長島「一緒に食べへん?」
真一「あぁ、かまへんで」
真一は長島と弁当を食べる。
長島「ホンマにお弁当の量、足りるか?」
真一「大丈夫やで」
長島「ホンマは足りんのとちゃう(違う)ん?」
真一「大丈夫やで」
長島「足りんかったら、あげるで」
真一「大丈夫やで。ありがとう」
長島「食べさせてあげよか?」
真一「はい?」
長島「高校の時、幼なじみにしてもらわんかったんか?(笑)」
真一「ええと、何言うてるのか…」
長島「『あーん』ってしてもらってへんの?」
真一「…ないよ」
本当はケーキやクッキー等、お菓子を食べるとき、真一は優香に食べさせてもらったことがあった。
長島「おかしいなぁ。しんちゃんのことやから、幼なじみが『あーん』ってしてたと思ったけど…」
真一「なんでそう思ったん?」
長島「写真見たり話聞いてたら、しんちゃんの幼なじみ(優香)はしんちゃんのことがめっちゃ好きやったんやろうなぁ…って。それくらいはしてると思ったんやけどなぁ…」
真一「そうか…。それよりオレのことよりも、りっちゃんは高校時代、青春してへんかったんか?」
長島「女子高やったから、他の高校とかで探すしかなかったからね…。といっても、私は男子に興味なかったから…」
真一「そうやったんか…。何か変なこと聞いてゴメン」
長島「しんちゃんやから大丈夫やで。セクハラではないから…」
真一「そうか…」
長島「ウチなぁ、しんちゃんがうらやましいんやで」
真一「なんで?」
長島「そんな出会いがあったんやから」
真一「そんな、うらやましがられるようなことやないけどなぁ…。りっちゃんだって、幼なじみはおってやろ?」
長島「いるけど、女の子やし。男の子はおっても、そんなしんちゃんとこみたいな仲良しやなかったから…」
真一「そうなんや…」
長島「しんちゃんは、今の彼女とは仲良しやろ?」
真一「まぁ、ボチボチってとこやないか…。普通やなぁ」
長島「何度か会ってるんやろ?」
真一「会ってるよ。だいたいオレが向こう(長野)へ行ってるなぁ…。どうしたん?」
長島「デートはどこ行ってるの?」
真一「アウトレットモールやらショッピングモールやら、買い物が中心。観光もしてるで。りっちゃんって、彼氏おった(居た)っけ?」
長島「一応」
真一「なんや、一応って?」
長島「ん? 友達の友達なんやけど、だいたいアッシー(運転手)で呼び出してる(笑)」
真一「へぇー、使いこなしてるなぁ…(笑)」
長島「彼もアッシーするのは苦ではないらしいから、遠慮なく…(笑)」
真一「良くできた旦那やなぁ…(笑)」
長島「旦那やないし。アッシーやし(笑)」
真一「けど、付き合ってるんやろ?」
長島「なんか、ようわからんのや…」
真一「わからん?」
長島「付き合ってるんか、付き合ってないのか…」
真一「何それ? ハッキリしてへんの?」
長島「うん…。『友達以上恋人未満』な彼氏」
真一「なんや、けったいな話やなぁ…。本人同士で納得してるんならなぁ…。赤の他人が口出すようなことやないから…」
長島「けど、ここ最近、私も彼も冷めてるんや…。別にケンカしたわけでもないんやけど…、自然な流れで…」
真一「そうなんや…。愚痴こぼす所が無くなるっちゅうことはないんやな?」
長島「無くなるかも…」
真一「どこで愚痴こぼすん?」
長島「しんちゃんではダメかなぁ…?」
真一「まぁ、オレは同期の同い年やから、愚痴くらいはナンボでも聞くで。色々とお世話になってますから…」
長島「ありがとう」
真一「うん」
そして、午後からの研修が始まった。
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