第4話 真一と長島…優香の写真

その夜、真一は高校時代に優香と同じクラスだった友達で、奈良にいる滝川に電話した。


滝川「堀川くん、久しぶり」

真一「ご無沙汰してます。元気か?」

滝川「うん。堀川くんも仕事大変やなぁ」

真一「しゃあない(仕方ない)わ」

滝川「ところで、どうしたん?」

真一「あぁ、ちょっと聞いてみるんやけど、優香さんが写った写真持ってへんか?」

滝川「あると思うで。どうしたん?」

真一「実はな、オレが勤めてる会社の本社で経理にいる同期の同い年の女子社員がいるんやけど、優香さんにうりふたつでなぁ…」

滝川「へぇ、そうなんや」

真一「それで先週末、本社で研修があって一緒やったんやけど、昼飯食ってる時に優香さんにうりふたつや…って話してたんや」

滝川「うん」

真一「それで、ウチの経理の同期が『優香さんの写真見たい』って言うてきてなぁ…。オレ、優香さんと1枚も写真撮ってへんのや。それで、誰か持ってるんやないか…と思って、滝川さんに電話させてもらったんや」

滝川「そうやったんか…。そんなに経理の同期の人って、ゆうちゃんにそっくりなん?」

真一「うん。オレ、本社へ入社式行った時に、応接室入ったらアノ顔があって…。思わず後退りしたわ。『新潟行くんとちゃうんか?』ってツッコミ入れそうやったわ(笑)」

滝川「(笑)。そうなんや、そんなに似てるんや。それやったら、私も経理の同期さんの顔見てみたいわ。逆に写真借りられへんかなぁ?」

真一「聞いてみよか?」

滝川「うん」

真一「そしたら、聞いて、写真借りれたら一回電話するわ。写真持って奈良に行くわ」

滝川「わかった。返事待ってるわ」


という事で、優香の写真を滝川から借りることができた。


翌日、真一は長島にメールした。


真一『お疲れ様です。幼なじみ(優香)の写った写真、幼なじみの友達が持ってるみたいなので借りることにしました。手に入り次第、社内便に乗せます。あと、その友達から事情を説明した時に、「逆にりっちゃんの写真が見たい」ってことでしたので、お借りできませんか? よろしくお願いします』


しばらくして長島からメールが来る。


長島『写真借りてきてくれるんや。ありがとう。私の写真もしんちゃん宛に社内便に乗せるわ。楽しみ~❗(笑)』



数日後、真一が仕事から帰宅すると手紙が届いていた。奈良の滝川からだった。

風呂と夕食をとったあと、真一は自分の部屋で滝川の手紙を読む。


滝川『堀川くん、この前電話で聞いたゆうちゃんの写真、送ります。経理の同期さんの写真が届いたら見せてね』


真一は滝川から送られてきた優香の写真を見た。高校の体育祭や文化祭の時の写真だった。真一もどことなく懐かしんでいた。


真一が入社して4ヶ月が経ったとき、優香の彼氏だった森岡が、新潟にいる優香と別れた話を森岡本人から聞き、未練タラタラ話したことをきっかけに優香と電話で話し、しばらくの間文通し、盆休みに『腹を割って話』した。その結果、優香も真一も本当はお互いが好きで、しかも『初恋の人』同士だったことも判明したのだった。しかし真一は、優香が森岡と別れた原因が『大阪と新潟の距離が遠い、飽きた』という理由だったことを森岡から聞いていたため、南町と新潟も遠い…と判断した真一は、優香と交際せず、『新潟の大学で好い人見つけろ』と優香の背中を押したのだった。



(回想)

真一「本来やったら『付き合って欲しい』とか言う話になると思う。でもな、優香ちゃんはいま新潟(にいるん)や。ナンボ盆と正月に北町に帰るとはいえ、3年半の間に新潟での生活環境は今よりもガラッと変わるはずや。大学で絶対好い人はいるし、声もかけられる。なんせ優香ちゃんは美人やしなぁ。この間まで大阪と遠距離してて『飽きた、遠い』って言うてたんやから、その意見を尊重したいし、また南町と遠距離になったら、オレは優香ちゃんの重荷になってしまう。そやから、その事を言わせてもらいたかったんや…」


優香は泣いていた。


優香「しんちゃん……。そんなことまで考えてたん? 何でいっつも私とかみんなの事考えて、しんちゃんはしんちゃん自身のことを考えへん(考えない)の? 私もしんちゃんが幼稚園のイスの時からずっとずっと好きやった。私の初恋の人やった」

真一「そうやったんか…。ゴメンな、優香ちゃんの辛い気持ちもわかってる。オレも一緒や。辛い。ホンマに辛い。ゴメンな。オレ、不器用やし…。オレの事、キライになってくれ。でも幼なじみなのは変わらん。北町南町に戻ったら、優香ちゃんさえ良かったら声かけてやってくれ」

優香「しんちゃん…」


優香は号泣だった。真一は慰めてやることしかできなかった。真一も泣きたかった。かなり辛かった。でも、優香のこれからの事を考えると、真一は自分の身を引くしかなかった…と考えていたのだった。


真一「ホンマに不器用でゴメン。不器用はどないもならんのや…」




真一(ホンマに不器用やな…)


真一は黄昏ながら優香の写真を見ていた。

真一はこの頃、長野の夏美と付き合っていた。

真一の携帯電話にメールの着信音が鳴る。

夏美からだった。


夏美『いま何してるの?』

真一『いま仕事の調べものしてる。電話はもう少し待っててくれへんかなぁ…。オレから電話するから』

夏美『わかった。待ってるね』


夏美とのメールもそこそこに、長島に写真を送る準備をした真一だった。


翌日、真一は仕事の合間に社内便のボックスに長島へ写真を送る。あらかじめ自宅で茶封筒に入れ、『長島様』と宛名を書いて、差出人を優香と文通していたときのように、◯の中に“し”と書いた。その封筒をさらに一回り大きな茶封筒に入れて、『本社・経理 長島様』と書いて、宛名を『福町・堀川』と書いて社内便のボックスに封筒を出した。


数日後、社内便で長島から茶封筒が届いた。

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