第3話 真一と長島…メールにて
第1回自主研修が終わり、翌週月曜日。
真一は福町営業所にある自席のパソコンで見積を作成していた。すると営業の
宇城「堀川、経理・長島さん(から電話)や」
真一「はい」
真一が電話をとる。
真一「電話かわりました」
長島「もしもし、経理の長島です。お疲れ様です」
真一「あ、お疲れ様です」
長島「あの、今メールを送ったので確認しといて(しておいて)もらえますか?」
真一「わかりました。お疲れ様です」
長島「お疲れ様です」
真一は電話を切り、パソコンのメールを確認する。すると、長島からのメールが届いていた。
長島『土曜日はお疲れ様でした。ちょっとメールで話したい事があるので、福町営業所の事務所の中だと怪しまれるといけないので、もしよかったら堀川くんの携帯のメールアドレスを教えてもらえませんか?』
真一が心の中でつぶやく。
真一(え、なんやろ…。まさか優香ちゃんのことやろか…?)
真一が返信する。
真一『お疲れ様です。土曜日お疲れ様でした。さてアドレスの件、記しておきます』
と、携帯電話のアドレスを長島に返信した。
真一が勤める会社では当時、私物の携帯電話を使って営業のやりとりをしていた。会社からは携帯電話手当(通信手当)を毎月一律で営業職には支給されていた。
しばらくして、真一の携帯電話にメールの着信音が鳴る。真一はメールを確認する。長島からのメールだった。長島は自席のパソコンからメールを送っている。
長島『お疲れ様です。土曜日の研修のお弁当の時に、しんちゃんから聞いた幼なじみの話、聞いていて私ちょっと興味出てきたんや。それで、もっと話が聞きたくて、ゆっくり話聞きたいんやけど、何せ仕事やから、次回の研修の時までまだ時間あるし…。なので、このようなメールを送りました。また教えてな、しんちゃん❗(笑)』
真一『お疲れ様です。メール見ました。りっちゃんのメール、生々しいわ(笑) 幼なじみ(優香)に言われてるみたいで錯覚しそうや(笑) それで、何を話したらええんやろ、りっちゃん?』
長島『土曜日の研修の時に聞いた話を聞く限り、しんちゃんと幼なじみはかなり仲良しやったんやなぁ…って思った。仲良しやのに、付き合ってないのはなんでなん?』
真一『何で?…て、そんなんやなくて幼なじみやからやん。幼稚園の時から何も変わらずお互い普通に接してたけどなぁ…』
長島『でも、しんちゃんは幼なじみのことをどう思ってたん?』
真一『だから、普通やで。いつも通りやで。けどなぁ…』
長島『けど…何?』
真一『オレと幼なじみ(優香)の周りの友達からは、よく言われたわ。「お前ら息ピッタリやのに、何で付き合わんのや?」って』
長島『「幼なじみ」特有の現象やなぁ』
真一『それもよう言われたわ』
長島『でも、すごいなぁ、幼稚園の時に席が隣やっただけやのに、高校で再会して、幼稚園の時と変わらずに仲良しやったのは、幼なじみにとってしんちゃんのことをよく覚えてたからなんかなぁ?』
真一『本心はわからんけど…。オレ、昔から手先が不器用で、お遊戯の時の工作とか小中の図工とか美術、高校の実習で物作ることとか大嫌いやったからなぁ…。幼稚園の時は確か、幼なじみ(優香)が手伝ってくれたんかも…記憶が曖昧やけど(笑) 幼なじみ(優香)はオレとは真逆で手先が器用なんや。高校の時、家庭科で弁当巾着をミシンで縫う実習あったんやけど、結局オレと幼なじみの彼氏が最後まで居残りさせられて、幼なじみが見に来たんや…』
そう、真一は相変わらずの不器用なので、裁縫は『もってのほか』だった。
(回想)
高校3年の時だった。真一と優香の彼氏の森岡が最後まで家庭科の授業で製作する『弁当巾着』がなかなか出来ずにいた。放課後、居残りで2人は家庭科の芦原先生に見守られながら弁当巾着を完成させようとしていた。森岡は授業中私語が多かった為、単に作業が遅れただけだった。それに比べ真一は相変わらずの『手先が不器用』なので、ミシンで縫うところまで行き着いておらず、ようやく生地を裁断したところまでだった。
すると、優香が2人の様子を見に来た。
優香「なんでよりによってこの2人なん?」
森岡「そんなこと言われても知らんわ」
真一「………」
優香「(森岡の状況を見て)大丈夫そうやな。で、こっちは…?」
優香が真一の状況を見る。
優香「え❗ ミシン今から?」
真一「悪かったなぁ、なんせ昔から『手先が不器用』やからなぁ…。こんなん(裁縫)するん嫌いやねん」
優香「『今まで何してたん?』って普通は聞くけど、言うても無理やんなぁ…。真一くんは仕方ないか…。私がいないとダメやんなぁ…。芦原先生、真一くんの(ミシン)手伝ってもいいですか?」
芦原先生「いいよ」
森岡「なぁ、オレのは手伝ってくれんのか?」
優香「自分は不器用やないやろ? 自分でしな(ミシンやって)」
森岡「堀川、ええなぁお前。幼なじみが手伝ってくれるなんて…」
優香「しゃあないもん(仕方がないもの)。真一くんは昔から『手先が不器用』で、幼稚園の時から私がおらん(いない)とダメなんや」
芦原先生「え、そうなの?」
優香「えぇ。だから、これからミシンがけするところまで自分でしたのは誉めないとダメなんです」
芦原先生「そうなんや。よう知ってるんやなぁ。さすが幼なじみやわ(笑)」
森岡「ええなぁ、堀川。お前の事をよく知ってる幼なじみがおって(居て)…」
優香「真一くん、(ミシンの)下糸は(あるの)?」
真一「え、何それ?」
優香「あーもう、聞いた私がバカやった。ちょっと貸して」
真一「あ、うん…」
優香が下糸を作る。下糸を作ったらミシンにセットし、弁当巾着をあっという間にミシンがけをして、優香が真一の弁当巾着を完成させた。真一はただただ、優香のミシンがけに見とれていただけだった。
優香「ほら、できた。はい、真一くん」
真一「ありがとう」
優香「普通はこんなん簡単にできるんやで。まぁ、真一くんに言うても仕方ないもんなぁ…」
真一「ホンマにゴメン」
優香「ううん、気にしないで。私、真一くんの事をよく知ってるから…」
森岡「ええなぁ、彼氏であるオレのこと放っとかれても幼なじみ優先なんやもんなぁ…」
優香「だって、真一くんは『手先が不器用』なんやから。森岡くんは器用やろ」
芦原先生「堀川くん良かったなぁ、良い幼なじみが近くにおって(居て)」
真一「そうですなぁ…」
真一『そしたら幼なじみ(優香)はオレらを見て、彼氏には「あんたは自分でできるやろ」って言うて、オレには「あー、言うても無理やんなぁ…」と、先生にオレを手伝っても良いか了解もらってから、オレの弁当巾着縫って完成させてくれたんや』
長島『なぁ、どんだけ不器用なん?(笑)』
真一『ご覧の通りや(笑) ほんで、幼なじみ(優香)は「しゃあない(仕方がない)もんなぁ、不器用やで。私がおらんとアカンもんなぁ」って、優しく言うてくれるんや』
長島『良くできた幼なじみやなぁ…。彼氏そっちのけでしんちゃん優先なんや(笑)』
真一『なんか後で聞いたんやけど、「真一くんは不器用やから、器用なことしないとアカン時は、彼氏ほっといてでも真一くんのところへ手伝いに行く」って言うてたらしいわ』
長島『ホンマに良くできた幼なじみやわ。信頼関係がちゃんとできてるんやね…。ところで、しんちゃんの幼なじみは、ホンマに私とそっくりなん?』
真一『そっくりやで』
長島『なぁ、幼なじみが写った写真持ってへんの?』
真一『それがなぁ…。1枚も撮ってへんのや。「魂奪われるから」って理由つけとっちゃったけど…。どないしたん(どうしたの)?』
長島『しんちゃんの幼なじみの顔、見てみたい』
真一『うーん…。幼なじみの友達が持ってるかもしれんから、聞いてみるわ』
長島『お願いします』
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