第2話 真一と長島…第1回 自主研修の昼食にて
真一が営業職に従事してから4年が経過した。6月、若手社員の研修が『自主研修』という名目で給料支給なく土曜日に本社・会議室で受講する機会を設けられた。
コンサルの講師が真一達若手社員に終日研修を行った。昼食は会社から仕出し弁当が支給される。この若手社員研修の他に家電量販店担当者及び総務担当者研修、主任クラス研修等、様々な分野別に研修のプログラムが組まれていた。真一は年間で合わせて5回出席しないといけなかった。
1回目の研修での昼食は、ほとんどの社員は自席で昼食をとったが、営業所の社員は会議室、または仲の良い社員同士で個別に昼食をとっていた。
真一は、特に何も考えず一人会議室で弁当を食べようとしていた。会議室は真一しかいない。すると、長島が声をかける。
長島「堀川くん」
真一「どうしたん?」
長島「一人で食べるんか?」
真一「あぁ、そうなんかな…」
長島「なぁ、一緒に食べへんか?」
真一「あぁ、かまへんけど…。自分の席で食べへんの?」
長島「こんな時しか同期で同い年とゆっくり話出来へんやんか。それに堀川くんは福町営業所なんやから。滅多にこんなことないで」
真一「そうやなぁ…」
長島「お弁当、ご飯の量足りる? 足りへんのとちゃうん(違う)?」
真一「大丈夫やで。どないでもなるから…」
長島「そうかぁ…」
真一「ところで元気してたん?」
長島「うん。堀川くんも大変なんとちゃうん?」
真一「そうやなぁ…」
長島「堀井課長によう叱られてるらしいやん」
真一「いじめやわ(笑) まぁ、オレが悪いんやけどな(笑) 経理も大変なんとちゃうん?」
長島「うん。出金伝票とか無茶苦茶な書き方して人もいるから、処理すん(する)のに困るねん」
真一「オレも気ぃつけとくわ」
長島「堀川くんは大丈夫や。きちんと書いてるよ」
真一「なんかあったら言うてよ。解っとらん(解っていない)こともあるから…」
長島「そのときは電話で聞いてくれたらかまへんから」
真一「わかった」
長島「なぁ、私のお弁当食べる?」
真一「食べへんのかいな?」
長島「こんなに食べられんで(笑) 堀川くんはおかわりしたいやろ? ご飯とかおかずあげるで(笑)」
真一「大丈夫や」
長島「あ、私と間接キスするから気にしてる?(笑)」
真一「何言うてんの?(笑) ホンマに大丈夫やで…」
長島「それにしては顔赤いやんか(笑)」
真一「気のせいや…」
長島「堀川くんって、すぐ顔に出るタイプなんか?」
図星だった。真一は、優香に言われているような感じがした。よりによって、長島の顔が優香とうりふたつなので、余計に思ったのだ。そして、真一は長島に優香のことを話す。
真一「今、誰もおらんのかいなぁ?」
長島「いないよ。ウチらだけやなぁ。どないしたん(どうしたの)?」
真一「ん? いや…あのな…これ言うていいんかなぁ…」
長島「何やな、もったいぶって…」
真一「まぁ本人おらんからええけど…。実はな、オレの中では内心びっくりしてたんやけど…」
長島「え?」
真一「長島さん、オレの幼なじみ(優香)にそっくりやねん」
長島「そうなん? 私にそっくりってことは、堀川くんの幼なじみって女の子なん?」
真一「そうやで」
長島「小学校からずっと一緒やったん?」
真一「いや、幼稚園が一緒で、小中は違うけど、高校で再会したんや」
長島「そうなんや。けど、幼稚園から高校までの間、義務教育の9年丸々会ってないのに、ようわかったなぁ」
真一「最初、オレは記憶が完全に飛んでたんやけど、ウチのおかん(母親)と幼なじみ(優香)は覚えてたんや。オレも記憶をたどってわかったんや」
長島「なんで幼なじみは堀川くんのこと覚えてたん?」
真一「それがなぁ…幼稚園の時、席が隣やって、年中組から入園して年長組でも席が隣やったんや」
長島「へぇ、そんなことあるんやなぁ」
真一「幼稚園の時に、先生が『教室の隅にイスが固めておいてあるので、1つイスを取って自分の席についてね』って言われてイスを取りに行くんやけど、1人、取りに行かんとしょんぼりしてる女の子がおって、『何で取りに行かんのやろ?』って思ってたら、体が勝手に動いてて、イスを2個とって、1個をその女の子に渡したんや。そしたら、しょんぼり顔が一転、満面の笑みを浮かべちゃってなぁ…。それが幼なじみ(優香)やったんや」
長島「へぇー、そんなことあったんや。優しいんやなぁ、堀川くん」
真一「それから、オレがイスを取りに行くのが日課になって、おとなしい子やったけど、オレとはよう(よく)話してたんとちゃうかなぁ…。もう昔の話やから、記憶が曖昧やけど…」
長島「で、高校で再会したんや」
真一「うん。クラスは違ったけど、まぁだいたい一緒に同じ電車乗って話ながら通ってたなぁ。帰りもだいたい一緒やったわ」
長島「ふぅん…。で、幼なじみとは付き合ってるの?」
真一「彼氏がおっちゃった(居た)からね」
長島「今は?」
真一「新潟の大学に行ってるわ」
長島「そうなんや」
真一「入社してから試用期間中は定時で帰ってたから、帰りの電車で高校駅から2回程同じ電車に乗ってきてたなぁ」
長島「高校卒業してからも高校通ってはったん?」
真一「彼氏が高校の近くに自宅があったからや」
長島「なんや、堀川くんと付き合ってたんやなかったんか?」
真一「違うで。そこまで干渉せえへんから…」
長島「ホンマに何も無かったんか?」
真一「無かったなぁ…」
長島「ウソや」
真一「ホンマやって」
長島「顔に書いてある『ウソや』って」
真一「なんで、そんな鋭く見るの? オレ、その顔で言われたら説得力あるわ(笑)」
長島「どうだ、益々幼なじみのことを忘れられんようになるやろ?(笑)」
真一「なんでそんなイジリ方も一緒なん?
昨日まで新潟におったやろ?(笑)」
長島「
真一「今やから言うけど、入社式の時、そこの応接室に入るとき、長島さんが真っ正面におっちゃって、思わず後退りしたんや…。『何でこんなとこにおんねん(いるの?)、新潟行ったんとちゃう(行ったのと違う)んか?』って(笑)」
長島「そうなん? 気がつかへんかったわ(笑) なぁ、堀川くんは幼なじみに何て呼ばれてたん?」
真一「オレ? 同級生がおる所では堀川くん、2人でおるときは、真一くんかしんちゃんやったなぁ…。長島さんは普段何て呼ばれてるん?」
長島「私? 私は下の名前が『理沙』やから『りっちゃん』って呼ばれてる。どうしたん、しんちゃん?(笑)」
真一「…生々しいわ(笑)」
長島「私、しんちゃんの幼なじみに相当うりふたつなんやなぁ…(笑)」
そんなこんなで昼休憩は終了し、研修が夕方まで続いた。
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