幼なじみ・番外編~不器用な男と器用な女のそっくりさん~

まいど茂

第1話 真一と優香…真一就職、長島との出会い

工業高校を卒業した堀川真一は3月17日、誰よりも早く就職し、配線器具や照明器具等、電設資材を電気工事業者や家電店へ卸す企業に入社した。入社する会社の京都本社へ出社、入社式に臨んだ。福町営業所に真一が営業と業務、南町営業所に業務社員として女性の北別府が、南部営業所の営業に大卒の小塚が、本社の営業に下田が、総務部に大卒の吉岡が、本社の経理に女性の長島がそれぞれ入社する。真一が応接室へ入ると、一人の女性社員が座っていた。顔を見ると、幼なじみの加島優香にそっくりだった。真一はびっくりして、思わず後退りした。経理へ配属になる長島だった。




真一(あれ、新潟の大学に行くんじゃ…? そっくりさんか…。しかしこの人よう似てるなぁ)



その後会議室で入社式に続いて新人研修が行われ、定時で退勤した。




翌日、真一は福町営業所に勤務。倉庫で商品管理業務を行う。所長の野田や課長の堀井から指示が出され、真一は何とかこなしていた。新入社員は3ヶ月の試用期間があり、定時の5時半で退勤する。福町駅から高校の時から乗っている5:50の電車に乗って帰る。



3月のある日、いつものように真一は福町駅から5:50の電車に乗って帰宅する。


電車は5分で次の高校駅に到着した。ホームに目をやると、どこかで見たことのある高校の制服を着た女子が…。その女子は真一の顔を見るなり笑顔に変わった。幼稚園の時、真一の隣の席の女の子で、高校で再会し今春から新潟の大学へ進学する、幼なじみの優香だった。


優香「お疲れさん❗」

真一「あ、まだ高校生か?(笑)」

優香「卒業しても今月いっぱいは女子高生ですぅ(笑)」

真一「なんや来月新潟行かんと、また1年生からやり直したいって頼みに行ったんかと思ったわ(笑)」

優香「んなわけないやろ❗(笑)」

真一「アイツ(彼氏である森岡)と会ってたんか?」

優香「うん。今帰りなん?」

真一「うん。試用期間中やで、定時で帰れるんや」

優香「そうなんや」

真一「新潟行く準備、ボチボチしてるんか?」

優香「うん、少しずつやってるよ」

真一「そうか。いつ新潟へ行くんや?」

優香「4月入ったら」

真一「そうか。もうすぐやなぁ…」

優香「うん…」

真一「アイツ(森岡)も寂しがってるんやないの?」

優香「新潟まで会いに行くって言ってた」

真一「そうか…。ご苦労なこっちゃ(ことや)」

優香「しんちゃん…」

真一「ん?」

優香「ありがとね」

真一「何が?」

優香「色々と気遣ってくれて…」

真一「それはオレが言うセリフやん(笑)」

優香「そんなことないよ。それにもう働いてるんやから、しんちゃんはエライで」

真一「仕事はタイムカードが16日から始まって、翌月15日までなんや。で、16日が日曜日やったから17日から出勤になったんや。労働者であろうが、大学生だろうが、お互いお疲れさんやで…」

優香「でも大学生って遊んでるイメージ強くて…」

真一「大学生かて、やる時はやるやんか」

優香「そうかなぁ…」

真一「うん。ところで3月17日は京都におったか?」

優香「いや、家で寝てたかな(笑) どうしたん?」

真一「本社へ入社式行ったら、優香ちゃんがおっちゃったんや」

優香「どういうこと?」

真一「応接室で待機しようと入ったら、優香ちゃんそっくりの子がおったんや。なんか経理へ配属なったみたいなんやけど…」

優香「そんなに似てたん?」

真一「オレ、思わずツッコミ入れかけたわ。『新潟行くんとちゃうんか?』って…(笑)」

優香「そんなに似てたんや(笑)」

真一「びっくりしたわ」

優香「あ、そう…」

真一「優香ちゃん…」

優香「何?」

真一「気をつけてな…」

優香「うん。しんちゃんも頑張ってね」

真一「うん…」

優香「じゃあ、今日も『なでなで』してもらおうかなぁ…」

真一「拓(森岡)にやってもらえって…(笑)」

優香「これは彼氏がする仕事やないの。幼なじみがする仕事なの」

真一「これ仕事か?(笑)」

優香「うん(笑)」


優香は真一のとなりに席を移動する。


優香「はい」

真一「…………あのなぁ、働き出してもせんなんの?(笑)」

優香「もう、今しかないよ(笑)」

真一「明日もこの電車乗ったらおるやろ」

優香「今日がいいの」

真一「何甘えてんの? どうした?」

優香「どうもせん(しない)よ。ほら、しんちゃん…」

真一「…もう、しゃあないやっちゃ(奴や)なぁ」


真一は渋々、優香の頭をなでなでした(撫でた)。幼稚園卒園の時、真一と優香は母親に連れられ幼稚園の近くのファミリーレストランで、真一と別れるのが寂しく思っていた優香の頭を真一が撫でていた。優香はその記憶を思い出して真一に頼んだのだ。


真一「今度からは拓(森岡)にやってもらってください。オレの時代は終わりました」

優香「なんで?」

真一「昔の人はこれまで。これからは新しい人にお願いせなアカン。だから今は彼氏の拓やんか」

優香「うーん…」

真一「じゃあ、帰るわ。南町やし」

優香「うん…」


真一は優香の寂しそうな顔を見て、真一は優香の前に戻る。


真一「もう…、(幼稚園の)年長組は12年前に卒園しとんや。子供か(笑)」


といって、優香の頭をなでなでした。


真一「じゃ…」

優香「バイバイ(笑)」


真一は電車を降りた。仕事に行っても優香の話相手になるのは良かったと思う真一だった。


真一(もうすぐ(新潟へ)行ってしまうんやなぁ…)


そう思いながら駅を後にした真一だった。


翌日も、真一が乗ったかえりの電車に高校駅から優香が乗ってきた。優香は真一に言いづらそうに話す。


優香「しんちゃん」

真一「ん?」

優香「ううん…なんでもない」

真一「………そうか」


優香は何かためらっていた。真一は少し気になったが、あえて深入りしなかった。


真一と優香は、特になんでもない話をしていた。そして、南駅に電車が到着すると真一が下車する。電車が南駅にまもなく到着するという時に優香が言った。


優香「しんちゃん」

真一「どうした?」

優香「多分今日がこれ最後で、新潟に行くと思うわ」

真一「…そうか」

優香「うん」

真一「気をつけてな」

優香「うん。しんちゃんも」

真一「あぁ。頑張ってな。優香ちゃんなら大丈夫や。アイツ(森岡)もたまに顔見に行くんやろうから…。アイツに任しといたらええんとちゃうか?」

優香「…うん。なぁ、最後に…」

真一「なんや?」

優香「『なでなで』……」

真一「昨日したやん(笑)」

優香「昨日『明日にして』って言うたやんか(笑)」

真一「結局昨日したやんか❗(笑) ……最後やし、しゃあない(仕方ない)なぁ…」


真一は優香の頭を撫でた。


優香「じゃ、元気でね」

真一「おう、気をつけてな…」

優香「うん」


真一と優香はホームと電車内でお互い手を振った。


真一は電車が発車してしばらく優香に手を振った。優香も真一に手を振った。電車が過ぎてから、真一は思いに更けながら何も言わずに改札口を出て南駅を後にした。

一方、優香は電車の中で少し泣いていた。


優香(しんちゃん…、また離ればなれやな…)


優香は真一の気持ちを噛みしめながら、新潟へ向かった。



世の中は4月、新年度のスタート。中小企業、大企業もこぞって入社式が行われた。

既に入社している真一には関係無い話だが…。真一は男子新入社員だけ研修所での新人研修を受けることになり、研修センターで2泊することとなった。


翌週からも日々倉庫管理業務に従事し、商品のピッキングや入荷商品の整理、棚の掃除等、倉庫業務に従事していた。しかし、課長の堀井から叱責されることもあった真一だった。なかなか難しいと、心が折れることもあった。ふと優香のことを思い出して助けを求めるが、新潟にいるので無理である。真一は『もう頼れない』と心に何度も言い聞かせながら、試用期間3ヶ月が経過し、正式に正社員となった。しかし堀井から叱責が続き、少し嫌気さしてきた真一だった。


真一は試用期間が終わると、この頃から普及しだした携帯電話を持つようになり、そしてマイカー通勤に変更した。片道40キロ、約1時間のドライブである。この頃から毎週金曜日になると、高校時代の同級生である藤岡、佐野山、白木から電話がかかってきて、京都まで迎えに来い…と連絡があって、京都まで迎えに行き、実家へ送ることをしていた。真一は運転手代として藤岡たちから夕食をごちそうになっていた。



真一が倉庫管理業務を2年務めたある日、営業の中田がプライベートで彼女とスキー旅行に行った時、スキーをしているときに足を骨折した。この為、中田は半年間入院と自宅療養で長期休養することになった。課長の堀井は真一を急遽、中田が営業担当していた福町市内の家電店を担当することになり、真一は営業デビューとなった。


真一は中田が乗っていた商用バンに乗って、納品や営業に従事した。

真一は諸先輩方に業務の処理方法などを教わりながら営業職に従事した。得意先からの入金のことで経理から問い合わせをすることがある。


ある日、真一宛に経理から電話がかかってきた。


真一「電話かわりました」

長島「あ、もしもし、経理の長島です。お疲れ様です」

真一「あ、お疲れ様です」

長島「あのなぁ堀川くん、西村電気さんの入金があったんやけど100円足りんのやけどどうしよ?」

真一「ええと、あそこ振込やったなぁ」

長島「うん」

真一「もらってこか? 領収書切らんなんなぁ…」

長島「そうやなぁ」

真一「もらってくるわ」

長島「お願いします」

真一「あの、ちょっとつかぬこと聞くけど、長島さんって同期やけど、同い年やったっけ?」

長島「うん、おなおない。どうしたん?」

真一「いや、さっき堀井課長が『長島さんは年上か?』って聞かれて…」

長島「おねえさんに見える?」

真一「良い意味でおねえさんやで」

長島「ありがとう(笑)でも同い年やで(笑)」

真一「そうやんなぁ。ゴメン、変なこと聞いて」

長島「ううん。営業大変みたいやね。また何かあったら聞いてな」

真一「うん、ありがとう」


真一と長島は、入社以来、初めて少し話をしたのだった。

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