第10切「ピザ配達員と客」
ピンポーン…
「はい。」
私がインターフォンを鳴らすと男性が出た。
「どうもー、ご注文のピザをお届けに上がりました。」
「お待ちしてました。今、門を開けますので入ってきてください。」
「はい。わかりました。」
ギギギギ…
ガシャン!
重い音を立てながらゆっくりと門が開いた。
「うわぁ…自動ドアだ…てか自動門?」
(こんな豪邸に住んでいるなんてどんだけ悪いことを…じゃなかった。どんな仕事をしているんだろう?)
私はピザの配達先の家があまりにも大きくて威圧感さえ感じていた。
「開けたので中にどうぞ。」
「あ、すみません!今行きます。」
恐らく家主の操作により自動で開いたであろう門の動きに目を奪われていた私に、家主がインターフォン越しに声をかけてきた。
ギギギギ…
ガチャン!
カチ…
「ん?」
(わざわざ門の鍵まで閉めなくてもすぐに帰るのに…)
私は自分が中に入った後に再び自動で動き出した門が閉まった時、施錠される音が聴こえて少し疑問を覚えた。
「つか、門から家まで遠いな…バイクで入って良いか訊くべきだった…」
足を踏み入れた門から家と思われる建物までは数十メートルくらいはあった。
(ふーん、やっぱり防犯カメラとか設置してあるんだなあ…)
門から建物までの間、あちこちにカメラが設置されていた。
私はなぜか、そのカメラが私を見ている気がした。
(
私は個人でピザ屋を経営していた。
チェーン店とは違い、ピザを作る上での原価の安さを値段に反映させ、チェーン店の半値以下でピザを提供しているうちの店は、こんな豪邸に住む人が食べるような価格設定ではなかった。
とは言え、客は客のため、配達サービス利用費も払うということなので配達しないわけにもいかなかった。
(あーあ、最初からこんな豪邸だと分かっていたら断っても良かったんだけどなあ…)
「よし、着いた。」
心の中で愚痴っているうちに、私は建物の前へと着いた。
ピンポーン…
私は再び、今度は建物のドアのインターフォンを鳴らした。
しかし、返事はなかった。
「あれ?おかしいな…??」
ピンポーン…
私はもう一度インターフォンを鳴らした。
しかし、やはり返事はなかった。
「…何なのよ、もう!……すみませーん!ピザ屋でーす!すみませーん!」
仕方がないので私は声をかけたが、その声にも反応はなかった。
(はあ!?なんでよ!?ふざけてんの!?)
私は少しイライラして、ドアをノックしようとした。
その時だった。
「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」
「!!!」
(うそ…これって…)
建物の中から囁くような声で聴こえているその言葉に私は心当たりがあった。
ピザのお届けに参りました…
それは、私が生まれる前に起きたという凶悪な組織犯罪の合言葉だった。
しかし、私が心当たりがあるのは、むしろその組織犯罪が摘発されて、風化する頃に流れ始めた噂だった。
(あの噂…マジだったの?)
「ピザのお届けに参りました!」
「お…が…に……た……ふ…け……な…」
「!!!」
ドアの前で立ち尽くす私の耳に再びその声が、今度はさっきよりもはっきりと大きく聴こえた。
そして、聴き取れなかったものの、その声に対してさっきインターフォンに出た男性と思われる声が何かを言っていた。
(うそでしょ…さっきの人が反応してる!…てことは今…中にあの噂の主がいる!?)
私は考えることしか出来ずに立ち尽くしたまま、ただそれを聴いていた。
「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」
「う…あ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…」
「!!!」
(終わった………)
私はそう確信した。
そして、私は一先ず店に戻ることにした。
数日後、警察が私の元へ事情聴取にきた。
どうやら、あの豪邸に住んでいた男性が私がピザの配達に行っていたあの時間に心臓発作で亡くなったらしい。
警察の調べによると、邸内のカメラには心臓発作前に半狂乱状態となっている男の姿が映っていて、その時に庭のカメラに門から邸宅へ歩く私の姿と、扉の前で立ち尽くしてから出ていく私の姿が映っていて、何か事情を知らないか確認に来たらしいが、私は何も言わなかった。
言ったところで逆に私が怪しまれると思ったし、言っても詮のないことだったからだ。
警察は事情聴取の際にあの豪邸に住んでいた男性について説明してくれた。
あの男性は、豪邸に女性を連れ込み乱暴するという悪質な犯行の常習犯だったらしい。
カメラで撮られていることや腕の良い揉み消し屋の弁護士を雇っていることなどにより、被害女性のほとんどは泣き寝入りだったと言っていた。
私は、あの噂の主が悪を裁いたのだと確信したが、必ずしもあの噂の主が正義だとは私は思わない。
その理由は噂の内容にあった。
それはともかく、警察の説明してくれた話の中に私の耳に聴こえたあの声が噂の主であるという確信を与えるものがあった。
それは、あの豪邸の壁に血文字で書かれていたというメッセージだった…
302号さん、ご利用ありがとうございました。
ピザは確かにお届け致しました。
このメッセージが、心臓発作で亡くなった男の血液で書かれていたらしい。
しかし、男に出血の痕跡は一切無かったと警察は言っていた。
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