第9切「政治家の事務所」
「では、二ヶ月後に与野党の合意の上で解散を致しますので、その際の選挙ではどうぞよろしくお願いします。」
「はい、はい、わかりました。そうさせて頂きます。ありがとうございます。」
「そうです。一切れ百万円で、通常のピザが八切れ、大が十二切れになってます。ご支援頂く際には一切れ単位から一枚単位まで選択が出来ます。」
「はい。既に総理と野党第一党の党首とで解散の日取りは決めてあります。」
「以前の選挙では大変お世話になりました。二ヶ月後の選挙もお世話になりたいと思っております。ええ、ですから通常と大を各一枚ずつ、合わせて二十切れをお届けしたいと思っております。」
プツン…
俺は、一昨日の朝、出勤前に自分の左肩を抉り、そこに小型の音声レコーダー埋め込んで出勤して手に入れた音声データの録れ具合を、風呂場に持ち込んだスマートフォンで確認していた。
「とりあえず、これで証拠は掴んだ。あとはどこに流すかだけど…大手のマスコミ、テレビなんかは所詮、政治屋の言いなりだから、先に一般人や海外メディアに流す方が良いかも知れないな…しかし、今の俺は何をしても監視されているから、直接は動けない…そうだ、アイツに頼むか。」
この二日後、俺は友人の男に腐った政治屋を失脚させるデータを託す方法を考え出し、それを実行に移して死んだ。
正確には、死んだことになった。
俺は海外メディアに顔が利く友人に学生時代に二人で遊んで作った暗号を用いて相談したところ、死んだことにするしか生き残る術はないと言われて、国内にいる家族や友人らとの生活を全て捨てて、俺はその友人の協力で医者を抱き込み、大量の睡眠薬を飲んで自殺したことにした。
そして、この情報は国内にいる裏事情に精通した友人に託した。
もっとも、その友人と同時進行で
そんな時だった。
海外に保護されていた俺の元に、海外メディアに顔が利く友人から一つメモリーカードが届いた。
それは音声のデータの様だった。
俺はそれを再生した。
「ピザはピザですよ!食べ物です!は?金?何を言ってるんですかあなたは!」
それは、あの事務所の第一秘書の声だった。
データを確認すると、日付は俺が死んでから数日後だった。
「先生、何言っているんですか?先生には既に二千万円分を届けているんですよ、今さらしらを切ることは出来ませんよ。もし我々のことを切り捨てるならば、死なばもろともですよ。」
「は?総理が全てこっちだけでやったことにしろ言った?無理です。既に総理の名が出ているんですから。」
「だから、与野党が本当は裏では協力関係にあって、互いに既得権益を守りあって、対立姿勢を演出して選挙でぼろ儲けしていることも既にみんなが知っているから、野党も与党も関係ないんですよ!」
声は第一秘書以外の秘書の声もあった。
「これ…どうやって録ったんだ……」
俺はそれをどうやって録音したのか気になったが、それよりも気になることが秘書達が電話を切った後に始まった。
ピンポーン…
「おい!扉閉めとけつったろ!人来てんじゃねえか!」
この政治屋の事務所は三階のフロアを貸しきっていて、通路と階段の間に設置した扉を閉めると出入りが出来なくなり、マスコミなどをシャットアウト出来る仕組みだった。
「すみません!…先ほど確かに閉めたはずなのですが。」
「はずじゃダメなんだよ!」
ピンポーン…
第一秘書が部下の秘書に怒鳴っていると、再びインターフォンが鳴った。
「ちっ…良いからとりあえず出てこい!お前出たら鍵閉めっからこっち入れんなよ!」
こっちとは、彼らが今いる完全防音の電話室だ。
「はい…では出てきます。」
その声の直後だった。
コンコンコン…
「ピザのお届けに参りました…」
その声は音の響き方からして電話室の扉の外から聴こえていた。
「なっ!誰だ鍵閉め忘れたのは!」
「なに言ってるんですか!玄関はオートロックですよ!」
「ピザのお届けに参りました…」
その声の主はオートロックを勝手に開けてなに入ってきた様だった。
「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」
「誰だ!?警察呼ぶぞ!」
第一秘書がドアの外に向けて怒鳴っているみたいだった。
「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」
その声は第一秘書の声に反応したのか、同じ言葉を繰り返していた。
「てめえ、なめんなよ!」
ガチャン!
「な……誰もいねえだと…」
「ひいっ!」
「ど、どうして!」
「確かに聞こえたのに!」
「ユ、ユーレイだ!」
秘書達が各々の驚き方をして大きな声を上げていた。
「ふざけんな!幽霊なんざこの世に……いるわけ…が……ヒィィィィィィ!!!」
第一秘書が悲鳴を上げていた。
昔、ヤクザとゴタゴタがあったときに、ヤクザ相手にも一切引かなかったという逸話が派遣組の秘書にも知れ渡っている、武闘派の第一秘書の悲鳴に俺は驚いた。
「ななな、何だてめえ!」
「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」
プツン…
収録された音声はそこで終わっていた。
俺は、この音声について何がどうなっているのか気になり、近いうちに友人に訊ねようと思ったが、数日後、友人に訊ねるより先に日本のニュースを配信しているウェブサイトであるニュースの記事を見て目を疑った。
『先日、派遣の秘書が自殺したばかりの大物政治家の事務所で、今度は五人の秘書が謎の集団死!?例のピザ汚職事件や政治家の関与は!?』
という記事だった。
自殺者した派遣の秘書というのは俺のことで、五人の秘書とはあの音声に収録されていた秘書達だった。
ニュースの記事によると、自殺したのは音声が録音された日で、通路と階段の間に設置された扉、玄関の扉、電話室の扉、全ての鍵が閉められており、死因は全く分からないが五人揃って外傷がなく、薬物も検知されなかったと書いてあった。
「嘘だろ……なんだよこれ……」
俺は、政治屋の使っていた裏金に対する隠語のピザと、謎の死を遂げた秘書達の死ぬ間際の音声に収録された、ピザのお届けに参りましたという言葉の奇妙な符合に恐怖した。
ガチャン!
「うわぁ!!!………って、何か郵便が届いただけか…ビックリさせんなよ……」
タイミング悪く郵便が届いた。
玄関の扉に設置されている郵便受けに投函された物を見ると、手紙のようだった。
そこには…………
302号にピザをお届け致しました。
よろしければまたご利用ください。
と、書いてあった。
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