第7切「アウトレイジな人々」

「…で、言いたいことはそれだけか?」


「ひっ!あ…あと、元金が三百万円なのに利子が二千万円っていうのは少し…」


「あァ?!ナンダってェ!?!はっきり言ってみろや!」


「ひっ!」


 ビルの一室で作業着を着た男がスーツの男達に囲まれていた。


「おいおい、あんまりデケェ声出すから社長さんが怯えてんじゃねえか。あ、ほらほら社長さん、そんなところに正座してないでまあ立ってくださいよ。」


「アニキ…でも…」


「うっせえ!ろ!!」


 スーツの男達の中では一番偉いと思われる白いスーツの男が作業着を着た男に近付き、立つように促した。


「さ、さすがはさん、話がわかる……うごェ!!!」


「てンめェこら!誰が親分だあァ?!うちはな金貸し屋さんなンだよ!みてェな言い方すンじゃねえ!わかったか!おらァ!」


「ぅぎ!…ごぇ!…す…が!…すみ…ま…ぜぁ!…すみません!すみません!…げぶ!」


 白いスーツの男が作業着を着た男に殴る蹴るの暴行を加えていた時だった。


 プルルルル…


「あァ?…ちっ…おい、おめぇら客だ。騒がねえと思うが、念のためソファーの下に入れとけ。」


 白いスーツの男がそう言うと、他の男達がを持ち上げ、ソファーの下にあるに作業着の男を入れ、その上に一人の男が座った。


「オッケーっす。」


「おう。おい、出ろ。」


「はい!……はい、OR金融です。お金が御入り用ですか?うちはいつでも無担保、即金がモットーです。」


「………」


「もしもし?もしもし!もしもーし!」


 電話に出た男は相手が何も言わないため、と繰り返した。


「ピザのお届けに参ります…」


「はい?申し訳ありません、お客様。もう一度お願いします。」


「ピザのお届けに参ります…」


「は?」


 プツン…


「なんだ今の…?」


「おい、どーした?か?」


 電話対応をした男のおかしな様子に白いスーツの男が問い掛けた。


「あ…いえ、いちゃもんではないっす。ただ…」


「ただなんだ!はっきり言えや!」


「はい、!電話口の奴、ピザのお届けに参りますとかなんとか言って切っちまったんです。」


「ピザだぁ?」


「ふひふ……ふは!…はひゃはは!」


「!!!」


 突然、ソファーの下にされた作業着の男が笑いだした。


「なんだてめェ!なに笑ってンだおらァ!」


 笑い声を聞いたソファーの上に座っていた男がソファーをひっくり返すと、作業着の男が泣いてるのか笑っているのか分からないような表情で笑い声を上げていた。

 男はそれを見るなり蹴りあげた。


「うぎ!…ふひ!ひふふはひひひひは!」


「なっ…こいつ!おら!おら!おら!」


「ふぶっ!ひひふばっ!はびっ!ふふひほへふふぶっ!ほふげっ!ふひひひふひびっ!ふへぼばっ!」


 作業着の男は蹴られて口から血を吐きながらもずっと笑っていた。


「なんだこいつ…キモチワリィな!くそ!くそ!くそ!くそ!」


「ちっ、もういい!やめろ!…いくらやっても無駄だ。こいつはもうちまうしかねえ。おい!工場こうばに連絡しろ!こいつにすんぞ!ちょうど何台かスクラップにするやつがあるはずだ!」


 そう言って指示を出すと、白いスーツの男は血ヘドを吐きながらも笑い続ける作業着の男に近づいた。


「社長さんよ?あんたがわりぃんだぞ?借りた金は返す。あんたも経営者なら一度くらい言われたことえか?…ま、あんたには取り敢えずになってもらって、金は後でしっかり返してもらうからよ。あんたの生命保険でな。そうやって笑いながらせいぜい楽しい夢でも見ながら死ねや。……おい!連れてけ!」


 白いスーツの男の指示に従い、下っ端の男達が作業着の男を運び出そうと近づいた時だった。


「ふひょひゃふひゅはゃふひょ!………」


 作業着の男は突然、笑うのを止めた。

 その男の手足はな方向に曲がっていて恐らく両手両足が全て折れていた。

 そして男はこう言った。


「ピザのお届けに参りました!」


 大声を発した作業着の男の口からは勢いよく血が吹き出し、近くにいた白いスーツの男にも血飛沫が飛んだ。


「あ?んだこいつ?まだ立てんのか?」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「うおっ!」


 作業着の男は折れた両足を狂ったように、同じ言葉を連呼しながらし、まるで地を這う虫のように室内を動き回った。


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ちっ!おい!おめぇらこいつ殺してもいいから止め…!!!!」


 白いスーツの男は周りの男達に指示しようとしたが、周りの男達を見た途端に息をするのを忘れた。


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


 白いスーツの男の周りに居た六人の男達は、作業着の男とをしながら足だけはピッタリと地面に着けたまま微動だにせず、ながら作業着の男と同じ言葉を連呼していた。


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


 両手両足が折れているのに人間離れした速さで狂ったように跳ね回る作業着の男、自身の忠実な手下であったはずの六人の男達、七人の男達に包囲されるように同じ言葉を聞かされた白いスーツの男は呆然としていた。


 やがて、白いスーツの男は小さな声でこう呟いた。


「ピザのお届けに参りました…」

















 プルルルル…


 ガチャ…


『はい。OR金融です。大変申し訳ありませんが、ただいま留守にしております。御用件は発信音の後にどうぞ。』


 ピーーーーー…


「302号さん、ご利用ありがとうございました。請求は後払いにて承りました。」


 プツン…


 ツー、ツー…


 そこは確かに302号室だった。

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