第6切「留守番する女の子」
ピンポーン…
「荷物のお届けに上がりました。」
ピンポーン…
「荷物のお届けに上がりました。」
ピンポーン…
「はい。なんですか?」
三回目のインターフォンで私はやっと訪問者に気がつき、声を掛けました。
この時の私はまだ小学生で、予期せぬ訪問者に対する応対の仕方も、恐怖も知りませんでした。
「荷物のお届けに上がりました。」
「わかりました。いま開けます。」
ガチャン…
私は相手を確かめもせずに玄関のドアを開けてしまいました。
「あの、これ判子で…!!!」
「シッ!暴れたりしなきゃなにもしねえから静かにしろ。」
「んぐ…!!!」
扉を開けた私は、訪問者の男にあっという間にガムテープで口を塞がれ、その上で両手と両足もガムテープで固定されました。
「ー!ー!ー!」
「うるせえな。叩かれたいのか?」
その一言で私は何も言えなくなりました。
「よしよし、それで良いんだ。…さてと金目の物はどこかな?」
訪問者の男は宅配便を装った強盗でした。
私は恐怖で何も考えられず、ただひたすらその男が早く帰るのを祈るだけでした。
「くそ!ろくなもんねえじゃねえか!おいクソガキ!親の指輪とかそういうもん置いてある場所教えろや!」
暫く部屋を物色していた男が金品が見つからずにイラついた様子で私に話し掛け、私の口を塞いでいるガムテープを剥がそうとした時でした。
ピンポーン…
「ん?客か?…おい、静かにしろ。暴れたらわかってんな?」
ピンポーン…
ピンポーン…
ピンポーン…
ピンポーン…
男は居留守を使ってやり過ごそうとしましたが、インターフォンの音は何度も何度もしつこく鳴り続けました。
ピンポーン…
ピンポーン…
ピンポーン…
ピンポーン…
「くそ。うるせえな…」
「ピザのお届けに参りました…」
男がインターフォンの音に反応した矢先、家の中にその声が響きました。
「ピザのお届けに参りました…」
「あ?なんだこれ…おいクソガキ、どういう仕組みだ?おい。」
男は私が何かをしたと思ったのか、私に問い掛けてきましたが、口も塞がれ手足を固定された私に何かを出来るはずもありませんでした。
「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」
「くそ!うるせえな!」
男は怒った様子で玄関に行くとドアを開けました。
しかし、そこには誰もいなかったらしく、すぐに戻ってきました。
「ちっ、なめやがって。」
「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」
今度はさっきよりも長く声が聞こえました。
私はその声がどこから聞こえているのかはっきりとわかりました。
声の主が何者なのかも気になりましたが、それよりも強盗のすぐ近くから聞こえるその声が不気味で、私は強盗だけでなくその声も怖くてたまりませんでした。
「くそ!うるせえぞ!黙りやがれ!」
「ピザの…………」
その声は急に止みました。
「くそが…ビビらせやがって……」
男はそう言うと再び私のほうに近づいてきました。
その時でした。
「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」
その声はさっきよりもさらに男の近くで聞こえました。
それはまるで男の耳元から発せられている様な感じで、さっきまでよりもはるかに大きく聞こえました。
「うわあ!!!…うるせえ!うるせえ!うるせえ!」
男は急に大きくなったその声に驚き、騒ぎ散らしていました。
「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」
「!!!…うわああああ!」
「ピザのお届け…………」
ふいに男が何かを悟った様子で悲鳴を上げながら立ち去ると、その声はピタリと止みました。
そして、なぜか私の口に貼り付けられていたガムテープが破れていました。
私は口を使って、手に付けられたガムテープを剥がすと、続けて足のガムテープも剥がし、拘束を解きました。
その日の夜、両親が呼んだ警察が帰った後で、私は郵便受けの中に小さなメモをみつけました。
302号さん、ご利用ありがとうございました。
またのご利用をお待ちしています。
私が当時住んでいた部屋は五階建てのマンションでしたが、三階はなぜか立ち入り禁止になっていました。
当然、当時住んでいた部屋は302号室ではありませんでした、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます