第5切「心霊好きな女の子」

 ピンポーン…


「はーい!」


 私は返事をしながら玄関に向かい、扉のを覗き込んだ。


(あれ?誰もいない?イタズラ?)


 さっき聞こえた呼び鈴の音は空耳ではなかったと思いつつ、私は玄関から部屋に戻り、一昨日行ったばかりの心霊スポットで撮った写真のチェックを再開した。


「うーん…やっぱり何も映ってない。」


 その心霊スポットは千葉県にある霊園で、として有名だった。

 しかし、結果はという骨折り損に終わり、唯一の希望であった心霊写真への期待も空振りだった。


「やっぱりスマートフォンのカメラじゃ写らないのかなあ…カメラ、買っちゃおっかなあ。それとも私のだからかなあ…」


 私が独り言を呟いていたときだった。


 ピンポーン…


「はーい!」


 再び鳴った呼び鈴の音に私はまた玄関へ向かった。

 そして、さっきと同じように覗き穴を覗き込もうとしたとき、それは聞こえた。


「ピ…の…届け…参……した…」


(ん?)


 玄関の向こうでが聞こえ、私はその場で耳を澄ました。


「ピザのお届けに参りました…」


 今度は確かに聞き取れた。


(ピザのお届け?ピザなんか頼んだっけ?いやいや頼んでないし。流石にそれくらい覚えてるし。)


「ピザのお届けに参りました…」


(またピザのお届けに参りましたって言ってるし。ピザかあ…)


「ピザのお届けに参りました…」


(そう言えば、最近ピザ食べてないなあ…)


「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」


 私は、一昨日の心霊スポットでのが全く無かったことにガッカリして、やけ食いしたい気分になり、久しぶりにピザが食べたくなった。

 しかし、ドアの向こうから聞こえるその声に対して、私はなぜか気がして、その場でその声を聞いていた。


「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」


(あーもー、うっさいなあ…ピザ届けに来たならってよ。帰ったら取るからさ。)


 私はしつこく言い続けるの声に少しイラついていた。

 それは、心霊スポットの空振りと暫く食べてなかったピザが食べたくなってきたことへのも含めたイラつきだった。


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


(だからしつこいって。そもそもピザじゃなくて、ピザじゃないの?正直、でもでもけど。)


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


(そもそもどっちが正しい日本語なのかよくわかんないし。まったく、言葉使いが紛らわしいのよ。じゃなくてが正しいってことも考えられるし。あー、本当に紛らわしい…)


 私はドアの向こうの声に対し、言葉使いが気になっていた。


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


(はぁ~、あんまり騒がないでくれないかなあ…近所迷惑だから。どうせ謝らないんでしょ?もし何かあれば私が謝りに行くことになるのよ。別にそれは構わないけど、あんまり言わないでくれないかな。さっきからのよ。)


 私はその声に対してと感じて、ずっと心の中で文句を言っていた。


「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」


(決めた。ぜったいにピザ食べる。乗せる具材はあるハズだから、生地は何かで代用して…あ、を呼んでご馳走して上げようかな?)


 輝流馬かるまとは、私のだ。

 輝流馬かるまは私のをあまり良く思っていないけど、たまに一緒に趣味に付き合ってくれるし、もしかしたらは私の気のせいで、実は私と輝流馬かるまは趣味がのかも知れない。


「ピザ………………………………」


(ん?………やっと帰ったかな?)


 その声は、最後にとだけ言って、それからは何も言わなかった。

 がもうに居ないと私は、一応が、ドアの向こうには何もなかった。


「あーあ、なんだったんだろうやつ。ま、いっか。ピザ作ろ。…っと、輝流馬かるまに連絡しておこ。」


 私は輝流馬かるまに、、と送る内容を六回に分けてLI○Eで連絡した。




 テントーン…




 数分後、返事のLI○Eが来たと思った私は開いてみた。




 302号さん、お気に召さなかった様で残念です。


 また機会があれば、弊社のおいしいピザをお届け致します。




「ん?なにこれ?輝流馬あいつ、私にな文章を送るとは良い心掛けだな。来たら褒めてやんないと。」




 輝流馬かるまはそれから四十分後くらいに来た。


 私はお好み焼きの生地をのピザを作り、二人で食べながらさっきのことを輝流馬かるまに話してみた。


「…という訳なのよ。ね?どう思う?やっぱり変質者へんたいかな?」


「いやいや、美波。それは変質者へんたいって言うよりか………まあ、なら気にしなくても良いんじゃないの?」


「ふーん…ま、何でも良いか。そう言えば、輝流馬かるま。さっき私にくれたよね。見直したよ。」


「は?何の話?」


「だから、よ、これ。」


 私はさっきのLI○Eを輝流馬かるまに見せた。


「は?知らねえんだけど。つか…ほらこれ、送り主が俺じゃねえよ。」


 よく見ると送り主にはπικτήと書いてあった。


「πικτή?これって確か…古代ギリシャ語だよね?πικτήは確か…発酵された生地とかそんな意味で、ピザの語源の一つだった気がするけど…って、またピザ?変なの。このメッセージの送り主もさっき来た変質者へんたいの仲間かな?輝流馬かるまどう思う?」


「…あのさ、。俺ちょっと思い出したからもう帰っていいかな?」


「はあ?なにいってんの?さっき部屋に入るなりって言ってたじゃない。」


 私は輝流馬かるまの言葉の矛盾を指摘して呼び止めた。

 ちなみに美波みなみとは私のことだ。


 理由はわからないが、私の部屋に来たピザ屋の話を聞き、このメッセージを見た輝流馬かるまは急にし始めて、直ぐにでもから出ていきたそうにしていた。


 それはそうと、私の部屋は302号室ではないし、そもそも私の住んでいるアパートは二階までしかない。

 πικτήと名乗る者は何かを勘違いして私にメッセージを送っていたみたいだった。


 ひたすらピザを届けに来たとだけ言う新種の変質者へんたいと、ピザの語源とも云われている言葉を名前にしている変質者へんたい、それらが私に何の用があったのかはわからないけど、迷惑だから次に来たときは今回のことをちゃんと謝罪してほしい。

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