第3切「ストーカー男」
「ピザのお届けに参りました…」
長年苦しんでいたストーカーから私を救ってくれたのは、その言葉でした。
その日は、昼から友達みんなでバーベキューをしていて、帰路に就いたのは夜の9時を過ぎていました。
自宅のマンションの前に着くと、私は直ぐに
(
誰もいないはずの私の部屋の窓から明かりが漏れていました。
当時の私が住んでいた部屋は、窓の位置が南向きであり、昼間はなにもしなくても明かるかったので、
(ヤバイヤバイヤバイ…どうしよう!?…またアイツが来てる!!!)
アイツとは、正体は一切わからないのですが、私が高校生の頃から15年近く私にストーカー行為をしていた奴です。
警察などに相談しても何もわからず、何度引っ越しても2ヶ月も経たない間に引っ越し先がバレてしまうので、私はどうすればいいのかわからなくなり、半年程度に一度引っ越しを繰り返すという暮らしをしていました。
この時は、私がこのマンションに引っ越してきて1ヶ月が過ぎた頃でした。
(どうしようどうしようどうしようどうしよう…警察?でも下手に刺激してアイツを怒らせたら後で何してくるかわからないし…ストーカーなんて捕まっても直ぐに出てきちゃうし。
「あっ!」
このまま帰宅したらアイツとかち合ってしまう、でもそのまま放って置くのも部屋に何をされるかわからない、という事態にどうすればいいかわからずにいた私は、自分の部屋に置いてある防犯グッズを思い出しました。
それは、私のスマートフォンのアプリとリンクさせた集音マイクで、ストーカーに苦しむ私に友達みんなが誕生日に贈ってくれたものでした。
私はアイツが外へ出てきても見つからない場所へ身を隠し、イヤホンを着けてスマートフォンのアプリを起動させると、私の耳には集音マイクが拾った部屋の中の音が聴こえてきました。
「ふふ…また来てあげたよ。いつも直ぐに引っ越しちゃうから一緒に過ごす時間が途切れ途切れになっちゃうけど、これからはまた一緒だね…ふふ…」
「ひっ!」
男の声でブツブツと独り言を呟く声とカチャカチャと何かしている音が聴こえてきました。
(…何の音?)
私は耳に届くストーカー男の気味の悪い独り言をなるべく気にしないようにして、カチャカチャという音の正体を考えていました。
今になって思うと、その音は盗聴器などを取り付けていた音だったのだと思います。
ピンポーン…
自分の部屋の音を外で聴いている私の耳に、私の部屋のインターフォンが鳴る音が聴こえました。
「はい、誰?」
(なっ……!!!)
驚くことに、集音マイクの向こうのストーカー男は平然と私の部屋のインターフォンに出ていました。
「ピザのお届けに参りました…」
スピーカーモードに設定していた私の部屋のインターフォンの受話器からは、ピザ屋の配達員と思われる声が聞こえていました。
「ピザ?そんなもの頼んでないよ。」
「ピザのお届けに参りました…」
「だから、そんなもの頼んでないって。」
「ピザのお届けに参りました…」
「あんたもしつこいな、そんなもの頼んでないから早く帰れよ。そろそろボクのオンナが帰ってきちゃうだろ。」
「ーッ!?!?」
その言葉のあまりの気色の悪さに全身に悪寒が走り、私は声も出せませんでした。
「ピザのお届けに参りました…」
「ん?なんだコレ?切れねえな。」
「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」
「ちっ…」
「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」
「くそ!いま出るから待ってろ!」
ストーカー男がそう言うと、玄関に向かうカスンカスンという音が聴こえてきました。
その間にもピザ屋と思われる声は止みませんでした。
「ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…ピザのお届けに参りました…」
「おい!いい加減に……ッ!!!うわぁァァァァァァァァァァあ!!!な、なんだお前!!!ひィィィィ!!!」
少し離れた位置からストーカー男の悲鳴が聴こえてきました。
「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!」
ストーカー男が応対したにも拘らず、尚も続くピザ屋と思われる声はどんどん激しくなっていました。
「ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザのお届けに参りました!ピザ…」
急にその声は止みました。
そして次の瞬間…
「ご利用ありがとうございました。」
それから1時間近く様子を見ていましたが、私の部屋の中からは物音1つしなくなり、私は恐る恐る部屋の様子を見に行きました。
すると、部屋の玄関の扉が開けっぱなしになっていました。
部屋の中にはストーカー男の姿はなく、男の物と思われる工具が玄関先に転がっていました。
誰もいないないことを確認すると、私は直ぐに警察を呼びました。
警察が調べた結果、盗聴器と盗撮用のカメラが何個も出てきました。
どうやら、ストーカー男は盗聴器などを取り付けるために靴をビニール袋で包み、靴のまま私の部屋に入ったらしいです。
そして、あの時に何かがあったのだと思います。
私は警察にピザ屋の話もしましたが、私の部屋のインターフォンのには応対した記録がなかったため、恐らくストーカー男がデータを消したのだろうと結論付けられました。
警察が帰ったあと、LI○Eで友達に今日起きたことを相談しているときにそれは届きました。
送り主の名が見覚えがなかったので、私は警戒しましたが、
302号さん、ご利用ありがとうございました。
またのご利用をお待ちしています。
当時の私の部屋は302号室でした。
その件以来、私に対するストーカー行為はなくなりました。
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