60
闇の中
若草姫は真っ暗な闇の中で目を覚ました。
それから若草姫は自分がどうしてこんなところにひとりぼっちでいるのかを思い出してみる。
……そうだ。
私は木花姫を探して、この森の中にやってきたんだっけ。(そして間抜けなことに、地面に空いていた大きな穴の中に落っこちたのだった)
そんなことを思い出して若草姫は笑う。
「よいしょっと」
そう言って若草姫は重い身体を持ち上げる。(体は本当に重かった。それから、なんとなく上を見ると自分の落ちてきた穴の光を見つけることはできなかった)
きょろきょろと周囲の風景を見渡してみる。
でも、なにもない。
ここにはただの深い闇が存在しているだけだった。
……木花姫。
どこにいるの?
若草姫は当てもなく闇の中を歩き出した。
自分の手を見ると、その手の指の先は、もう『人間ではなくなっていた』。
そこにあったのは『黒い鱗で覆われている化け物の指』だった。
……黒い蛇の指。
その指を見て若草姫は思う。
私はもうすぐ黒い蛇になってしまう。
一匹のなんの感情も、言葉も持たない、一匹の蛇になってしまう。
人間ではなくなってしまう。
だから、その前に木花姫に会わなくてはいけないんだ。
自分の大切な目的を思い出して、若草姫は強く歩みを進める。
若草姫の進む真っ暗な闇の中に光はない。
それでも若草姫は進む。
ただ、前に。
……前に向かって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます