57 駅 ……さようなら。元気でね。

 駅


 ……さようなら。元気でね。


 大正時代


 若草姫が木花姫と出会い友達になったのは、二人がまだ本当に小さな子供のときだった。


 季節は冬。


 場所は、二人以外に誰も人がいない無人の駅。


 若草姫はさっきからずっと(駅の柱にある古い)時計ばかりに目を向けている。

 ちくたくと止まることなくときを刻み続けている時計。

 時間が止まればいいのにな。と若草姫はそんな子供っぽいことを今、本当に心から思っていた。

「どうかしたの?」と若草姫を見て木花姫が言う。

「別になんでもないよ」と木花姫を見て若草姫は言う。

 二人は目と目を合わせて、見つめ合う。

 その間も、時計の針は止まることなく時間を刻み続けている。……二人の、さようならの時間が迫っているのだ。

 ……出会いがあれば、別れがある。

 それは当然の出来事なのだ。それくらいのことはもう若草姫にだって痛いくらいによくわかっている。

 でも、それでもやっぱりお別れはとても寂しいものだった。

「約束しようか?」と木花姫は言った。

「約束?」とまた時計を見てから若草姫は言う。

 駅の外では雪が降り始めている。

 気温はとても低くて寒い。

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