56 蛇の脱皮

 歩き続ける。

 ……、立ち止まる。


 蛇の脱皮


 よく見ると自分の手の指や手の皮が剥けていた。

 その皮の剥けている自分の手を見て若草姫は『これは蛇の脱皮だ』と思った。

 あるいは自分の成長の証なのかもしれないと思った。

 これから私は新しい自分に生まれかわるのだと思った。……このすごく辛くて苦しくて、大変な試練の旅を通して。 

 そんなことを思ってしばらくの間、若草姫は自分の頼りない小さな手のひらを見ながら、暗くなり始めた森の中でじっとしていた。

 若草姫がそうやって自分の手のひらを観察していると、そこに、手の皮が剥けていることとは違う、もう一つの変化を見つけることができた。

 それは『鱗』だった。

 自分の指の先の辺りの皮が黒い鱗に変わっていた。

 その黒い鱗を見て、これは『蛇の鱗』だと若草姫は思った。


 ……変化は私が思っている以上に早く訪れている。


 私が完全に『本物の黒い蛇』になってしまう前に私は木花姫に会わなくてはいけない。

 木花姫にあって、(人間じゃなくなってしまって、私が言葉を失ってしまう前に)ちゃんと自分の気持ちを木花姫に伝えなくてはいけない。

 若草姫はずっと下に向けていた顔を上げて空を見上げる。

 いつの間にか、(本当にあっという間に)真っ暗になってしまった暗い空。

 そんな真っ暗な星の見えない夜の空を見て、……木花姫、今頃なにしているのかな? とそんなことを若草姫は思った。

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