42 夕凪

 夕凪


 あなたはどこに隠れているの?


 森の中で、茂みががさがさと揺れている。

 夕凪がその音を聞いてそちらを向くと、そこからすぐにがさっという音がして、一人の可愛らしい顔をした長い綺麗な黒髪の女の子が水面から飛び出した魚のように、顔を出した。

「あ、見つかっちゃった」

 驚いた顔をして、そのまだ髪の毛に木の葉を乗っけたままで気がつかないでいる、女の子は言った。

「姫様、頭に木の葉が乗っていますよ」

 にっこりと笑って夕凪は言った。

「え? 本当?」

 すると茂みの中から出てきた姫様と呼ばれた女の子はその頬を真っ赤に染めて、とても恥ずかしそうな顔をしながら頭の上に乗っている一枚の木の葉を手で払って落とした。

「取れた?」

 女の子はその大きな黒い目で、じっと夕凪を見ながらそういった。

「はい。取れましたよ、姫様」

 その場にしゃがみこんで女の子と視線の高さを合わせてから、夕凪はそういった。

 すると女の子は本当に嬉しそうな顔をしてにっこりと笑った。


 夕凪はそこで淡い夢から目を覚ました。

 障子の隙間から見える外の風景は、まだ真っ暗なままだった。……変な時間に起きてしまった。どうしてだろう? 眠りは深いほうだと思うんだけどな……。

 布団から上半身だけを起こして、まだ目覚めきっていない重たい瞼を綺麗な白い指でこすりながら年老いた夕凪はそんなことを思った。

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