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捕まえた。
みちるはそう確信する。
長年の修行の成果で、みちるはこのタイミングでなら完璧に百目の鬼を捕まえられたという確信があった。
でも、実際にはそうはならなかった。
空を切った自分の両手を見て、みちるが驚愕する。
逃げられた? いったいどうやって?
みちるは周囲を見渡した。
……百目の鬼がいない。
いつの間にか百目の鬼がみちるの視界の中から消えていた。(まるで最初から、鳥の巣の屋根の上にはみちる一人だけしかいなかったかのように、その姿は明るい星月夜の夜の闇の中に消えていた)
みちるはもう一度、注意深く周囲の風景を観察する。
すると、遠くの屋根の上に獣姫はいた。
獣姫は一瞬で遠くの場所まで移動をしていた自分を見て、驚いているみちるを見て、くすくすと楽しそうに笑っている。
みちるはもう一度獣姫に向かって明るい夜の中を駆け出していく。
獣姫はまた、追いかけてきたみちるを見て逃げ出していく。
二人の追いかけっこは続く。
一刻一刻と時が過ぎていく。
でも、みちるは獣姫を捕まえることがどうしてもできなかった。
獣姫はまるでみちるの心を読んでいるようだった。
あるいは鏡のようにみちるの心を映し出しているようにも思えた。追いかけっこの間、みちるの思う人の顔に、獣姫はその顔を次々に変えていった。
……これが百目の鬼。
みちるは納得する。
獣姫が人の命を奪うのは、百目の鬼としての宿命であり、獣姫の意思ではない。獣姫はただそこにいて、もうすぐこの世界からいなくなってしまう人の魂をあの世へと導いていくだけの存在だった。
そこには、獣姫(個人)の思いはない。
ただいつか必ず訪れる死、(あるいはお別れ)という運命があるだけだった。
でも、その運命をはい、そうですか、と言ってみちるは簡単に受け入れるわけには行かなかった。
だからこそ、こうしてみちるは全力で、獣姫を追いかけ回しているのだ。
……それから、やがて空が明るくなり、長かった夜の明ける時間がやってくると、獣姫はにっこりと笑い、それからみちるに大きく手を振ってばいばいをしながら、獣姫の姿は薄い水色の空の中になくなっていく月の光の中に溶けるようにしてみちるの前から消えていった。
獣姫がいなくなると、汗だくのみちるは大きく息を吐いて、そのまま屋根の上に倒れるようにして、横になった。
……疲れた。
と目を瞑りながら、みちるは思った。
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