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 とても遠い場所から、ざー、と言う雨の降る音が聞こえる。

「雨、止みませんね」

 と、とても美しい声で、その少女は蕨に言った。

 その少女の言葉に蕨は言葉を返さなかった。(蕨はじっと、少女だけを見つめていた)

 それから雨が降り止むまでの長い間、蕨と少女はその洞窟の中で一緒の時間を過ごした。

 そしてお互いのことを話し、二人はその距離を短い時間の間に急激に狭めていった。

「あの、あなたの名前は?」

「はい。私の名前は……」

 別れ際に、蕨はそんなことを少女に尋ねる。すると少女は、その名前を蕨に隠さずに教えてくれた。

 雨が上がって、二人は洞窟の中をあとにする。

「僕たち、もう一度、どこかで会えるかな?」

 雨の上がった洞窟の前で、蕨はそんなことを少女の背中に言う。

「……わかりません」

 小さな声でそういうと、少女はまるで逃げるように、森の中を走り出して、蕨の前からいなくなった。


 真っ暗な部屋の中でみちるが目を覚ましたのは、そんな不思議な夢を見ている途中の出来事だった。

 みちるの見ている夢の中では、ずっと雨が降っていた。

 でも目を覚ましたみちるが部屋の外に目を向けると、もう雨は降ってはいなかった。(ざー、と言う雨の降る音も聞こえなかった)


 ……もう一度、どこかで君に会えるかな?


 そんなことを、夜の中でみちるは思った。

「あら、起きてたんですか?」

 そんな白藤の宮の声が聞こえた。

 みちるがその声が聞こえたほうを見ると、暗闇の中に白い服をきた白藤の宮がまるで幽霊のように、その場所にいて、みちるのことを闇の中からじっと、その二つの黒い目で見つめていた。

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