　お風呂を浴びた白藤の宮がみちるのいる部屋の中に戻ってきた。

「ただいま戻りました」

　にっこりと笑って、その濡れた黒髪を手ぬぐいで頭の上にまとめている白藤の宮はみちるに言った。

　しかし、みちるから白藤の宮に返事はない。（それはとても珍しいことだった）

　見るとみちるはさっきまで白藤の宮がそういていたように、畳の上に横になって、そのまま体を部屋の壁に預けるようにして、すーすーととても小さな（可愛らしい）寝息を立てて、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。

「あらあら。まだまだこういうところは本当に子供のままですね」

　ふふっと笑いながら白藤の宮はみちるの寝顔を幸せそうな顔で見つめながらそう言った。

　白藤の宮はしばらくの間、そうしてみちるの寝顔をじっと見つめていた。

　それからふと白藤の宮は森の暗い夜の空を見上げる。

　雨はもう降っていはない。

　白藤の宮がお風呂場に移動をするときには、もう森の中に降る雨は止んでいた。でもまだ空は曇ったままのようで、月や星の明かりはどこにも見ることができなかった。

「おやすみなさい。みちる」

　そう言って白藤の宮はみちるの頬をそっと撫でると、それから、自分とみちるのための布団を用意するために、そっとみちるの眠っている部屋の中をあとにした。

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