27

 蕨がその洞窟の中にいる誰かの気配に気がついたのは、それからすぐのことだった。

 着ていた水色の着物を脱いで、雨露を絞っていた蕨がその気配に気がついて洞窟の奥に広がる闇を見つめて、「……誰かそこにいるの?」と声をかけると、暗い闇の中からだんだんとぼんやりと光る白い服を着た一人の人の形が見えてくるようになった。

 蕨は思わず、その腰にさしていた一本のとても立派な(蕨の姿から似合わない)水色の糸で編まれた刀の柄に手をかける。

 蕨が見つめる闇の中に一人の人間があらわれる。

 その人の形を見たとき、最初、蕨は思わずその人間が人ではなく幽霊(あるいは人を騙すもののけ)であると思った。

 そこにいたのは赤色の帯を締めた、白い着物を着た蕨と同じように全身が雨に濡れている、一人の美しい黒髪の少女だった。


 年の頃は数え年、十六歳の蕨とそう変わらないように見える。

 その少女は自分をまっすぐに見ている蕨を見て「初めまして。こんにちは」とにっこりと笑って蕨に言った。

 その雨に濡れた妖艶な美しさをもつ少女の笑顔に、……思わず蕨の心が震えた。

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