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「お風呂いただきました」

 顔やその体をほんのりと赤く染めているみちるは、白藤の宮から借りた真っ白な寝巻き姿で、鳥の巣の中でくつろいでいた白藤の宮のところまで戻ってきた。

 みちるの巻いている帯は黄色い帯で、黄色は藍色や緑色と一緒に、みちるの大好きな色の一つだった。

「あらあら。色っぽいですね。ふふ。この場所に素敵な殿方がいないことが残念に思うくらいです」

 お風呂上がりの髪を濡らして、熱った体をしたみちるをまじまじとみて白藤の宮はそんなことを笑顔でいった。

 白藤の宮は畳の上に足を崩して座っていて、右手で団扇を仰ぎながら、小雨の降る夜の鳥の巣の庭を一人でぼんやりと眺めていた。

 そんな白藤の宮の隣にみちるは正座をして座った。

「雨、止みませんね」

 みちるはいう。

「そうですね」

 白藤の宮はみちるを見て、そういった。

「みちる。あなた好きな殿方はいないんですか?」白藤の宮はにやにやしながらみちるにいう。

「……いません」

 とちょっとだけ間を置いてみちるはいった。

「あら?」

 でも、そのちょっとだけの間を(お風呂上がりで、少しぼんやりとしているみちるの隙を)白藤の宮は見逃したりはしなかった。

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