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「お待たせしました」

 ふふっと楽しそうに笑いながら白藤の宮が笹の葉をもした透明なガラスの器に切った桃を乗せて、みちるのいる部屋に戻ってきた。

 でも、みちるから白藤の宮に言葉はない。

 みちるはずっと黙っている。

 薄暗い部屋の中で、じっとさっきまでと同じように座布団の上に正座で座りながら、下を向いて、ただ黙ってその場所に動かずにいた。

 白藤の宮は自分の席に戻ると、座布団の上に正座で座って、桃をのせた器を二人の向かい合って座っている間のところにおくと、「どうかしましたか? みちる」と、とても優しい声でみちるに言った。

 みちるは、なんでもありません、と笑顔で白藤の宮にそう言うつもりだったのだけど、それは言葉にはならなかった。

 みちるの気持ちはみちるの内側に止まったままで、外側には出て行こうとしなかった。

 みちるは笑顔になることもできなかった。

 みちるは、……静かに泣いていた。

 顔を上げることができなかった。

 泣きているところを白藤の宮に見られたくはなかったのだ。

「みちる」

 と白藤の宮が言った。

「……はい」

 絞り出すようにして、そんなふうに震えた声で(下を向いて畳をじっと見つめながら)みちるが答えると、「あーん」とそんな白藤の宮の声が聞こえた。

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