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 閉めたままの障子の向こう側からは森に降る雨の音が聞こえた。

「白藤の宮。障子を開けてもいいですか?」

 白藤の宮と同じようにいただきます、を言ったあとで、出来立てのお食事に箸をつける前に(白藤の宮はいつものように、もぐもぐと口を動かしながら、もうご飯を食べ始めていた)みちるは言う。

「ええ。もちろん。構いませんよ」

 にっこりと笑って、口元を白い布で一度拭いてから、白藤の宮はそう言った。

「ありがとうございます」

 みちるは小さく笑うと、それから座っていた座布団の上から立ち上がってゆっくりと足音を立てないように歩いて移動をして、薄暗い部屋の障子をそっと開けた。

 するとそこには見慣れた森の風景が見えた。

 ……雨の降っている森の風景。

 みちるはその場所に立って、目を閉じて、一度ゆっくりとそんな雨の降る森の匂いをかいだ。

 みちるはそっと目を開ける。

 それから雨の降り続ける灰色の空を見上げる。

 そこにはやっぱり見慣れた風景があった。

 雨の降っている灰色の空。

 雨降りの空の風景は、森でも、都でも、どこにいても、(私が何歳になったとしても)やっぱりまったく同じ風景のように、みちるには思えた。

 ……それはあなたも同じですか?

 と心の中で自分の後ろにいるはずの、白藤の宮にそっとみちるは問いかける。

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