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やがて森の中に雨が降り出した。
その静かな雨を見て、みちるは今ごろ汗だくになって、ほかの熟練の花火職人の人たちと一緒に、工房で黄泉送りのための花火を作っているであろう、玉のことを思い出した。(みちるの中で玉はたくさんの花火を作りながら、いつものように本当に楽しそうに笑っていた)
「雨ですね」
みちるが言った。
「ええ。雨です。昨日も、雨が降っていました。最近は雨の日ばかりですね」と鳥の巣の庭に降る雨を見ながら白藤の宮は言った。
「白藤の宮は雨は嫌いですか?」みちるは言う。
「そんなことありませんよ。雨は好きです。……ただ、雨が降ると、いろんなことを考えようになります」と白藤の宮は言った。
「いろんなこと?」みちるは言う。
「はい。いつもは考えないような、あるいは、考えないでいようと思っているようなこと。……昔のことや、これからのこと。いろんなことを考えたりします。雨の降っている景色や、雨の音を聞いていると、自然とそんな風にたくさんのことを考えてしまうんです」
と少し悲しそうな顔で笑って(それは、いつも笑顔の白藤の宮にしてはとても珍しい顔だった)白藤の宮はみちるにいう。
「……いろんなこと」みちるは言う。
「あなたのことも考えますよ、みちる」と白藤の宮はいう。
「私のこと、ですか?」みちるは言う。
「はい。あなたのこと。そんなときはとても幸せな気持ちになります」と言って白藤の宮はみちるを見て本当に幸せそうな顔でにっこりと笑った。
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