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二人は長い時間、言葉をしゃべらずにただじっとそういていた。(みちるは闇の中で風の運んでくる緑の森の匂いと、とてもいい香りのする畳の匂い、それからぱちぱちと気持ちよく弾ける火の音を聞いていた)
その間、みちるは目をつぶり、白藤の宮はみちるの美しい黒髪をそっと何度か優しく撫でてくれた。
鳥の巣の中には気持ちのいい風が吹いていた。(ちりん、と誰かが家の中を訪ねてきたように、その風が鳥の巣の縁側にかけてある赤い金魚の模様の入った風鈴を一度だけ鳴らした)
森に吹く、少し雨の残った匂いのする、湿った風。
「……もう、夏ですね」
そんな風の中で久しぶりに白藤の宮がそう言った。
「はい。夏です」
目を瞑ったまま、みちるはいう。
「都ではお祭りの季節ですね」
白藤の宮がいう。
「はい。お祭りの季節です」みちるは言う。
「懐かしい思い出です。山に灯る大きな篝火を見たり、夜空に咲く、とてもたくさんの綺麗な黄泉送りの花火を見ました」
なんだかとても懐かしいな、と言ったような昔を思い出したような声で白富士宮は言う。
「今年はとくに流行病や飢餓、それにいろんな災害で、たくさんの人たちが亡くなりました。きっと例年以上にたくさんの黄泉送りの花火が打ち上げられると思います。花火職人の友達がそんなことを言っていました」みちるは言う。
「花火職人の友達がいるのですか?」
まあ、とでも言いたげな、とても驚いたと言うような、(あるいはとても好奇心に満ちた声で)白藤の宮はそう言った。
その白藤の宮のなんだかとても楽しそうな声を聞いて、しまった、と思いながら、みちるは目を開けると、ずっと動かしていなかった頭を動かして上を向いて、白藤の宮の自分を見ている驚いた顔を見ながら「はい。います」とそう言った。
「その花火職人の友達は男の人ですか?」と白藤の宮はにやにやとしながらそういった。
「違います。女の子です。とても素敵な女性ですよ」とそんな白藤の宮の顔を見ながらみちるは言った。
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