都から遠く離れたこの古い森の中にある小さな古い家のことを白藤の宮は『鳥の巣』という名前をつけて呼んでいた。(白藤の宮は子どものころからずっと空を飛ぶ鳥に憧れているようにだった)

 この人気のない、尋ねるものも、みちるのほかに誰もいない静かな場所に、もう白藤の宮は十年以上、一人で暮らしていた。

 宮中で暮らしていた家とはまるで違うとても質素な作りの家。

 でも、白藤の宮はこの家をとても愛しているようだった。

 私の人生はこの森の中に、鳥の巣で暮らすようになって初めて本当の意味を持つようになったんですよ。

 と、とても嬉しそうな顔で白藤の宮はみちるによく言っていた。(その笑顔があまりにも素敵だったから、その言葉は白藤の宮の強がりや嘘ではないように、みちるには思えた)

 みちるは久しぶりに訪れた鳥の巣の中をゆっくりと観察する。

 確かにこの場所には、宮中にはない、穏やかで落ち着いた時間が流れている、とみちるは思った。

 そんなみちるのことを、なにか珍しいものでも見るような目をして、白藤の宮はお茶を飲みながら、ただじっと見つめ続けていた。

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