115 私はこの状況に付いて行けそうにないです

 私は夢を見ていた。

 大切な人が遠くに行ってしまうという嫌な夢を。

 大切な人が傷つき血を流すという嫌な夢を。

 

 夢なら早く覚めて、そんなことを思っていると、遠くから誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。

 

 ゆらゆらと揺れる水面のような、そんな揺れを感じながら私は目を覚ました。

 

 

 私の目の前には、幻想的なとても美しい顔があった。

 光を反射するように煌めく銀色の瞳に、絹のような美しく長い白髪の男性……。

 

 何故そうなっているのかは分からないけど、私は見たこともない男性の腕の中で目を覚ましていた。

 

 私が目を覚ましたことに気が付いたみたいで、その男性は綺麗な微笑みを浮かべて言った。

 

「シズヤ。よかった。目を覚ましたみたいだね」


 そう言って、私の胸に顔を埋めるようにしてから、鼻先を擦り付けた。

 そして、男性の行動に硬直している私に気が付いていないのか、その男性は私をぎゅっと力強く抱きしめてから、何故か更に私の胸に顔を深く埋めたのだ。

 

 身動きの取れない私は、見知らぬ男性の行動にただ震えていた。

 だけど、大きな怒鳴り声と衝撃に我に返ることになった。

 

「この変態駄犬!!静弥から離れろ!!死ね!!死に晒せ!!」


 そう言って、まさに鬼の形相となっていたかっちゃんに白い男性は横からどつかれて、吹き飛ばされていた。

 野上君に後ろから腕を掴まれたことで、私が一緒に吹き飛ばされることはなかったけど、一体これは……?

 

 私が、目の前の状況に目を白黒させていると、後ろの野上君がかっちゃんに説教を始めてしまっていた。

 

「ちょいちょい!!なんてことするんだよ!!もし、静弥ちゃんに当たってたらっていうか、一緒に吹き飛んだらどうするんだよ!!この馬鹿、脳筋バカ!!考えなしのおたんこなすのぱっぱらぱー!!」


「なっ!静弥に当たらないようにコントロールした!!それに、お前がフォローするって知ってたからな」


「はいはい。はぁ、それよりも、静弥ちゃんに説明してあげないとじゃない?」


「はっ!そう、そうだな……」


 そう言って、複雑そうな表情をしたかっちゃんは、とても嫌そうな顔で言ったのだ。

 

「静弥、驚くとは思うが、驚かずに聞け」


「カツ、頭痛が痛いみたいになってる。ワロス」


「黙れカス」


「まぁ、ひどぉい!!あたし泣いちゃう。ぴえん。ぴえーん」


「……」


「や、やめて……。そんな可哀相な人を見るような目で見るのは。お願いやめてください」


 あれ?なんかコントみたいな緩い空気?

 あっ、もしかして私を元気づけるために?

 

 二人のそんなやさしさに私は、覚悟を決めて頷いていた。

 だけど、いつの間にか私に近づいていた白い男の人に後ろから抱きしめられて、何故か膝の上に乗せられてしまっていた。

 

 そして、その白い男の人は不思議なことを言い出したの。

 

われが説明するよ。これは、我と嫁に関するとても重要な話だからね。下僕どもの口から語らせる訳にはいかないよ」

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