114 私は泣き叫ぶ事しかできなかった

 半狂乱になりながら、目の前の巨大植物に手を伸ばして、ほんの少し指先が触れた時だった。

 

 指先が少し触れただけなのに、体中の力が吸い取られていくのが分かった。

 それでも、中にヴェインさんたちがいる可能性があるのなら、助け出さなくてはと私はさらに手を伸ばしていた。

 

 バグった能力値に物を言わせて、植物の茎を砕くように力を入れる。

 すると、どす黒い茎がひび割れて、半空洞になっていた中が空気に晒された。

 

 私は必死にひび割れた茎を取り除くと、中でげっそりとやせ細った見覚えのある男性が姿を現した。

 

 その人を私は知っていた。

 ヴェインさんたちと一緒に魔の森に行った人のうちの一人だった。

 私は、その人の体を植物の中から引っ張り出して肩で息をしながらも、彼の容態を確かめるように手を伸ばした。

 

 弱いけど、息をしていた。

 脈も確かにある。

 

「生きてる……。よかった……。全員……を、た、すけ……」


 そこまで言ったところで私の意識はブラックアウトしていた。

 

 

 次に目を覚ました時、心配顔のかっちゃんと野上君が私のことを見下ろしていた。

 私が目を覚ますと、かっちゃんにものすごく怒られてしまった。

 

「どうしてそんな無理をしたんだ!!もっと自分のことを大切にしろ!!この馬鹿!馬鹿静弥!!」


 そう言って、かっちゃんは私のことを抱きしめて震えていた。

 ボンヤリする意識の中で、震えるかっちゃんの背中を撫でながら、何があったのか思い出そうとしたところで、頭にものすごい痛みが走った。

 だけど、痛みのお陰で頭が冴えてきた私は、かっちゃんに助け出した男性の容態を聞いていた。

 

「ごめんなさい。でも、私は……。それよりも、彼は?」


 私がそう言うと、かっちゃんは怒ったように私の頭を乱暴に撫でた後にデコピンをしたの。

 力は弱かったけど、かっちゃんの心配顔を見たら、心がすごく痛くなった。

 あんな泣きそうな顔を見たことが無かったから。

 でも、それでも私は、ヴェインさんの無事を確かめるまでは無茶を通さないといけなかった。だけど、そんなこと言える訳もなく。私はただ、かっちゃんに謝る事しか出来なかった。

 

 そんな私のこと分かってくれたのかは分からないけど、諦めたようにかっちゃんは言った。

 

「はぁ。もう、お前ってやつは……。お前が助け出した男は無事だ。だいぶ弱っていたが、命に別状はないそうだ」


「そっか……。よかった。それなら早く他の人も助けないと……」


 私がそう言って、立ち上がろうとすると、かっちゃんが慌てて引き留めていた。

 

「待て、お前はまだ休んでいろ。俺がやる」


「でも……」


「任せろ」


「うん……。かっちゃん、お願い。ヴェインさんとアーくんを……、二人を助けて」


「……。ああ、わかってる」


 そう言って、かっちゃんは巨大植物の前に移動してから、腰の刀に手を伸ばして構えていた。

 

 態勢を低くして、一気に刀を走らせた。

 だけど、巨大植物はかっちゃんの刀を容易に弾いていた。そして、弾かれたかっちゃんの刀は柄だけを残して刀身は全て砕けていた。

 

「ちっ、なんて硬さだ。傷一つ付いてない……だと?」


 そう言った後に、手を伸ばしてどす黒い茎を確かめるように触れた……、そう思ったところでかっちゃんの指先が吹き飛んでいた。

 私は、呆気にとられながらかっちゃんの指先から勢いよく噴き出す血を見ていた。

 目の前が真っ赤に染まっていくようだった。

 

「かっちゃん……、血が……。は、早く、血を、血を止めないと……」


「お前、慌てすぎ。これくらい大したことない。ちょっと痛いけどな」


 そう言って、吹き飛んだ左手の人差し指と中指の根元を切り裂いたシャツの切れ端で縛って止血していた。

 

「カツ、お前なぁ。もっと焦れよ……。指、吹き飛んだんだぞ?」


「いや、普通にいてーよ!だが、吹き飛んだものはどうしようもねぇ」


「あは!男前すぎだろうが!!って、静弥ちゃん!!顔真っ白!!」


「静弥!!悪い、驚かせたな。俺は大丈夫だ。大丈夫だから」


 私は、耳鳴りの所為で二人の会話が全く聞こえなかった。

 耳の奥で響く嫌な金属音を聞きながら、体が震えた。

 かっちゃんの指が無くなってしまったという衝撃に、私は泣き出してしまっていた。

 

「うぅ、かっちゃんの、かっちゃんの指……。血が、指が……。う、う、うわーーーん」


 もう私はぐちゃぐちゃだった。

 

 私は声が嗄れるまで泣き続けてた。

 そんな私を慰めるように、かっちゃんと野上君が代わる代わる声をかけてくれたけど、血と吹き飛んでいく指が目に焼き付いてしまっていた私は、パニックになっていた。

 

 パニックのあまり過呼吸を起こしそうになっていた私は、薄れていく意識の中で誰かの力強い腕に抱かれた気がして視線を上げた。

 

 霞む視界の中に、真っ白で長い髪の毛の人を見た気がしたけど、それを確かめることは私にはできなかった。

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