109 私は二人の背中を見送る
そんなことを思い出してしまった私は、口元を手で覆って、自然と潤んでしまう瞳でヴェインさんを見つめていた。
「今日は、えっちなことなんて何も無かったです……」
「……!あ、ああ。何も無かったな……」
そう言って、自然と見つめあっていた私たちに、アーくんは額に手を当てて生温い表情で言ったのだ。
ううぅ……。アーくんを呆れさせてしまったみたい……。
「
「!!ま、待ってくれ!!アークが居なくなったら、歯止めが利かなくなる!!頼む、いてくれ!!駄目な兄だと思われても仕方ないが、シズのためにもここにいてくれ!頼む!!」
「兄様?そんなことでどうするのですか?」
「だがしかし……。このままでは……」
「いいんじゃないですか?今は、婚前交渉も普通の時代ですし」
「いや、しかし……」
二人が小声で何やら話していたけど、全く聞こえなかった私は、足元で小さく鳴いて私の足に身を摺り寄せるシロを抱っこして二人の様子を見守っていた。
だけど、シロはお腹がすいているみたいで、寝間着の上から私の胸を舐めたり前足でふみふみしだした。
「きゅーん。わんわん」
「ごめんね。シロ、ご飯にしようね」
「きゅーん。はっはっ!!ぺろぺろ」
「あはは。くすぐったいよ。そんなに舐めても私はシロのお母さんじゃないからおっぱいは出ないから。あはは、もう、くすぐったいったら」
シロは、私の胸をご飯だと思っているみたいで、凄い勢いでぺろぺろ舐めるものだから、寝間着がびしょびしょになってしまっていた。
そんな私とシロに気が付いたヴェインさんは、慌ててシロを私から取り上げてしまっていた。
「シズ!!はっ、このエロ犬……。シズ、着替えてきなさい」
「そうですね。うわー、ブラまで唾液でびちゃびちゃ……。すいません、ちょっとシャワー浴びてきますね」
私がそういうと、シロが尻尾を振って「自分も水浴びしたい!!」とばかりに鳴いていたけど、ヴェインさんが小声で何か言うと大人しくなっていた。
「おい、エロ犬。いい加減にしないと、去勢するからな」
「わふっ!!きゅ~ん」
「ふん。猫かぶりめ……。シズ、先にシロに飯をやっておくからゆっくりしておいで」
「くすくす。ヴェインさんとシロは仲良しですね。ありがとうございます。でも、二人のお見送りもありますし急いで準備しますね」
そう言って、急いでシャワーを浴びてから身支度した私は、急いで朝食の準備をして二人と食べた。
当分の間、二人とご飯を食べられないと思うと寂しかったけど、お仕事なら仕方ないね……。
朝食後、事前にいろいろ準備していた収納バッグをもって二人を見送るため久しぶりに家を出ていた。
実は、一ケ月ほど前に、キャシーさんたちとお茶をした日の記憶がなくなった日から、街中の人が何故か私とヴェインさんを生温かい視線で見てくるようになったのだ。
あの日のことを聞いても、誰も何も教えてくれなかった。
ヴェインさんに聞いても、目を泳がせて聞いてほしくなさそうな空気を放つのだ。
だから、気になるけど私は何も聞かないことにした。
だけど、街の人からの視線に耐えられなくなった私は、家に籠りがちになっていた。
だけど、今日はヴェインさんとアーくんを見送るために勇気を出して家を出ていたのだ。
今日からヴェインさんとアーくんは、騎士団のお仕事で魔の森の調査に出かけることになっていた。
なんでも、数週間前からベルディアーノ王国側で魔物が溢れる事態が続いているのだというのだ。
しかし、フェールズ王国側では何の異常も起らなかったのだ。
今は、異常が起こらなかったとしてもこれから起こるかもしれないということで、騎士団でも指折りの騎士たち数人で調査に向かうこととなったのだというのだ。
だからかもしれない。
私があんな悪夢を見たのは。
ヴェインさんと離れるのが不安で、調査に向かうヴェインさんが心配で、それが行くところまで行ってあんな夢を見てしまったのだと。
そんなことを思いながら、シロを抱っこしつつヴェインさんの馬に乗せてもらっていた。
本当はシロにはお留守番してもらうつもりが、何故かついてきてしまったのだ。
「シロ、お留守番していて?お願い?」
「くぅーん……」
「はうぅ。シロ、ごめん!やっぱり置いていけないよ!!ヴェインさん、シロも一緒にお見送りしてもいいですか?」
「はぁ、シロはわざとあざとらしくしているように見えるのは気のせいなのか?いや、気のせいじゃないな。このエロ犬は……」
そんなこんなで、現在一緒にヴェインさんの乗る馬に揺られているわけなのです。
シロを抱っこしていると、お腹が空いてきたのか、私の胸を前足でふみふみしてきた。
「シロ?ごめんね。ご飯は帰ってからね?もう少し我慢してね?」
「くぅ~ん」
シロは、私の言葉が分かったのか、私の胸を枕にして眠ってしまった。
でも、やっぱりお腹がすいているのか、かすかに前足で私の胸をふみふみしていた。
「はぁ。シロのおやつを持ってくればよかったです……」
私がそんなことを言っていると、ヴェインさんが、私の胸で眠るシロを抱き上げたのだ。
「大丈夫だ。今のシロは別に腹が減っているわけではないと思う……。このエロ犬め……」
そんなこんなで、門の前まで到着していた。
出発するヴェインさんに用意していた収納バッグを渡しながら二人を見送った。
「ヴェインさん、これ。中に食べ物とかポーションとかいろいろ入れているので役立ててください」
「ああ、シズありがとう」
「ヴェインさん、お仕事頑張ってくださいね」
「ああ、行ってくる」
そう言って、ヴェインさんは屈んで触れるだけのキスをしてくれた。
私も、お返しとばかりに、ほっぺたにだったけどキスをお返ししていた。
私からのキスに嬉しそうな顔をしたヴェインさんは、またお返しとばかりにキスをしてくれた。
「……。兄様、早く帰ってこれるように、頑張りますから……」
「悪い!!シズも、ごめん。シズが可愛くて、ついな?」
「ヴェインさん……。私も、早く帰ってきて、もっとキスして欲しいです……。ちゅっ。気をつけていってらっしゃい」
「ああ。いってくるな。ちゅっ。ちゅっ」
そう言ったヴェインさんは、最後に私の耳元に唇を寄せて囁くように言ったのだ。
「帰ってきたら、大人のキス、いっぱいしような?」
そう言って、最後に私の唇に触れるように長めのキスをしてくれたのだ。
私は、赤くなる頬を両手で押さえながらも小さく頷いていた。
「ごほん。えー、兄様、そろそろ」
「ああ。シズ、行ってくる」
そう言って、颯爽と馬に跨ったヴェインさんは、アーくんと他の騎士の人たちを引き連れて街の外に走り出していた。
私は、遠くなるヴェインさんとアーくんの背中にお腹の底から声を出して送り出していた。
「ヴェインさん、アーくん!!気つけてね!!行ってらっしゃい!!」
「ああ、心配するな!!すぐ戻るから、シズこそ家の戸締りを気を付けるんだぞ!」
「シズ、行ってきます!」
私は、ヴェインさんとアーくんの背中が見えなくなってから、シロと家に帰ったのだった。
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