103 私は女子会に強制参加させられることになった
あの日、ヴェインさんとキスをした日から数日が経過していた。
あれからヴェインさんと何度かキスをしたけど、未だに大人のキスを教えてもらっていなかった。
私のことをとても大事にしてくれるのは十分わかっていたけど、私はヴェインさんに大人のキスを教えて欲しかった。
だけど、自分から言い出すことができずに日々は過ぎていった。
そんなある日のことだった。
商業組合に商品を卸しに出向いた時だった。
すべての手続が終わった時にキャシーさんが楽しげに言ったのだ。
「シズヤさん。知ってますか?ヴェイン補佐官の恋人の話」
その言葉を聞いた私は飛び上がりそうになっていた。
そんな私に気が付かなかった様子のキャシーさんは更に続けて言ったのだ。
「騎士団ではその噂で持ちきりだそうですよ。補佐官が休憩時間も使って仕事を片付けて愛おしい恋人に会うために早く帰ってるって話ですよ」
そう言ったキャシーさんは、いつもの5割増のニコニコ笑顔で言ったのだ。
「何でも、もの凄~~~~~く可愛くて、好きで好きでたまらないらしいですよ。その彼女さんのこと……」
なんとか平静を保ちつつも曖昧に返事をすることが精一杯だった。
「へ、へぇ~」
「あの、女性には優しくても、一定の距離をもって対応する紳士オブ紳士の補佐官が、その彼女さんにはベタあまで……」
キャシーさんの話す内容に私はどんどん顔が赤くなるのが分かったけど、どうすることもできずにただ俯いて小さく相槌を打つことしかできなかった。
「もう!シズヤさん!!」
俯きつつ、曖昧な返事をする私にキャシーさんは、もどかし気な声を上げてから、頬を膨らませて私に詰め寄ってきたのだ。
「それと、数日前に補佐官がムモモを籠いっぱいに買うのを沢山の人が目撃したんですって!はぁ~、きっと彼女さんと食べる気ですよ。キャ~。で、ムモモは美味しかったですか?」
そう言われた私は、あの実がムモモだということを初めて知った。
あの日、結局色々合って、果物のことを詳しく聞くことができなかったのだ。
そんな事を考えていると、キャシーさんはによによと口元を緩めて私のことをじっと見てきたのだ。
私は、キャシーさんの熱い眼差しに負けてつい答えてしまっていた。
「はい……。美味しかったです……けど」
私がそう言うと、更にによによとした表情を輝かせて私に詰め寄ったのだ。
「やっぱり!!ついに、補佐官とお付き合いすることになったんですね!!」
「あっ……」
キャシーさんの誘導尋問?に引っかかってしまった私は、顔を真赤にさせていたと思う。
下を向いてもじもじしていると、キャシーさんが言ったのだ。
「キャ~。もう、本当にシズヤさんが可愛いんだから!!ごめんなさいね。シズヤさんが可愛くてついついからかってしまいました。お詫びに甘いものを……、いえ、しょっぱい物をおごらせてください」
そう言ったキャシーさんは、何やら支度をしたと思ったらカウンターから出て私の背を押して商業組合から出ようとしたのだ。
私は、目を白黒させながらオロオロしていると、奥からスーナさんが現れて、私とキャシーさんの方に向かって飛びかかってきたのだ。
「シーにゃ~ん!!あんな男はやめて、あたしと熱~い一夜を♡」
そう言って飛びかかってきたスーナさんだったけど、見えない壁にでも突撃したような格好で声を上げたのだった。
「ヘブッ!!」
「ちょっとぉ、シーにゃんに変なことしたら、ヴェインに八つ当たりされるのはあたしなんだから勘弁してほしいわ」
そう言って、商業組合に何故かいるエレナさんが腕を組んでため息交じりに言ったのだ。
そして、気がつくと私とキャシーさんとスーナさんとエレナさんでお茶を飲んでいた。
私は、三人に連れられたカフェで、お茶を啜りながら三人からの質問にどう答えていいのか分からず曖昧な表情で曖昧に頷いていた。
「ねぇ、ヴェインからシーにゃん告白したんでしょ?それで、二人はどこまで行ったのよ」
「ああ、分かります。補佐官からっぽいですよね?こう、補佐官のシズヤさんを見つめる目は、もう、なんていうか、キャ~って悲鳴を上げたくなる感じでしたから。もう、組合の女子職員の間では、いつ二人が付き合うのかって、いっつも話してたんですよね」
「うぅぅ。あたしのシーにゃんがぁ。でも、シーにゃんさえ良ければ、ヴェインを交えて、ぐえっ!!」
「ちょっとぉ。ヴェインがそんなこと許すはずないでしょうが!!想像したことが知られたら、きっと殺されるわよ……。あいつなら殺りかねないわ……。これはマジな話よ」
「そうです。想像するだけでもアウトですよ!!噂ではとある騎士が、シズヤさんに邪な思いを抱いていたことが分かった途端……」
「あぁ、あの事件ね……。あれは……、うん。あれはね…………、あはははは。それよりもよ!!シーにゃんは、ヴェインとキスはしたの?ハグは当然してるわよね?まっ、まさか大人の階段上っちゃったり?キャ~」
「マサカですよ。あの紳士な補佐官が、そこまで急性に事をすすめるとは……。でも、キャ~」
えっと、これは恋バナをする女子会でいいのかな?
私は、お茶と一緒に出されたフルーツを齧りながら、三人の会話をぼんやりと聞いていた。
出されたフルーツは、あの日ヴェインさんがお土産に買ってきてくれたものに似ていた。
だけど、あの時の果物は白い実で甘くて酸っぱい味がしたけど、今食べているのは不思議なことにしょっぱい味がした。
不思議なフルーツに首を傾げつつ大人しく噛っていると、エレナさんが楽しむような不敵な笑顔で言ったのだ。
「あぁ、そのフルーツ。不思議な味でしょぉ?」
そう言われた私は、頷いていた。
「うふふ。でも、その実には秘密があるのよ?聞きたい?聞きたいわよね!」
そう言って、私が返事をする前に、瞳を輝かせたエレナさんは、恋する乙女(?)のように胸の前で両手を組んでうっとりと言ったのだ。
「そのフルーツは、ヴェインから贈られたものと同じムモモよ。この実には秘密があるのよ。不思議なことに、陽の下で収穫した実は皮が赤くなって、しょっぱい味がするんだけど、月明かりの下で収穫した実は皮が黄色になって味も甘酸っぱくなるのよ?それで、ここからがその実の面白いところで、いつからなのか、月明かりの下で収穫した実を好意を寄せる相手に贈って、相手がそれを食べてくれたら思いが実るっていうジンクスがあるのよねぇ。それに、初夜に夫婦で食べると永遠に幸せになれるとかねぇ~」
「私も知ってますよ。あと……」
キャシーさんはそう言った後、何故か瞳を輝かせた後にエレナさんと声を揃えて言ったのだ。
「「初めてのキスの味!!キャ~!!」」
「阿呆らし。どうせ、思いが叶った後に、二人で実を食べて、その後キスしたからその味がするだけでしょが?」
「えぇ~、組合長は夢がないです!!」
「そうよぉ!!乙女なら誰しもが憧れるシチュエーションでしょう?」
「待て、あんたはそもそも男だろうが!!」
「あ゛あ゛ん゛?」
「ああん?」
そう言って、スーナさんとエレナさんは睨み合い始めたけど、私はそれどころではなかった。
だって、キスの味って……。確かに、初めてのキスは……、ってきゃー、私ってば何を、何を思い出しているの!!
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