102 私は恋の甘さを知る

 ソファーに座るヴェインさんに横抱きにされた状態で私は離れがたい思いから、されるがままに頭を撫でられていた。

 ヴェインさんは、優しく私の髪を梳くように頭を撫でてくれた。

 それが気持ちよくて、うっとりとしていた私は、今が何時でここが何処なのかということがすっかり頭から吹き飛んでいた。

 

 ヴェインさんの胸に頭を寄せるようにして凭れた状態でいると、ヴェインさんが言ったのだ。

 

「シーズ。大好きだよ。俺の可愛いシズ」


「えへへ。私も大好きです。ヴェインさん。好きです」


「くすくす。本当にシズは可愛いな」


「そんなことないです。私よりもヴェインさんの方が素敵です」


 私がそう言うと、楽しそうなヴェインさんの声が言ったのだ。

 

「くすくす。そっか。ありがとう。でも、俺のシズの方が素敵で可愛くて、甘くて砂糖菓子みたいだよ」


 私をべた褒めしてくれるヴェインさんの言葉が恥ずかしくて、また私の胸は高鳴っていた。

 だけど、ヴェインさんは私よりも大人だからなのか、余裕そうに見えて少しだけ悔しかった。

 私はヴェインさんの声や体温にこんなにドキドキさせられているのに、ヴェインさんは大人の余裕で私をまるごと包んでくれていたから。

 

 上目遣いで見上げたヴェインさんは、とても嬉しそうな表情で私のことを見つめていた。

 

 そんなヴェインさんを見ていたら、またキスがしたくなってきてしまっていた。

 ヴェインさんの温かくて柔らかい唇に自然と視線が吸い寄せられてしまっていた私は、無意識にヴェインさんの唇を指先でなぞっていた。

 ヴェインさんの薄くて形の良い唇をなぞった指を自分の唇に当てたところで、心の声がポロッと口を突いてしまっていた。

 

「ヴェインさん、好き。ヴェインさんともっとキス、したいな……」


 自分の発したあまりにもはしたない言葉に、羞恥心から一瞬で真っ赤になったけど、口から出てしまった言葉を取り消す術など存在しなかった。

 だけど、ヴェインさんはそんなはしたない言葉を放った私の唇に優しい口づけをしてくれた後に、困った表情で言ったのだ。

 

「俺も、もっとシズとキスがしたいよ。でも、時間切れみたいだ」


 そう言って、ヴェインさんがリビングの入口に視線を向けた。

 ヴェインさんが何をもってそう言ったのか理解できなかった私は、釣られるようにしてリビングの入口に視線を向けた。

 特に変わったことはなかったように思えた私は首を傾げていた。

 少しすると、玄関の方から騒がしい音が聞こえてくるのが分かった。

 あっと思ったときには遅かった。

 そう、ここはリビングで、日暮れ時だったのだ。

 この時間は、アーくんが帰ってきて、かっちゃんと野上くんがいつもご飯を食べに来る時間なのだ。

 

 ヴェインさんからのキスでうっとりしていた私は、リビングに入ってきたアーくんとかっちゃんと野上くんの姿を見て体から血の気が引く思いだった。

 

「ただいま。シズ?兄様はもう帰ってきてま―――」


「静弥?電気もつけずにどうし―――」


「おっじゃま~~……、おや?おやおや?おやおやおや!!!」


 そして私は、三人に思いっきりヴェインさんに甘えているところを見られてしまったのだ。

 もう手遅れだとは思ったけど、ヴェインさんの腕の中から脱出しようとした。だけどそれは無駄な抵抗に終わった。

 ヴェインさんに腰を抱きすくめられてしまいヴェインさんの膝から降りることができなかったのだ。

 恥ずかしさから、小さな声で抵抗の言葉を吐き出すもヴェインさんはなんだか楽しそうにしていた。

 

「やぁ、ヴェインさん……、降ろしてください……。アーくんたちに見られてますから……」


「くすくす。シズは本当に可愛いな。離し難いけど、可愛いシズの顔を俺以外に見せるのは嫌だから仕方ないな」


 そう言って、ギュッと抱きしめた後に私のことを離してくれたのだ。

 私は、アーくんたちになんと言っていいのか分からずに、言い訳めいた事を言って慌てるようにキッチンに向かっていた。

 

「お、おかえりなさい……。あっ、そうだ。ご、ご飯の支度が途中だったんだ。私……、ご飯の準備をしなくちゃいけないから……」


 そう言って、リビングを飛び出していたのだった。

 

 その後、いつもよりも遅い夕食の席はなんとも言えない空気が流れてしまったのは言うまでもなかった。

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