恋愛騒動編
96 私は思い知らされる
ヴェインさんの言葉に私は、どうしたらいいのか分からなかった。
抱きしめられていた事は恥ずかしかったけど、きょ……、するようなことでもないよ。
だから、私は慌ててヴェインさんにそこまでしないでいいと言いたかったけど出来なかった。
「ウホウホ!!」
ゴリラのままでは、会話もままならないのだ。
でも、元の姿に戻るのはまだ恥ずかしくて……。だけど、私がそんなことを悩んでいるうちに、ヴェインさんは身支度を整えて、私を抱きかかえて部屋を出ていたのだ。
ゴリラをお姫様抱っこするイケメン……。絵面が凄い事になっているけど、今はそれどころではなかった。
リビングには既にアーくんが居て、ゴリラな私をお姫様抱っこしているヴェインさんを見て驚いた顔をしていたのが分かった。
「兄様?シズも?一体どうしたのです?」
ソファーから立ち上がって、私達の方にやってきたアーくんは心配そうな表情で言ったのだ。
だけど、ヴェインさんはすごく堅い声音でとんでもないことを言ったのだ。
「俺は、人として、男として生きる価値のないダメ人間だ。けじめを付けるため、これから去勢しに行く」
「え?えーーーーー?!え?えーーーーーーー?!」
それを聞いたアーくんは、言葉もなく驚くことしか出来なくなっていた。
だけど、ヴェインさんの意思は堅いみたいで、驚くアーくんを残してリビングを通り抜けて玄関に向かおうとしたのだ。
だけど、それに気がついたアーくんは状況の理解は出来ていなかったみたいだけど、反射的にヴェインさんを引き止めていたの。
「兄様!!まって、待ってください!!えっ?去勢?待ってください!!えっ?だ、駄目です駄目です!!」
「止めるなアーク。俺は、ケジメを付けに行く」
「駄目です!!駄目です!!」
気が付くとリビングはカオスな空間になっていた。
ゴリラをお姫様抱っこするイケメンと、それに縋り付いて泣いているイケメンという、カオスな絵面が完成していた。
アーくんが泣いている姿を見ていたら、なんとしてでもこの場を治めないといけないという気力が湧いてきた私は、ヴェインさんときちんと話をするために、恥ずかしくはあったけど元の姿に戻ることにしたのだ。
急いで元の姿に戻った私は、慌ててヴェインさんを見上げて言ったのだ。
「きょ……、なんて止めてください!!アーくんが泣いてます!!それに、ヴェインさんは、何も悪いことなんてしてないです!!本当です!!朝起きた時、恥ずかしかったし、驚いたけど……。ヴェインさんなら…………」
そこまで言って、私は何を言おうとしたのかと、途中で言葉を止めていた。
私、ヴェインさんにならああいうことをされても良いって、思った自分に驚きを隠せなかった。
つまり、それって…………、ヴェインさんになら、お腹を触られてもいいって思ったってこと?
そんなことを考えていると、急に恥ずかしくなってきてしまった私は、きっと顔を真赤にさせていたと思う。
だけど、見上げた先のヴェインさんと目が合った瞬間、時間が止まったような感覚がした。
恥ずかしいのに目が逸らせなくて、だけどこのまま見つめ合っていたいような、世界に私とヴェインさんだけ存在しているかのような不思議な感覚に私は陥っていた。
そんな不思議な感覚は、呼び鈴の音で現実に引き戻されたのだった。
だけど、それと同時に、心臓が大きな音を立てて、今までにないほど体が熱くなるのが分かった。
その間も呼び鈴は引っ切り無しに鳴り続けていたけど、誰も動けずにいたのだ。
でも、ヴェインさんが最初に我に返ったみたいで、私をお姫様抱っこしたまま、部屋に引き返していた。
その時、アーくんに「アーク、後は頼む」と言っていたけど、私はそれどころではなかった。
私の部屋に戻る途中、騒ぎを聞きつけて部屋から出てきたかっちゃんと野上くんとすれ違ったけど、ヴェインさんは、二人に口を挟む隙きさえ与えずに、その横を通り過ぎて私の部屋に入ったのだ。
そして、部屋に入ったヴェインさんは、私をそっとその場に降ろしてくれたのだ。
見上げる形でヴェインさんの瞳を見ていると、私を優しく抱きしめて言ったのだ。
「シズ。ごめん。俺は最低な男だ。でも、シズが本気で好きなんだ。ごめん、ごめんな……」
そう言って、繰り返し謝罪の言葉を口にするヴェインさんになんと声を掛けていいのか分からず、私はただ抱きしめ返すことしか出来なかった。
どのくらいそうしていたのだろう、いつしか、ヴェインさんの口からは、謝罪の言葉だけではなく、恥ずかしくなるような甘く蕩けるような言葉がこぼれ落ちていた。
「シズが好きだよ。可愛い。愛してる。ごめんな?だけど、気がつけばシズのことが好きになっていた。シズの笑顔が好きだよ。恥ずかしそうに笑うところが可愛い、屈託なく笑う顔が可愛い、ニコニコとしているところが可愛い。素直なところが好きだよ。でも、少しだけ、そんな素直過ぎるところが心配だよ。だから、側でシズを守らせて欲しい。シズの笑顔を守りたい。好きだよ。好き、好き」
そう言って、私に恥ずかしくなるほどの甘く蕩けるような声でそう言っては、ギュッと抱きしめて、頭を優しく撫でて、耳元でまた、甘く囁く。
私は、心臓が破裂しそうだった。
ストレートに好意を伝えられて、ヴェインさんが本気で私のことを好きなのが分かったから。
ヴェインさんのいつもは少し低い体温が、いつもよりも高くて、くっついているヴェインさんからもドキドキと高鳴る鼓動が伝わってきて……。
だからなのか、すっと理解したのだ。
ああ、この人は私のことが好きなんだ……と。
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