95 彼女と迎えた朝、俺は責任を取ろうと思う
俺は、とても混乱していた。
目が覚めると、目の前には茶色の毛に覆われたシズがいたのだ。
以前も見たから直ぐにゴリラになったシズだと気がついたが、これは一体どういうことなのだ?
確か……、そうだ。
セレフィンの所為で、シズと離れられないようになって……。
それで、一緒に風呂に入り…………、そこまで思い出したところで意識が落ちる寸前までの記憶が蘇ってきた。
無防備なシズと湯船に浸かって、限界に達した俺は……、一刻も早くシズに服を着て欲しくて彼女を抱き上げて湯船から上がったが、アレは失敗だった。
目隠しをした状態で、湯船に浸かる彼女は、まるで俺を試しているかのように、色々と悩ましい姿だった。
なんというか、そう、倒錯的な姿で俺は心を無にしてこの天国のようで地獄な時間をやり過ごしていたのだ。
彼女から、上がろうと声がかかった時、一刻も早くこの天国のような地獄から抜け出したかったために、彼女を抱き上げたのだ。
しかし、彼女の火照った滑らかな肌に触れてしまった俺は、限界のさらに先に来ていたと思う。
シズから支度が終わったと聞いて、目を開けた瞬間に意識がぶっ飛んだのだった。
まぁ、鼻血を吹き出すという醜態をシズに晒さなかったことだけは、自分を褒めたいと思うよ……。
その後、一つの寝具で寝たはいいが、隣に感じるシズの体温に眠れるわけもなく。
だが、精神的な疲労から明け方に意識を失うように落ちていたのだ。
そして、今目の前には、ゴリラ化したシズが居るわけで……。
そこまで考えたところで俺は、自分の格好を再確認していた。
ゴリラ化したシズを背後から抱きしめるような格好で、しかも足を絡めるようにしている……。
自分の格好を改めて確認した俺は、さっと血の気が引いていった。
全力でシズから離れるのと同時に、無意識にシズにいやらしいことをしてしまったのではないのかと言う考えが頭を過ぎっていたのだ。
「シズ、すまない!!」
俺がそう言うと、目が覚めていたのだろう、シズが言ったのだ。
「ウホウホ……。ウホウホウホ」
シズ……、本当にすまない。何を言っているのかわからない……。
そんなことを思っていると、シズがその事に気がついたようで、何かを出してから俺にそれを見せたのだ。
それは、一冊のノートだった。
それには、こう書かれていた。
『ごめんなさい。えっと、朝起きたら、ヴェインさんに抱かれていて、恥ずかしくて……、それで焦ってゴリラになっちゃいました。えっと、気恥ずかしくて……期限までゴリラのままでいようと思います』
そう書かれていたのだ。
そして、俺は驚愕した。
俺に抱かれた?
俺は、寝ている間にシズを抱いてしまったというのか?
寝具にそれらしき痕跡は無いが、シズの言い方から自分ですべて片付けた可能性はある……。
と言うか、無意識にシズを抱いて、その事自体を覚えていない上に、後始末も彼女にさせるなんて俺はなんて最低な男なんだ。
それなのに、彼女は俺を責めることもなく……。よし、結婚しよう。
「結婚しよう」
「ウホ?」
はっ!つい、思っていたことが口を突いて出てしまった。
いや、責任とか、口実とかそんな事関係ない。
俺がシズを幸せにしたいんだ。
既成事実を作ってからというのも、男として最低だが……。
だが、俺はシズを世界一幸せにすると誓う。
「シズ、聞いてくれ。俺は、シズに誠実な男でいたい。だから、嘘は言いたくないんだ。だから、最低なことをした俺を許さなくてもいい。だが、俺は本気なんだ」
俺の必死の言葉を聞いたシズは、「ウホ?」と言って首を傾げていたが、俺の言うことを最後まで聞いてくれた。
「眠っているシズを無理やり抱いた俺は最低な男だ。だけど、俺は本気でシズが好きなんだ。シズを世界一幸せにすると誓う。だから、俺と結婚してくれ。俺と一緒になってくれ。俺とシズの二人で幸せになろう」
精一杯のプロポーズをした俺だったが、次のシズの反応で、自分の最低さを思い知ることとなった。
『無理やりだなんて……。あれは、無意識みたいだったし、恥ずかしかったけど、事故みたいなものです。だから、私は大丈夫です』
やっぱり俺は最低な男だ。無意識に、眠っているシズに自分の欲望をぶつけるだなんて……、男として最低だ。
「分かった……。それなら、男として責任を取る。俺は……去勢する」
俺が決意を込めてそう言うと、シズはキョトンとした表情で首を傾げていた。
その姿も可愛らしく思える俺は、自分の浅ましい男の欲にウンザリしながらも続けて言ったのだ。
「俺は、生殖器を切除して男として責任を取る!」
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