94 私と最大のピンチ
湯あたりで倒れたヴェインさんをアーくんたちに手伝ってもらって、私の部屋に運んでもらった。
部屋に入るなり、かっちゃんが無言になり、アーくんと野上くんが水を持ってくると言って出ていってしまった。
私は、布団に横になるヴェインさんの横に座って、まだ濡れたままの髪の撫でていると、無言で立っていたかっちゃんが、大きなため息を吐いていた。
「どうしたの?」
私がそう聞くと、かっちゃんは呆れたように言った。
「お前なぁ……。無防備が過ぎるというか……。流石にヴェインに同情する……」
「えっ?なんのこと?」
そう言って、立ったままのかっちゃんを見上げていると、何故かぷいっと顔を逸らされてしまった。
そんなかっちゃんに首を傾げていると、お水を持ってアーくんが戻ってきてくれた。
野上くんの姿が見えなかったので、アーくんに聞くと……。
「眠そうだったので、寝かしつけてきました」
って、言われてしまった。さっきまでそんな感じはなかったけど、付き合わせてしまって申し訳なかったと思っていると、アーくんが独り言を言っていたけど聞き取ることが出来なかった。
「ソウは、この状況を面白がりすぎです。あんなお労しい兄様を笑うなんて……」
アーくんに何か言ったか確認しようとしたけど、その前にヴェインさんが目を覚ましたため、私は彼に謝っていた。
「ヴェインさん、ごめんなさい。長湯に付き合わせてしまって……。私の所為でのぼせさせてしまって……」
そう言って、しゅんとなった私にヴェインさんは優しく言ってくれた。
「いいんだ。これは俺の忍耐の無さの問題だ……。シズの所為じゃない。それに、元を正せばセレフィンの所為だしな」
そう言って慰めてくれたのだ。
そんな優しいヴェインさんに感動していた私は、アーくんから受け取ったお水をヴェインさんに飲んでもらおうと、体を起こすのを手伝ってから、口元にコップを持っていった。
ヴェインさんは、美味しそうにお水をゴクゴクを飲んだ後に、濡れた口元を右の親指でぐっと拭っていた。
そんな何気ないヴェインさんの仕草に何故か見惚れてしまっていた私は、アーくんの声に我に返っていた。
「兄様も大丈夫そうなので、僕たちも寝ますね」
「う、うん。ありがとう。おやすみなさい」
そう言った後、髪を乾かして寝ることにした私とヴェインさんだったけど、ヴェインさんは中々寝付けないようで、何度も寝返りを打っていた。
「シズ?もう寝たのか?」
はい。なんですか?そう言いたかったけど、眠気から声が出なかった。
返事のない私にヴェインさんは、続けて言った。
「シズは、無防備過ぎで色々と心配だよ」
えっと、心配を掛けてしまってごめんなさい。でも、私は大丈夫です。ヴェインさんが居るから。
そんな、声なき声で返事をしていたけど、私は本格的な眠気の波に揺られて次第に意識が遠くなっていった。
そんな私は、夢うつつにヴェインさんの声を聞いていたけど、もうなにも考えられなかった。
「やばいな……。3日もなんて俺が持たない気がする……。何とかしないと……」
翌日、私は金縛りにあったように身動きが取れない状態で意識が目覚めていた。
指先は動くけど、全身を何か硬いもので覆われているようだった。
初めての心霊体験に、恐る恐る目を開けると目の前にガッチリとした腕が見えたのだ。
一瞬驚いたけど、その腕がヴェインさんの腕だと気が付いた私は、どうしてこうなったのかと首を傾げていた。
「えっと、確か……。そうだ。手枷のせいで一緒に寝たんだった……。でも、どうしてこんなことに?」
そう、私は背後からヴェインさんに抱きしめられるような体勢になっていたのだ。
抜け出そうにも、肩とお腹をガッチリとホールドされていて抜け出すことが出来なかった。
足もヴェインさんの両足で絡められるようになっていて全く身動きが出来ないでいた。
ヴェインさんは、ぐっすり眠っているようで、私の後頭部に顔を埋めるようにしてスヤスヤと寝息を立てていた。
頭に、ヴェインさんの寝息を感じてとてもくすぐったく思っていたら、お腹に回っていた腕ピクリと動いた気がした。
もしかして起きてくれるのかなと思っていたら、ヴェインさんが私のお腹をヤワヤワとしだしたのだ。
いつの間にか、金太郎スタイルの布が捲られていて、ヴェインさんの硬くてタコのある指に素肌を撫でられていたのだ。
鍛えられていない私のぽよぽよのお腹をサラサラと撫でるヴェインさんに私は小さく声を上げていた。
「ひゃっ!えっ?ヴェ、ヴェインさん?!待って、お腹は駄目です。こんなぽよぽよのお腹……。ヴェインさん、起きてください!」
そう声をかけるけど、全然起きる気配がなかった。
もしかして、ヴェインさんって寝起き悪い人?それとも、体内時計の決められた時間に目が覚めるタイプ?だから、時間にならないと絶対起きないって人なの?
そんな事を考えていると、首の後に柔らかいものを感じたと思った次の瞬間小さな痛みが走っていた。
だけど、それよりも私には、これまでで最大だと思われるピンチが訪れていたのだ。
お腹を撫でていた手が段々上に上がってきていたのだ。
このままでは……、そこまで考えた私は、我慢できずに大声を上げていたのだ。
「だ、駄目ーーーーーーーー!!!」
そして……。
ゴリラスキルをオンにしてこの拘束を抜け出そうとして、慌てすぎてゴリラスキルではなく、スキンの方をオンにしていたのだった。
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