97 私の心

 ヴェインさんの気持ちに気がついた私は、無意識に言葉が出ていた。

 

「ヴェインさんは、私のことが好きなんですね……」


 私の無意識に出た言葉を聞いたヴェインさんは、少しだけ抱きしめる力を緩めて、私の顔を覗き込むようにしながら、柔らかい表情で言ったのだ。

 

「ああ。シズが好きだよ」


 そう言って、煌めく瞳を細めて私を見つめたのだ。

 視線が合った私は、鼓動が高鳴るのを感じた。

 今まで、何度も顔を合わせていたはずなのに、急にヴェインさんの顔を見ることが出来なくなってしまった私は、視線をそらそうとしたけど、出来なかったのだ。

 いつもよりもキラキラして見えるヴェインさんの瞳をもっと見ていたいと思う気持ちが勝っていたみたいで、ドキドキする胸を抑えながら、どうしても目を逸らすことが出来なかったのだ。

 

 どのくらいそうしていたのだろうか、ふと私は気がついてしまったのだ。

 ヴェインさんの瞳に映る私の顔を見て、このもどかしい気持ちが何なのかを。

 彼の瞳に映る私の顔は見たことも無いくらい真っ赤になっていたけど、幸せそうな表情をしているように見えた。

 

 そっか……、私…………。

 

「私、ヴェインさんのことす―――」




 バターーーーーン!!!



 

「ヴェイン!!調子はどうだ?!」


「殿下、今は不味いです!!」


 そう言って、セレフィン殿下とその後を追って、アーくんが部屋に入ってきたのだ。

 そして、部屋の中にいる私とヴェインさんを見たセレフィン殿下は、顔を楽しそうなものに変えて言ったのだ。

 

「ふむ。これはこれで楽しそうな状況になっているではないか?シズヤさんを妻に迎えることは無理そうだが、お前の嫁なら、私の嫁も同然だな。それなら、今後も楽しめそうだ。くくっ」


 そう言った後に、セレフィン殿下はヴェインさんに向かって何かを放り投げてから、去り際に言ったのだ。

 

「お前が余りにもとろとろしているから、私なりの声援のつもりだった。まぁ、シズヤさんが私になびいてくれても全然構わなかったのだがな。くくっ」


 そう言って、呆気にとられる私達には目もくれずに、セレフィン殿下は帰ってしまったのだ。

 

 一番早く我に返ったヴェインさんは、近くに落ちていた物を拾って、疲れたように言っていた。

 

「はぁ。あいつのお節介は迷惑以外の何物でもない……。だが、今回ばかりは少しだけ感謝だな……。癪にさわるが……」


 そう言った後に、私とヴェインさんを繋ぐ鎖はあっけなく外れていた。

 驚いてヴェインさんの手元を見ると、丸い宝石のようなものが握られていた。

 私の不思議そうな表情に気がついたヴェインさんが、苦笑いの表情で説明してくれた。

 

「これは、解錠のアイテムだ。セレフィンのやつに良いように遊ばれたみたいだ……。だけど、そのお陰で俺の気持ちはシズに伝わったから、少しだけセレフィンには感謝だな……。ところで、さっきシズは俺になんて言おうとしたんだ?」


 そう言って、いつも以上にキラキラして見える笑顔で私のことを見つめてきたヴェインさんの瞳と目が合った私は、自分が言いかけた言葉を思い出して、急に恥ずかしくなってしまっていた。

 さっきまでは自然に口にできた言葉が、急に喉の奥に引っかかってしまったように、出てこなくなってしまったのだ。

 きっと、真っ赤な顔で口をハクハクさせる私はとんでもなく間抜けな顔をしていると思う。

 だけど、さっき口にしようとしたあの言葉が、とても大きな塊だとでも言うかのように支えて出てこなかったのだ。

 そして、最終的に出てきた言葉はとてもお粗末なものだった。

 

「あ、あの……、えっと……、その……、あの……、す……、す……す……しゅきでしゅ!!」


 噛んだ……。肝心な言葉を噛んだのだ。

 

 あまりの自分の情けない発言に、何だが涙が込み上げてきてしまった。

 目の前がぼんやりとしてきて、少しでも瞬きをしようものなら、涙を流してしまうと感じた私は、ひたすら涙をこぼさないように堪えれていた。

 これ以上情けない姿を、晒したくなかったのだ。

 だけど、ぽろっと、一滴溢れてしまった後は、堤防が決壊したかのように溢れて止められなかった。

 

 それを見たヴェインさんは、慌てて私の涙を拭ってから、壊れ物でも触るかのように優しくその腕に抱きしめてくれたのだ。

 

「ありがとう。俺もシズが好きだよ。嬉しい」


 そう言って、私の額に自分の額をくっつけたヴェインさんの空のように澄んだ青い瞳も潤んでいたのだった。

 

 お互いに潤んだ瞳で見つめ合っていると、なんだか可笑しくなってきてしまって、自然に二人でおでこをくっつけたまま微笑み合っていた。

 

 一頻り笑ったヴェインさんは、私の頬に手を添えて甘い声音で言ったの。

 

「好きだよ。シズ……。大好きだ」


 そして、ヴェインさんの顔がゆっくりと近づいてきたのを見た私は、これからキスされちゃうんだと分かって、心臓が飛び出るのではないかと言うほど高鳴ったけど、キスをされると思うと、恥ずかしくも合ったけど、嬉しさも合って、自然と目を瞑っていた。

 だけど、いつまで待っても唇に触れるものはなかった。

 少しだけ残念に思いながら、そっと目を開けると、困ったような表情で部屋の外に視線を向けているヴェインさんが目に入った私は、釣られてヴェインさんの見ている方を向いて驚きに目を丸くする事となった。

 

 視線を向けた先には、出ていったと思っていたセレフィン殿下が腕を組んで楽しそうにこちらを見ていたのだ。

 それに、暴れるかっちゃんを羽交い締めにするアーくんと、かっちゃんの口を塞ぎながら、セレフィン殿下同様に楽しそうな表情でこちらを見ている野上くんがそこに居たのだ。

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