89 私はヴェインさんと殿下のやり取りに困惑する
ヴェインさんの登場に少しだけ安心していた私だったけど、王子様にこんな口の聞き方をしてヴェインさんは大丈夫なのかとだんだん心配になってきていた。
それなのに、二人はお互いの身分とか全然気にしていない感じで話が進んでいっていたのだ。
「おや?ヴェインじゃないか?見回りか?それはご苦労だな」
「ああ、道端で困っている女の子を助けるのも俺の仕事の内だ。だから、迷惑行為はやめろ。で、すぐに王宮に帰れ。お前、また護衛を撒いてきたのか?」
「ふふふ。私に撒かれるようではまだまだだな」
「はぁ……」
王子様に対して、親しい友人に話すように気軽に会話をするヴェインさんだったけど、私の様子に気が付いてくれたみたいで、状況を説明してくれたのだった。
「シズ、ごめんな。こいつとは、腐れ縁の悪友なんだよ。同い年ということで、学園で共に学んだ間柄と言うか……。公式の場では恭しく接するが、非公式の場では何時もこんな感じなんだよ」
「お、おともだち?」
「まぁ、そんな感じだ……」
ヴェインさんが、微妙な表情でそう言うと、セレフィンさんは、然も心外だと言わんばかりの表情で肩を竦めて言ったのだ。
「ヴェイン……、私たち大親友だろう?学生時代は苦楽を共にし、卒業後も互いに切磋琢磨する間柄じゃないか?」
「どの口が!!学生時代の苦行は全部お前の尻拭いだ!!卒業後だって、何だかんだ理由をつけては、中隊本部に気軽に来やがって!!」
「まぁまぁ」
「お前なぁ……」
なるほど、二人は学生時代からのお友達なんだ。それなら、王子様に対して、気軽に話しても大丈夫なのかな?
ヴェインさんの学生時代かぁ。
きっと、同級生の女の子とかにモテモテだったんだろうなぁ。
「はぁ……」
「シズ?疲れたか?」
あれ?私どうしてため息なんて?
疲れてたのかな?う~ん、またこう、お腹らへんがモヤモヤしてきたのはどうしてなのかな?
もしかして私、悪い病気にでも掛かっているのかも……。
それならと、考えた私は、アイテムリストからポーションとキュアポーション一式を出して、飲みだしていた。
これを飲めばきっと、謎のモヤモヤもなくなるはず。
そんな訳で、突然ポーションを飲みだした私にヴェインさんは、驚いていたけど何も言わずにいてくれた。
数本のポーションを「ぷはっ!」とがぶ飲みした私は、改めてヴェインさんにお礼を言っていた。
「ヴェインさん、ありがとうございます。私、どうしたらいいのか分からなくて……。それに、セレフィン殿下……、とお呼びしても?」
不敬にならないように、セレフィンさんに改め、セレフィン殿下にそう尋ねていた。
すると、セレフィン殿下は、一際優しい微笑みを浮かべて言ったのだ。
「嫌です。私のことは、セレフィンと気安く呼んで欲しいです」
まさかの返事に私は、困惑していた。
気安すぎるその呼び方は出来ないと、首を横に振っていると、周囲の温度が少しだけ低くなったような気がした私は、驚きに顔を上げていた。
すると、セレフィン殿下が一瞬だけ意地悪そうな表情をしていたような気がしたけど、気の所為だったみたいで、変わらず優しそうに微笑んでいた。
そのことに首を傾げていると、セレフィン殿下は、さっきよりも強めに要求してきたのだった。
「私がいいと言うんです。セレフィンと気安く呼んでいいんですよ?」
表情と言い方はとても優しげだったけど、紫水晶の瞳は何故か冷たい光を放っていたように感じた私は、思わず息を呑んでしまっていた。
すると、ヴェインさんがセレフィン殿下と私の間に立って、私を庇うように言っていたのだ。
「セレフィン!!お前の悪い癖が出てる!!シズは普通の女の子なんだ!!お前の好むような女の子じゃないから、そういう空気を出すのはやめろ」
「くすくす。お前って、意外と過保護だよね?ふ~ん。そう?そうなんだ?」
「悪いか?」
「別に。むしろその方が私にとって2倍美味しい状況だ。くくく。これは、どう転がっても楽しくなりそうだ」
そう言って、セレフィン殿下は楽しそうに笑っていたけど、それに比例するようにヴェインさんの機嫌は急降下していったのだった。
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