90 私と手枷

 どうしてこんな事になってしまったのかと右の手首に付けられた手枷を見つめてため息を吐いていた。

 すると、心配した表情のヴェインさんが眉を寄せて私に謝っていた。

 

「シズ、こんな事になってすまない……。どうにかしてこの枷を外すから、シズは何も心配するな」


 そう言って、私の頭を撫でたのだ。

 だけど、私を励ますように話しているヴェインさんの左の手首にも同じ様に手枷が付いていたりするのだ。

 

「ヴェインさんも私と同じ被害者?なんですから、謝らなくていいです。それに、セレフィン殿下のお話だと、3日で外れると言う事でしたし、それくらいなら―――」


「駄目だ!!これがあるせいで、俺達は1メートル以上離れられないんだぞ?それは困るだろう?」


 そう、私とヴェインさんのそれぞれの手首に付けられている手枷には1メートル程の細い鎖が付いていて、その鎖で私とヴェインさんは繋がれていたのだ。

 私としては、1メートルもあれば十分だと思うんだけど、ヴェインさんは私と四六時中一緒にいるのが嫌なのかな……。

 そんな事を考えると、ちょっとだけ悲しかった。

 でも、そうだよね。お仕事の邪魔になるし、私がいたら迷惑だよね……。

 

「私は、ヴェインさんと一緒でも構わないですけど、ヴェインさんは、私と一緒にいるのは嫌なんですね……」


 言うつもりはなかったけど、つい思っていたことが口に出てしまっていた。

 私は、もう遅いと思いつつも口を塞いでいた。

 だけど、ヴェインさんにはバッチリ聞こえていたみたいで……。

 

「いや、俺だって、四六時中シズと居られるのはとても嬉しい。だが、この状況では風呂やトイレ寝るときなど困るだろう?」


 そう言われた私は、そこまで考えていなかった自分の迂闊な言葉に真っ赤になってしまっていた。

 確かにそうだよ。

 トイレしている音とか聞かれるの絶対に嫌だし、お風呂は入りたいけど……、目隠し?目隠しして入れば、セーフ?セーフだよね?

 寝る時は……、まぁ、一緒に寝てもそこは別にいいかな?

 

 そうだ、家トイレを音が出るように改造しよう!!そうすればバッチリ解決だよ!!

 一瞬でそこまで考えた私は、ヴェインさんを安心させるように言っていた。

 

「大丈夫です!!トイレを改造するので!お風呂はお互いに目隠しして順番に入れば解決です!!お仕事のことも安心してください。お邪魔にならないようにしますから」


 そう言って、心なしキリッとした顔でそう言ってみた。

 だけど、何故かヴェインさんの方が泣きそうな表情になっていたのはどうしてなのだろうか?

 

 王宮から帰る前に、ヴェインさんが中隊本部に寄ろうとしたけど、セレフィン殿下の一言で家に真っ直ぐに帰ることとなったのだ。

 

「ヴェイン、私の護衛として王宮まで赴いて貰ったと、そう連絡をしておいたぞ。そうしたら、シルフェード中隊長から、直帰していいと返答を貰っているから、そのまま帰ってもらって構わないぞ」


 そう言っていたセレフィン殿下はとても楽しそうに笑っていた。


「お前が言うな!!」


 セレフィン殿下の言った内容を聞いたヴェインさんは、そう言い放ってムッとした表情になっていたっけ。

 

 その後、家に帰った私は早速トイレの改造を済ませていた。

 これで、ひとまずは安心だね。

 だけど、ご飯の用意をする間、ヴェインさんにもキッチンに立ってもらうことになって、申し訳ない気持ちで一杯だったけど、ヴェインさんはなんだが楽しそうだった。

 

 二人で協力して夕食の準備を終わらせたタイミングで、アーくんが帰ってきたのだ。

 そして、それから直ぐにかっちゃんと野上くんも家に訪ねてきていた。

 

 三人は、私とヴェインさんを繋ぐ手枷を見てアーくんは、驚きの表情をして、かっちゃんは、怒ったような顔で、野上くんは、何故か目尻を下げて、ちょっとだけいやらしい感じの顔になっていた。

 

「えっ?兄様?シズ?これはどういうことですか?!」


「おい!!ヴェイン、この野郎!!しずになんてことしてくれやがる!!ぶっ殺すぞ?!」


「うへぇ~、ヴェイン兄さんって、そういうプレイがご趣味で?ぐふ。いいご趣味ですね?なんから、俺がきんば―――」


 野上くんが何かを言っている途中だったけど、アーくんとかっちゃんの妙に息のあった動きで途中で口を閉じていた。

 きんばって、金歯のことかな?

 金歯と言えば私、密かな自慢なんだけど、虫歯になったことがないんだよね。

 ってことは、ヴェインさんが?

 そう言えば、こっちの世界って歯医者さんってあるのかな?

 なんとなく気になった私は、ヴェインさんに言っていた。

 

「ヴェインさん、ちょっと屈んで、お口をあーんしてください」


 私がそう言うと、首を傾げながらもヴェインさんは、少し屈んで口を開けてくれた。

 私は、ヴェインさんの頬に手を添えた状態で、口の中を覗き込んでいた。

 うん。ヴェインさんも虫歯ゼロだね。

 

「ありがとうございます。ヴェインさんも虫歯ゼロですね。そうなると、野上くんが言っていた金歯って、なんのことだったんだろう?」

 

 私がそう言って、首を傾げていると、ヴェインさんが真剣そのものな表情で言っていた。

 

「シズ、ソウがいやらしい表情をしているときの発言は無視した方がいい」


「は、はい……?」


 ヴェインさんの真剣な物言いに、理由を聞くのはいけないことのような気がして、私はただ頷くことしか出来なかった。

 

 私とヴェインさんがそんな事をしている間も、アーくん達は色々と言っていたようで。

 アーくんが代表するように、私とヴェインさんに言ったのだ。

 

「兄様、シズ、二人に一体何があったのですか?」


 そう言われた私とヴェインさんは、お互いに顔を見合わせてからこれまでの事を話すこととなったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る